駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇花組『PRINCE OF ROSES』

2021年01月30日 | 観劇記/タイトルは行
 宝塚バウホール、2021年1月29日11時半。

 15世紀、イングランド。ヨーク家のエドワード4世(羽立光来)はランカスター家のヘンリー6世(冴月瑠那)を退けヨーク朝を開いたものの、弟クラレンス公(愛乃一真)と信頼していた臣下の反逆に遭い失脚、再びヘンリー6世が王位に就く。ヘンリー6世の忠臣ジャスパー・テューダー(高翔みず希)は甥を伴い、国王に謁見する。その少年こそ若きヘンリー・テューダー(聖乃あすか)であり、居合わせたすべての者に、彼こそ王冠を戴くべき男だと予感させた。だがこの謁見からわずかののち、エドワード4世が国王に返り咲き、ヘンリー・テューダーは亡命を余儀なくされる。ランカスターの血を途絶えさせてはならないとブルターニュへ渡ったヘンリーを、ランカスターの血筋ながらヨーク家の後見で育ったヘンリー・スタッフォード(希波らいと)や、フランス国王の使いを名乗る女性イザベル(星空美咲)ら、様々な目的を持つ人物たちが取り巻いていくが…
 作・演出/竹田悠一郞、作曲・編曲/太田健、瓜生明希葉、多田里紗、振付/御織ゆみ乃、平澤智。期待の100期の期待の星・聖乃あすかの初主演作、竹田先生のデビュー作。

