prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「いつかA列車に乗って」

2004年01月02日 | 映画
まったく何の予備知識もなしに見たので、舞台劇の映画化かと思った。最初から最後までジャズバーの中で展開するからだ。そしたら、半世紀前の内田吐夢監督・灘千造脚本の「たそがれ酒場」のリメークというから驚き。

いつの時代の話なのかはっきりさせていないが、セットだけでなく、ストーリーの上でも娘に金を借りに来る母親とか、筆をいったん折った画家がまた描き出すとか古めかしい調子が目立っているのが、古き良きジャズのムードと合っている。オリジナルでは歌手の出世物語なのが、サックス奏者兼作曲家に変えて(このあたり監督の自己投影か)、加藤大治郎(剛の息子)が演じている。実際に吹けると強い。

むやみとカメラワークに凝らず、限られた空間を映像分割して見せる演出は、クラシックで堂にいったもの(監督第一作)。出てくるミュージシャンたちが本物のフィーリングを持っているのが、見ていてはっきりわかる。映画畑の人ではなく音楽畑の監督(荒木とよひさ)だから、むしろ今風の作り方にとらわれないのかもしれない。単一のストーリーで貫徹する作りではなく、さまざまな人物が出入りするのを一種ノンシャランに追っていくのが、ジャズの即興と合っている。

脚色の中島信昭って、「トラック野郎」とかを書いていた人で、なんでまた急に出てきたのだろう。不思議な出自の映画。
(☆☆☆★)


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