『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

リアルファンタジー『名人を超える』35

2022-10-02 06:47:16 | 創作

* 35 *

 読む力をつけるべきである。

 それには自分で読むしかない。

 他人を当てにしても無駄である。

 まして学校ではほとんど何も教えてはくれまい。

                            養老 孟司

 

 *

 

「お父さん。

 必ずや、勝ってみせます。

 どうぞ、お力添えをお願いします・・・」 

 カナリは、首に付けたロケットの父の肖像に手を当てて、瞑目し祈った。

「二代目八冠」達成記念パーティーで、すっかり場馴れしたカナリは、万座の前で『AI戦』再開を堂々と宣言した。 

 それまで和やかだった会場からは、オーッというどよめきが一斉に上がった。 

 まだ「平成の中頃」に、天彦名人が当時の最強ソフト『ボナンザ』に敗れて来、人間対AIの勝負は、長らく棋界で封印されてきた。 

 しかし、先の「永世八冠」は、たびたび、AIの指摘する最善手とは異なる「妙手」を繰り出し、それは「AI越え」という流行語にまでなり、多くの将棋雀の人口に膾炙されるようにもなった。 

 もっとも、それに限っては彼の専売特許であったが、今、その愛弟子にして娘の「二代目八冠」が、正面きってAIに挑戦状を叩きつけたのである。

 それには棋界誌の『将棋世界』だけでなく、スポーツ紙、週刊誌、ワイドショーまで色めきたった。

 もしかしたら、「永世八冠」の一子相伝の「秘手」を授けられているのでは・・・という、半ば都市伝説のような好奇心が人々を興奮させた。

 カナリは「八冠」という棋界最高の権威として、中継を担当する『ABEMA TV』との企画会議では、「四冠」以上の複数タイトル保持者のみを挑戦資格とし、その年の将棋ソフト選手権に優勝したプログラムと「三番勝負」をする、という規定を提案した。

 そして、もう一つ、是非に・・・と、条件として出したのは、その冠名を『永世八冠記念杯』とさせた。

 そう。非公式戦のエキシビション的なものであっても、父にして師匠の栄誉を讃えたもの、としたかったのである。

 何故なら、偉大な「永世八冠」の父こそがAI撃破の秘法・秘手「八十八手」を授けてくれたからである。

 それを目の当たりにしたら、おそらく、プロ棋士はもとより、世界中の将棋ファンも度肝を抜かれることだろう。

                 

 

 

 

 

 

 


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