 私は高校の歴史は世界史選択でしたし、プランタジネット朝の一部についてはキャラ立てして同人小説を書いたこともあるようなオタクなのですが(^^;)、最近ではもっぱら菅野文『薔薇王の葬列』(秋田書店プリンセスコミックス既刊14巻)を楽しく読んでいます。これはシェイクスピアの『ヘンリー六世』『リチャード三世』を下敷きにしている、グロスター公リチャードが主人公の物語です。今回のヘンリー・テューダーは、このリチャードの兄エドワード四世の娘エリザベスと結婚して、それでランカスターとヨークの両方の家の継承権と王位継承権も持つことになって、リチャード三世を破りヘンリー七世になって薔薇戦争を終わらせた人…というのが、私の中での知識でした。でもそれ以外の細かいエピソードとかは全然知らないでいたので(『薔薇王~』でもエリザベスは出てきましたがヘンリー・テューダーはまだ顔も出してきません。のちに主人公を倒す役まわりなんだから、いずれは…とも思いますが、リチャードもやっと即位したくらいまでしかまだ話が進んでいないので)、どのあたりをどんな感じで描くんだろう?と楽しみに出かけました。だいぶ若い座組なのは、心配でもあり楽しみでもありました。また、竹田先生の新公演出はいくつか観ていますし、そのデビューも楽しみでした。
 『薔薇王~』で私が好きなのはバッキンガム公ヘンリー・スタフォードで、これはリチャードのキングメイカーでありメガネのブラック参謀みたいなキャラクターなのですが、その役まわりは今回はむしろはなこのトマス・スタンリー(一之瀬航季)がやっていましたね。ヘンリーの生母マーガレット・ボーフォート(春妃うらら)の再婚相手であり、ランカスターとヨークの間で暗躍したようなおじさんなんだと思うので、コレはアリでしょう。全体で観ると、ヘンリーも彼の掌の上で踊らされていただけ、みたいに思えなくもなく、ほのかとはなこは同期なので、ちょっとニヤリとさせられもしました。
 というか竹田先生は母校で『薔薇戦争』の芝居を観て、かつて女性が演じたリチャード3世を思い出していろいろ調べ出したようなことをプログラムで書いていますが(しかしあまり感心しない文章だった…イヤ別にこういうコラムやエッセイみたいなものが上手い必要は特にないんだけれど、なんか主旨不鮮明で…あとこの主語と述語ねじれてない?みたいなのあるし…)、それでも主役をヘンリー7世にして、2番手はライバルであり悪役になるリチャード3世(優波慧)、3番手はその間でフラフラする形になるヘンリー・スタッフォードのらいとと、その間を暗躍するキングメイカーのスタンリー卿のはなこ…としたのは美しい布陣だな、と感心したんですよね。
 さらにヒロインが、まあ下級生すぎるからかヒロイン扱いされておらず、またダブルっぽい扱いなんですが(とはいえラインナップでは星空ちゃんがなみけーの前ではありますがひとりで出てきました)、「フランス国王の使いを名乗る女性」イザベルと、リチャード3世妃アン・ネヴィル(美羽愛)というのがなかなか良くて、特に私はイザベルに関してはこう名乗っているだけで正体は別にあるんだろうし、だとすればそりゃのちに結婚するエリザベスしかないな、と気づきましたが、とにかくこの展開の妙味には感心しました。彼女がこんなふうにヘンリーのもとへ来た史実が、あったかどうかは知らないのですが…
 ただ…わかりづらかったと思います。これでも簡略化しているんでしょうが、それでも観客に馴染みがない国の、時代の、長きにわたる王位争いのお話で、血縁も入り乱れていて、王はコロコロ変わり、すみませんが顔も判別が怪しいような下級生たちがそれぞれの臣下役としてわらわら出てきて…せめてプログラムに家系図が欲しかったです。それか、大野先生ばりの解説コメントか…冒頭、客席がすでにぽかーんとしている中でほのちゃんが凜々しく主題歌を歌ったり(自分で薔薇の王子って言うかな!?って脳内でつい突っ込みましたよね…)、なみけーがギラギラ悪役ソングを歌って音楽が盛り上がってジャン!暗転!!ってなっても、ちょっとお義理の拍手しかできませんでしたよね…あとヒロインがぶっちゃけスパイで観客にも正体が明かされないままに話が進むので、そこでせつない想いを歌われても観客はそれこそぽかーんでしたよね…イヤすっごい感動したキュンとした心から拍手した、って方にはすみません…
