北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

美しい国

2024-02-21 22:18:14 | Weblog

 

 最近地方で車を走らせていると、様々な施設やインフラの老朽化が目立つことに気が付きます。

 わが国では戦後の高度成長期に、経済が順調に拡大しまた様々な工学的技術が進歩したことで農業でも建設業でも質の高い施設をつくることができるようになりました。

 そのことで一気に生産力が向上し、大量のインフラ施設・モノづくりができるようになり社会は大いに便利になりました。

 しかし年月の経過とともに、コンクリートは脆くなり鋼材は錆び、塗装は剥げ、木材は腐朽し溌剌とした美しさは失われてゆきます。

 私の心の師匠である林業家にして元掛川市長だった故榛村純一さんは、「インフラの中で作った時からより良くなるインフラは樹木だけだよ」と笑っていましたが、その樹木だって適切に剪定をし枝葉を整えなければ乱暴に暴れて行きます。

 下枝も掃われずにただただ漫然と大きくなった樹木を見て「自然で美しい」と言う人が多くなったのは、真に美しい樹木の姿がわからなくなった人が増えているからかもしれません。

 
    ◆


 かつて長野県の安曇野で公園を作っていた時に、用地買収を終えてもう水稲の植えられなくなった棚田がありました。

 元の地主さんと話をしていて、「雑草だらけになるのを見るのがつらい」という話を聞いて、「じゃあとりあえず水だけでも張りましょうか」ということになりました。

 同時に畔の草刈りもしましょう、ということで初めて真剣に田んぼの畔をじっくりと見たのですが、そこにはキジムシロなど背の低い可憐な花が残されていました。

「肩掛けの機械で刈り取ると一気に草は刈れるんだけれど、手で草取りをすればあっちゃいけないものと残しておいても良いものを分けられるですよ」と元の地主さん。

 二宮尊徳は「米でも麦でも雑草でも広くあまねく育てようとするのが"天の道"だが、そこから米麦を残して雑草を取り除くのが"人の道"である。我々は人の道を生きなくてはならん」と言っていますが、単なる米の生産場としか見ない田んぼも、そうやって手間暇かけて心ある管理をすれば豊かな生態系をもった農業空間になることを初めて知りました。。

 「管理」というのは、人間にとって都合の良い取捨選択をすることですが、そこにもう少しゆとりを持たせれば、経済として都合の良いだけではなく、より豊かな環境も残すことができるのです。

 日本の国も、インフラや公共財、私的財も量が少ないうちは質の高い管理ができていましたが、持っている財産が増えすぎて適切な管理の手が及ばないところも出てきています。

 欲しかったのに自分たちでは作れなくて、ようやく税金で作ってもらえた道などは、かつては地域の人たちは喜んで「道普請」として草刈りや補修を自らしたものですが、今ではその管理も税金でするのが当然と考える人も増えてきました。

 かつての商店街でも自分の見せの地先の清掃を行うことは当然のことのようでしたが、今では商店街もシャッターが下りて主のいない地先が増えました。

 管理というのは「手入れ」ということでもありますが、人口減少で手を入れるその手が減ってしまい、地域を美しく保つような管理をする力が少しずつ失われています。

 そこへきて地域の人口が減っているようなところでは、インフラの存在自体も「費用対効果」の名の下に存在が疑問視されるようになりました。

 人口が少ないところに施設をつくったり、そこで管理にお金を投入することの経済性を問われれば、それは人口の多いところにかなうはずがなく、つまりは「投資は都市にせよ、田舎にはするな」という極論に結びついてゆき、美しい地方などはもうこの国からはなくなってゆくことでしょう。


      ◆


 人口減少下で地域が求める労働力を支えるには、「機械化」で省力化も大切ですが、少しでも多くの人に参加してもらえるような仕事っぽい活動があって、リクルート研究所は「ワーキッシュアクト」と名付けました。

 かつての町内会や自治会活動のようなものですが、こうしたことの再認識とそこには現役世代よりもシニア世代の参加が大切になってくるでしょう。

 そして私が思うところの一人がいろいろなことができるようになる「多能工化」ということも求められます。

 様々な力を結集して、地域を美しく保つ手入れを行うような活動がやはり大切だという価値観をもう一度呼び起こしたいものです。

 「美しい国」は、言葉ではなく実践なくしては得られないのです。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 暖気到来 | トップ | 理系の雪かき »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事