『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

秋を味わう

2020-09-30 07:08:00 | 食物・飲物
京都で十年ちかく
裏千家の茶道を学び、
利休居士の墓にも参り、
名だたる茶室も訪れ、
禅寺の枯山水の茶庭も
見尽くしてきた。

帰福してからは、
住み替えした
三つの家すべてに
茶室を設け、
来訪者のもてなしの席とした。

院生の頃は、
後輩が弟子志願してくれ、
共に茶事を毎週のように
催していた。

その彼も
横浜で教員となったが、
今も茶を続けており、
一昨年には「百回茶事」に
招かれて投宿させて頂いた。

副査で恩師だった
故・日下先生は
気さくに我われ院生室を訪れては、
しばしば喫茶を楽しまれていた。

その時ばかりは、
師弟逆転したかのように
姿勢を正されて
お手前をする手元に
静かに目を凝らされていた。

そして、
「こういう時間って、
いいねぇ…」
と、多忙な教授職の寸暇を
喫茶で憩っておられた。

先生の訃報に接した時には、
哀しくって、
茶室の床の間に
貴人台を用いて御献茶させて頂き
その御恩に感謝し、
ご冥福をお祈りさせて頂いた。




季節の変わり目ごとに
「茶懐石」の名店
『多可橋』を訪れ、
名料理人・高橋さんの目の前で
談笑させて頂きながら
その冴えた料理を味わっている。

眼前には、
帰福後に京都が恋しくなって
訪れた平泉の毛越寺庭園の夕景が
飾られていた。





目の前で
手際よく
「先付け」の
湯葉豆腐が仕上げられ
スッと出された。

クコの実の朱が
絵的にいいアクセントになっている。

祇園言葉で表現すれば、
「“はんなり”した
ええお味どすなぁ…」
である(笑)。

具材を平らげたら、
憚ることなく
器を両手にとり
出汁を味わう。

しみじみと美味い。

澄み渡る
秋空のように
清々しくも
“綺麗”な味である。




続いて
「八寸」。

すぐには箸をとらず、
しばし、この景色を愛でる。

柿の照り葉が敷かれ、
栗の渋皮煮と…
豊穣の秋が
一皿に描かれている。

斜(はす)に置かれた
手長海老の鋏の先端は
虚空を指し、
立体感と緊張感を現わしている。

“文字通り”
何処から箸を付けようか…
と、嬉しい戸惑いを覚える。

一品、一品が
抑制の効いた美味で、
白磁の各皿に
柿の葉のみが残った時に、
詫び寂びの趣きと、
“残心”の美しさと
統合された満足感が得られる。

そう…。

それは、まさに、
音楽に、さも似たり。

一音、一音が集まって
珠玉の一曲が
出来るが如し。




煮物椀は
真蒸の菊花仕立て。

具材・吸い地共に
文句なしの完璧さである。

茶懐石は
茶碗の縁のように
“山道”があるが、
そのハイライトが
「煮物椀」である。

その語音から
弟子のS君が
「初茶事」で取り違えて、
そこに田舎風「煮物」を
出した時には唖然としたが、
茶事後にそうではない事を説き、
今でも二人の間の失敗談・
笑い話になっている。

その彼が
「茶事百篇」の
大偉業を為したのだから
畏れ入る(笑)。

それも、ただの
薄茶事ではなく、
毛筆巻紙の招待状に始まり・
炭手前・懐石・薄茶・濃茶・
後日の毛筆巻紙による礼状…と、
本格の「正午の茶事」である。




『吉兆』の創業者・
湯木 貞一の言葉に、
「懐石の要諦は
【椀刺し】である」
と聞いたことがある。

全てを決める出汁加減と
包丁の冴えは
その二品で立ち処に
判るという。

なるほど、
高橋さんの造る
“お造り”は
見事にエッジが立っている。

研ぎに研がれた柳刃により
細胞を潰すことをせず、
一刀両断に柵を引き切ってるので、
その技の冴えが味に反映している。




女将さんから
「嵐山風の飛竜頭です」
と供され、
豆腐の名店「森嘉」が偲ばれ
その話で盛り上がった。

関東では
「雁擬(がんもどき)」だが、
関西では
「飛竜頭(ひりょうず)」という。

時に、
それが訛って
「ひろうす」
と言われることもある。

巻き簾で仕上げられた飛竜頭は、
さすがに、料亭の味で
炊き合わせの小芋、
海老の練物は
芯まで熱く、美味だった。




「強肴(しいさかな)」には、
鰆の黄身味噌焼に
螺(つぶ)焼が供された。




鮭の身をほぐしたご飯に
お新香、味噌汁で
料理の〆となった。

茶懐石のここまでは、
実は、一服の茶の為にある
前奏曲であり、
大締めの「茶」を
美味しく頂くためなのである。





自家製・羊羹を
主菓子として、
薄茶を喫した。




コロナ禍の陰鬱さと
仕事の疲れ、
人の悪意による心的外傷を
芯から癒してくれた
高橋さんの見事な
おもてなしであった。

この“茶の心”でもって、
自分も茶人として
人を癒し、もてなしたいと
思わされた。






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