 なんかもっと、モンタギューとキャピュレットみたいな対立なんです!ランカスターは赤薔薇でヨークは白薔薇で、バーン!!みたいな対立構造を示すと、まだわかりやすかったのかなあ…でも両方と血縁関係があるキャラクターも多いし、場所も移るしで、簡単に説明するのは確かに難しいんですよね。
 でも、だからこそ、こういうお話ってもっともっと、各登場人物の現在の境遇と、そこに至ったこれまでの経緯と、真意や内心、今後の野望と、そして何より性格とか人となりとかを、整理してデフォルメして提示しないと、観客はついていけないと思うのです。その点で、デビュー作としてとてもハードルの高い題材を選んじゃったもんだな、とは思いましたね。ぶっちゃけ、つらかったと思いました。その後、「ああ、ここのこういうドラマを描こうとしているのね」ってのが、場面場面ではわかるだけに、そしてそれはもっと上手くやれればさぞおもしろかったろうにと思えただけに、そして生徒たちも下級生ながらすごくがんばって演じていただけに、余計に…私、なんかずっと、奥歯を噛みしめながら観てしまいました。なんならいっそ、メインの関係性だけ生かして、架空の国の架空の歴史に移しちゃってもよかったのかもしれません。でも、竹田先生はこれをやりたかったんだろうなあ…
 あとは冒頭、もうちょっとだけほのちゃんヘンリーを強く印象づけられていたら、全体の印象ももう少し変わっていたかもしれません。なんでただ出てきただけで「彼こそ王冠を戴くべき男!」ってなっちゃうの?って感じに、今なっちゃってると思うんですよね。その場に現国王がいるのに。血筋で言えばけっこう傍流なはずなのに。何故? 美しいから? それは納得なんだけど(笑)、でもそもそもジェンヌは全員美しいので、それだけでは説得力がないのです。なんかもっとここで彼の「特別性」を印象づけたい。なので例えば、みんなヨークを倒すぞーみたいなことしか言っていないところに、「ランカスターとヨークの両家をひとつに束ねて、戦争を終わらせ、争いのない世界を築く!」とか言わせて、彼は今まで誰も言わなかったような遠い大きな理想を語る男だったのでしたさすが大器!キラキラッ!!…みたいな演出にするとか、ね。その上で、すごーく熱い男だとか、すごーく優しい男だとかの、何か性格的な特徴を提示できていたら、観客はだいぶつかまれたと思います。で、そんな彼ならこんな大きなこともやってみせるのであろう、と観客は期待する…それなら、もうちょっと辛抱してコロコロ進むこの事態についていってみようか、という心構えが観客にもできたと思うのです。今、そういう前振りがないから、心ない人はなんかワケわからんなーつらいなーおもしろくなったら起こしてー、って言って寝ちゃうんだと思うんですよ残念ながら…もったいないでしょ、それは。なのでまず観客の心をがつんとつかんでほしい。プロローグはもちろんカッコ良くて素敵でしたが、それだけではダメで、芝居本編の冒頭が肝心なのです。そこで「彼こそこの薔薇戦争を終わらせる男だ! 薔薇の王子なのだ!!」とか例えばジャスパーが言って、それでヘンリーが「♪ああ、プリンスオブロージーズ」って歌うならまだわかるワケです。今、そうじゃない。だからあの歌がこそばゆく感じられて仕方がない。もったいないです。
 あとは、やっぱりいろんな人のいろんなドラマを描こうとしすぎていたように私には見えたので、せめて主人公とライバルのグロスター公周りくらいに絞った方がよかったんじゃないかなー、とは思いました。アンとの確執とか、これじゃわからないよー萌えられないよー、ってずっと歯噛みしながら観てました…兄ふたりとの関係とかも、もう少していねいに説明してほしかったです。奸計を巡らし血を分けた兄弟を陥れ弑し、そうまでして手に入れた王座なのに、従う者少なく敗れていく…という悲しい滑稽さなんかは、もう少し上手く描けてたら味わい深かったと思うんですけれどね…
 でも、帰宅してナウオンを見ましたが、生徒さんたちはいずれもすごくよく勉強しているし、歴史的な背景も脚本の中での自分の役の立ち位置も意味もよく理解していて、その上で見せ方を工夫しようとしている様子がとてもよく窺えました。下級生が多いのに、頼もしい限りです。これはきっといい経験になったことでしょう、彼女たちの血と肉になっていくことでしょう。そしてもちろん竹田先生にも。次回作、期待しています。

