『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

リアルファンタジー『名人を超える』12

2022-09-09 07:04:36 | 創作

* 12  *

 漫画とかアニメーションばかり見ていると、基礎になるものがなくなる。基礎がトトロでは困る。

                       養老 孟司

 

 

 産みの親はしらねど、育ての親は山ほどいる・・・と、カナリは常々思っていた。

 愛聖園の園長先生はじめ、シスターたち。 

 小学時代に出会ったカウンセラーのS先生。

 将棋教室のT先生。

奨励会時代に鍛えてくださった故M先生。

 そして、何よりも、自分を拾ってくださったソータ師匠。それと、奥様・・・。

 このお二人が、自分にとっては今の親なのである。

 なので親孝行せねばと、カナリは惰弱に陥りそうになると、意識して自分に言って聞かせた。

 サトちゃん、リュウちゃんを可愛がり、家事のお手伝いをさせて頂き、自分の身の回りはきちんとし、そして、将棋が強くなること・・・。

 それでも、思春期を迎えると、自分は実母・実父に捨てられたんだ・・・という、言いようのない寂しい思いが、時折、寝床に入った時に、襲ってくることがあった。

 その事については、さすがに、小学時代のカウンセラーの先生も向き合わせようとはさせなかった。それ故に、中学生の自分に課せられた、やり残しの「宿題」のようにも思われた。

 

 十四歳の誕生日。

 カナリは、初めて、丸くて大きなケーキを、自分だけの為に用意されたのを見てビックリした。

 園生活でも、月ごとの「お誕生会」はあったが、キリスト系の施設で、信者さんたちの寄付で賄われているため、ケーキは一人当たり一個のカップケーキが常であった。

 なので、直径30㎝はあろうかという大きなホールケーキが自分ひとりのために用意されたことに驚き、感動もしたのである。

 そればかりか、その日の夕餉には、鶏の腿焼きから、オマール海老のボイルやら、スモークサーモンやら、キッシュロレーヌやら・・・と、園のクリスマスでも一度も食べたことのない大変なごちそうが並んだ。

 施設では、たとえ、盆と正月が一緒に来ても、生涯お目にかかることが出来ないだろうメニューの数々であった。

「カナちん。おめれとー」

 と、サトちゃんが笑顔でお祝いしてくれた。

「カナちゃん。十四歳おめでとう」

「おめでとう!」

 と、奥様と師匠も喜んでくださった。

 そして、まるでクリスマスの騒ぎでよくやるように、クラッカーがパンパンと威勢よく鳴らされた。

 その爆発音に、幼い竜馬は目を丸くして驚いていた。

 カナリは、思わず涙ぐみ、

「ありがとうございます・・・」

 と、精一杯のお礼を言うと、自分の幸せの今を噛みしめていた。

 愛菜ママが首をコクリとして合図すると聡美が

「♪ハピバースデー ツーユー♪」

 と歌い始めた。

 すると、リュウちゃんを抱いた奥様と師匠もそれに唱和した。

「♪ハピバースデー ディア カーナちゃーん♪   

 ♪ハピバースデー ツーユー♪」

 カナリはこの時、生まれて初めて、自分のバースデーケーキの蝋燭を吹き消した。

 また、泪がこぼれた。

「カナちん、泣いてるの?」

 と聡美がママの顔を見ると、

「うれしい時も、涙は出るのよ・・・」

 と、愛菜は娘に教えてあげた。

 

 十四歳になったカナリは、師匠と同じく、全棋士出場の早指しトーナメント『朝日杯』で優勝し、賞金一千万を獲得し、五段へと昇段した。

 賞金の全額は、師匠の同意を得て、自分が世話になった愛聖園に寄付したのだった。

 

        

 

 

 

 

 


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