とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

探偵の探偵/松岡圭祐 著

2015-02-25 21:58:40 | 読書
探偵の探偵 (講談社文庫)
クリエーター情報なし
講談社


探偵の探偵2 (講談社文庫)
クリエーター情報なし
講談社


松岡圭祐の新シリーズが始まった。催眠シリーズ、千里眼シリーズ、万能鑑定士シリーズなど独特のジャンルを開拓していて私の大好きな作家だ。相変わらず、執筆のスピードが速く、来月には第3作が刊行される予定である。万能鑑定士シリーズは、ひとまずお休みになってしまったのか?新シリーズが出るのは嬉しいが、他のシリーズ物も今後どうなるのか気にはなる。

さて、この「探偵の探偵」という新シリーズは、探偵という職業を根底からひっくり返し、今まで誰もこんな話を考えた人がいないだろうというほど、前代未聞の設定になった小説だ。普通の推理小説に登場する探偵といえば、だいたいが善意の持ち主で、犯罪を見事な推理力で暴き、悪を懲らしめるといった役柄になる。最初は、犯人がわからなくても、探偵の名推理でめでたしめでたしで終わるケースが多い。ところが、この作品に出てくる探偵といったら、ほとんどが悪徳探偵ばかりだ。良く考えてみれば、現実的に探偵が犯罪を起こした犯人を捕まえるといった事はないだろう。そんなことが出来るのは警察である。現実の世界で、探偵がやっている仕事といえば、個人からの依頼では浮気調査、所在調査、家出人捜索調査等である。また、法人からの依頼では、企業信用調査、人事調査、市場調査等となる。どちらかといえば、正義の使者という訳ではなく、対象者を密かに尾行したり盗聴や盗撮を行い、いろんな方面から対象者の情報を集めて依頼者に報告するという職業である。小説に出てくる探偵と現実の探偵のやっていることは、かなりギャップがあるのだ。どちらかというと、後ろめたい仕事になりかねない職業であり、調査結果が悪用されプライバシーが侵されてしまうという問題をはらんでいる。つまり金儲けになるなら何でもやるような悪徳探偵なら、ストーカーから依頼があれば、被害者の住所を調べ上げて報告してしまうという事もあり得る。世間でよくあるストーカー殺人事件なども、影でこういった悪徳探偵の調査が絡んで事件に発展している可能性もあるということだ。

この作品に登場するヒロインの紗崎 玲奈(ささき れな)は、21歳で身体はモデルのように細く腕と脚が長い。化粧は薄く、ほとんどノーメイクに近い。物憂げな表情と冷ややかな態度、すわった目つきが特徴で、めったに笑わないうえ無駄口も叩かないという設定である。彼女の妹が、ストーカー被害にあい困っていた。その後、見つからないよう、よその県に引っ越したものの探偵の調査をもとにストーカーに見つかってしまい、殺されてしまう。玲奈は、妹の復讐を誓い、調査を行った探偵を突き止めるため、大学進学をあきらめ、あえて探偵となる。探偵といっても、その対象も探偵である。悪徳探偵を専門に探偵し壊滅させるのが目的の対探偵課に勤務することとなる。

万能鑑定士シリーズは、「面白くて知恵がつく 人の死なないミステリ」がキャッチフレーズだったが、このシリーズは、かなりハードボイルドな味付けでバイオレンスも満載である。ここまでやるのといった残酷な描写もあり、気が弱い人では退けてしまうくらいだ。しかし、命を狙ってくる悪徳探偵に、ぼろぼろになりながらも闘いを挑んでいく玲奈の姿を応援したくなる。悪徳探偵との戦いは、暴力だけではない。合法非合法問わずあらゆる調査手腕に精通し、頭脳と頭脳の戦いとなる辺りは、万能鑑定士シリーズにも通じる部分だ。調査手段の中には、ここまで明かしてもいいのだろうかと思える手段も公開されている。マニアックな人でなければ知らない事を良く調べて、うまく作品に組み込んでいるというのが松岡圭祐という作家の特徴である。

また、実在の場所や実際の出来事を盛り込み、ストーリーに現実感を与えているのも作者の得意とする手法である。特に親近感を持ったのが、ヒロイン玲奈の出身地が浜松で、静岡県立浜松北高校を出ているという設定が嬉しい。買い物は、浜北アピタでと書かれている部分もあり、浜松の地理や文化をしっかりリサーチしている。浜松の住人としては、これだけでニヤッとしてしまう。

シリーズは続いているので、今後どうなっていくのかわからないが、妹の復讐は果たせるのか気になる。腕力が強いわけでもなく、武闘家として抜きんでた才能があるわけでもないか弱いヒロインだが、どんな危険が予想されても躊躇しない勇気と機転を頼りに大の男に立ち向かう姿は魅力的である。続きを早く読みたいものだ。