『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

震災短編『贖罪』4

2022-11-10 09:00:28 | 創作

 

 圭子が入室するなり、女医はその全身から「うつ」のオーラを感じ取った。

「いかがでしたか?」
 と優しく声をかけると、患者は疲れたような顔をあげて
「すこし…眠れるようになりました…」
 と、蚊の鳴くようなか細い声で応えた。

「そうですか。
 それは、よかったですね。
 食欲はいかがですか?」
「はい。あまり…」
 と、うな垂れたまま応えた。 

 女医は、生気のない患者を前に言った。
「どうも、少し、〈うつ〉のようですので、お薬を一種類増やしますね」
 圭子は、言われるままに、首肯した。

 この様子では、前回の続きは訊き出せないと踏んで、こう提案してみた。
「田川さん。
 今はお辛そうで、あまりお話し出来そうないようなご様子ですので、ご気分のいい時にでも、トラウマとなった出来事について、メモのようなものでも構いませんから、書いて持ってきては頂けませんか?」 

 圭子は、女医とほんのちょっとだけ目を合わせると、静かに
「はい…」
 と応えた。  

 女医は、患者の電子カルテに
〈パキシル 10㎎〉
 十四日分…を追加した。 
 そして、診断名の欄には、ASD〈急性ストレス障害〉、「抑うつ状態」と加筆した。

 医師から出された課題は、心を病む圭子にとっては、かなりシンドイほどの精神的エネルギーを費やす仕事だった。
 第一、恐ろしくて、何から書き出してよいかさえ見当が付かなかった。

             

               

 

 

 


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