 では、以下、生徒さんの感想を。ほのちゃんは、私はあまり好きなタイプの系統のお顔じゃなくて守備範囲外、と思っていたのですが、もちろん押されていることはわかっていますし、綺麗だしなんでもまあまあそつなくできるとは評価していて、でも最近露出が増えてくると中身は意外におもろいなとかほややとんしてるなという好感が持ててきて、最近はわりと注目しています。今回は、正直しどころがない役なのではなかろうかとも思うし、まずは主演として出番をこなすだけでも大変だろうにそれはきちんとやれていて、場も保たせているし、歌もめっちゃ上手いとかはないと思うんだけど手堅いし、フィナーレになると俄然生き生きと踊り出したのはちょっと笑っちゃいましたが、とにかくまあいいスターさんっぷりだったので、まずはよかったのではないでしょうか。お衣装もよくお似合いでした。ヒロイン相手にもちゃんと甘い空気や包容力を出せていたと思いましたしね。これからもいろいろなお役をやって、すくすく育っていっていただきたいです。
 なみけーは、意外にこのまま渋い役者になっていくとおもしろいかもしれませんよね…もちろんまだまだちゃんと二枚目、ヒーロー、あるいは優男役もきっちりできるスターさんだとは思いますが。だからもうちょっと役として描き込んであげて、2番手としておいしい芝居をもっとさせてあげたかった気がしたなー…まあこれは私がリチャード3世が嫌いじゃないってせいもあるかもしれませんけれどね。メイクにも工夫を凝らしていましたね。これまたフィナーレではキレッキレでした。
 はなこは、初期は上手すぎて脇扱いなのかなと思っていたらこのところ路線扱いで、ほほう起用する気あるのね劇団?と私はなっていますが、やっぱり上手くてこういう役どころがホント安心して任せられますね。でも新公少尉を見ておきたかったよねホント…こちらもフィナーレは若々しくバリバリ踊っていてよかったです。
 らいとは私は顔が好きなんですけれど(オイ)、スターさんとしてはまだまだ修行中の身だとも思っていて、それこそいろいろやってゆっくり育っていってほしいなと思っています。ただもう背はそれ以上伸びなくていいぞー、とも思っています。今回も、キャラのせいだとは、芝居だとは思うんだけれどずっと膝が曲がっていて、美しくなくてしょんぼりだったので。ともちんとかまさことか、大きすぎると周りとバランス悪くて結局路線から外れていったりすることがあるじゃないですか…でも性格がこれまたのほほんとしてそうだから、それで宙に組替えなんかしたらますますのほほんに拍車がかかりそうでそれも推奨できない…なんとかここでがんばるのよらいと…(ToT)今回のお芝居としては、もっと振りきってやっちゃってもおもしろかったのかもな、とも思いました。もっとおいしい役になったかもしれない、やれる人がやったら場どころか話をさらっちゃうような役になったのかもしれない、とも思ってしまったのは、私がバッキンガム公を好きすぎるからかもしれません…『薔薇王~』では描かれていなかった部分がすごくおもしろくて、考えるだにすごいポジションの人だったんだな、と思いました。赤毛にしたのはいいアイディアでしたね。臙脂色のお衣装がこれまたとても似合っていました。そしてこちらもフィナーレがノリノリでとてもよかったです。
 ちゃぴ似で有名な星空ちゃんですが、頭の小ささと首の長さ、美しさは素晴らしく、この時代のお衣装をとてもよく着こなしていました。でもお化粧はもっと良くなりますよね。プロローグの魂役では美羽ちゃんとシンメだったけれど、明らかに美羽ちゃんに一日の長がありました。でも歌もお芝居もとても健闘していたと思います。素直に取り組んでいる感じがとてもよかったです。難しいお役だったけどね…しかし背が高いなー、大丈夫なのかいな、とは心配になりました。
 とはいえ美羽ちゃんも、メイクはもっと良くなるはず、とは思ったかな。まあアンもこれまた一筋縄ではいかない役どころなので、あえてだったのかもしれませんが…新公紅緒、見たかったですねえ。ダブルデュエダンはふたりとも、まだそつがないといったレベルで、娘役力を発揮できてる域ではなかったかな…ま、こういうのは場数だと思うので、あと相手役の包容力にもよるし、精進していっていただきたいです。
 娘役だと柚長(もう星組組長じゃなく専科生だけど。というか無駄遣いだったかな、ここまでドラマを背負うキャラを広げなくてよかったのではと思いました)の侍女役をやったこりのちゃんがさすがでしたね。声がいいし、当初は名前くらい付けてやれよと思っていたんですけれど、まさに「侍女」としか言いようがない役どころでの仕事っぷりが実に鮮やかでした。
 あとはこうららちゃんね。もう少し揺らぎが出るとよりよかったのかなー、でもおもしろい役でしたし、こんなに仕事しているところをなかなか見ない気がするので新鮮でした。逆にカガリリなんかはもっと悪女っぽい場面があるともっと仕事ができたのではないかしらん…しょみちゃんもしどころがなさすぎた気がしました。イザベルの付き人役の雛リリカちゃんは、少ない出番で意味のある芝居をしていたなと感じました。
 男役だと、はなこの弟ウィリアム・スタンリー(芹尚英)のえいちゃんはだいぶピックアップされていた印象でしたね。でもこれまた好みの顔じゃないんだすみません…トマス・グレイ(海叶あさひ)の海叶くんも私はほぼ初めて認識した、みたいな生徒さんでしたが…うーむ、特に印象がない。むしろケイツビー(峰果とわ)がさすが上手いなと思わせられました。やはり上級生は声ができているし佇まいがいいんですよね。あとはちょっとやりようがなかったのではないかしらん…
 衣装(加藤真美)と装置(國包洋子)はとても素敵だったと思います。特に装置は使い方にも工夫があり、スタイリッシュでもあって、竹田先生のセンスを感じました。あと、美貌一発勝負、直球どストレートみたいな面はあったけれど、ポスターがとてもよかったことも特筆しておきたいです。大事!
 フィナーレもたっぷりめで、花組の下級生がノリノリで踊るとこの人数でもバウ狭いな、と感動しました。あと本編と全然テンションが違っていましたね、その正直さが微笑ましかったです。ダブルデュエダンからのデュエダン、からのソロがあるところに劇団の押しを感じましたが、しかしひとりなのに掛け声って変じゃないかな…ラストの決めポーズの照明には『出島』みを感じました。あえて顔を暗く見せるヤツね、粋ですよね。黒燕尾のボタンが赤薔薇になっていたり、テールの片方にだけ赤い飾りが入っていたりと、お洒落で素敵でした。

 100期は娘役はまどかにゃんと華ちゃんがすでにトップになっています。男役の次の主演はおだちんかな? かりんたんにももちろん期待しています。しかしみんなタイプが違うな(笑)。新公ラストの年がこんなことになってしまって、のちのち影響も出るかもしれませんが、がんばっていっていただきたいものです。新公学年の下級生は今は別箱でがんばるしかない時期だとも思うので、腐らず、自主稽古も続けて、鍛錬していってほしいです。でも何よりまずは健康で、元気でいてください。こちらもまたお手紙だけでも書きたいと思っています。応援しています!


 
 

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