goo blog サービス終了のお知らせ 

駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇雪組『FORMOSA!!』

2025年01月14日 | 観劇記/タイトルは行
 シアター・ドラマシティ、2024年12月8日12時。
 KAAT神奈川芸術劇場、2025年1月11日11時。

 18世紀初頭。偽修道士としてヨーロッパを放浪していたジャン(縣千)は、イギリス国教会牧師で詐欺師のイネス(華世京)と旅の途中で出会う。自身を日本人だと騙り、日銭を稼いでいたジャンだが、イネスにその嘘を暴かれて手を組むことに。ふたりはロンドン主教を騙して多額の施しを受けるという一攫千金を企み、イギリスへ渡る。イネスの指示に従って東洋に浮かぶ架空の島・フォルモサを創り上げ、フォルモサ人「ジョルジュ・サルマナザール」を騙り始めたジャンは、ロンドンの知識階級が集うコーヒーハウスへ出入りし、類い希なるペテンの才を発揮していくが…
 作・演出/熊倉飛鳥、作曲・編曲/太田健、多田里紗。18世紀に実在した究極の偽書『台湾誌』の作者サルマナザールを主人公に、その名声の高まりと顛末を騙る「西洋奇譚」。全2幕。

 熊倉先生のデビュー作『ベアタ・ベアトリクス』の感想はこちら、次の『Golden Dead Schiele』はこちら。あがちんのバウ初主演作『Sweet Little Rock'n Roll』はこちら
 熊倉先生は画家主人公ものが二作続いていて、天才とか芸術家の苦悩みたいなのをテーマにしていて、そればっかりだとこの先厳しいな…とか思っていたところにこの演目発表だったので、おっ!となった記憶があります。あがちんも前回バウは再演だしぶっちゃけ中身がないような話で、『ストルーエンセ』の王様とかはよかったんだけどスターとしてどういうのが似合うタイプなのかなー、この先いい作品に当たればいいなー、など勝手に案じていたので、これまた期待していました。
 KATTのお席が、友会でなんとセンターブロック最前列が当たりまして、もちろん初めて座るんですけどここの舞台は客席最前列から1メートルほどの高さで、つまり見上げるほどではなく足下がちゃんと奥まで見えるとても素晴らしき視界で、かつ普通舞台の前方1メートルほどはいうても使わないと思うんですけどもう30センチ切るくらいまで踏み込んで使ってくるので、常に目の前に役者がいてくれてオペラグラス要らずで(いやセット上部にいるところとか使って観たけど)、天国この上なかったです。芝居はそうでもなかったけどフィナーレはめっちゃいい匂いが香ったし! タカラジェンヌ!! そういうとこ!!!
 というわけでDCで観たときも「これはかなり上出来の作品なのでは…」と思いましたが、それをいい感じに忘れて観たKATTがまさしく天国で、「傑作!」ってなりました。チョロくてすみません…
 でも、ホントよくできていたと思います。イネスはもちろんペンブローク卿(叶ゆうり。正しすぎる起用…!)やダマルフィ司祭(眞ノ宮るい)、フォンタネー神父(紗蘭令愛)からエドモンド・ハレー(蒼波黎也)あたりまですべて史実、というか実在の人物で、実際にこうした偽書騒ぎがあったことはわりに有名だそうですが(私は知りませんでしたが…少なくともこの「フォルモサ」がポルトガル語で「美しい島」という意味であり、台湾のことを指していて、しかし当時の西洋社会からは遠すぎて実態が知られておらず、なかばお伽話のように憧れられていたのだ…というような説明はあったほうがいいかと思いました。ジャンの空想はすべて単なる空想、でっち上げだったとしても、そこにそれっぽい土地・台湾の実在が知られていた、という要素はこの戯曲においてけっこう重要なものだ、と私は思います)、地理学者オリバー・オズワルド(久城あす)あたりはどうなのかな? このあたりから架空、というか創作の存在? ともあれそうした事実を上手く絡めつつ、ヒロインのシェリル(音彩結実)をオズワルドの娘とし、ハレーを一家の友人として、悪事露見に関してハレーとジャンで一芝居打つ流れにするなど、創意工夫もある、良きお芝居に仕上がっていたと思いました。コーヒーハウス場面ほか、ショーアップ・ターンのセンスも若くてすごくいい。楽曲もよかったです。あとは尺たっぷりのフィナーレもよかった! 特に野口ショーでよくある若手爆踊り場面みたいなのを、下級生から順に出してやって、全員きちんと顔見せできていたのが素晴らしい。本編でも、全員一言、ソロ一節しでも台詞ないし歌が振られていたと思いました。バイト含めて、生徒の起用が上手いのがとにかくよかったと思います。
 やたら着替える(笑)メリヤンダノー(咲城けい)のさんちゃんといい、はいちゃんといい、もちろんあすくんや天月くんあきさんといい、いいお役が振られて芝居がしっかりしていたのもとてもいい。ぶっちゃけ、新公主演はしても(何度でも言いますが私は『CH』新公ははいちゃん主演でよかったと思っているわけですが)この先バウ主演は回ってこないだろう、組では別格スターになっていくのだろう…という生徒にこのあたりでどういう役を振りどういう仕事をさせていくか、というのは座付き作家の腕の見せどころかと思うのですよ…! さらに、立派な2番手を務めてバリバリ輝いているいるかせきょーはいいとして、新公フェルゼンでグイグイ来てスカステ露出にも乗ってきた蒼波くんをきっちり起用しているのも素晴らしい。娘役も、君主の重圧に負けそうな不安定なアン女王(妃華ゆきの)役というゆきのちゃんといい、有能冷徹な女官サラ(莉奈くるみ)のりなくるといい、シェリルのおしゃまな妹メイベル(星沢ありさ。フォルモサの精でもホント目を惹くんだ、華があるんだよなー!)のありさといい、起用バッチリ。フォルモサの精のセンターはすわんみなみで(そういえばジャンの騙るウソ語で父、母という意味の言葉の名が付けられていましたが、まさか当人たちで父母設定としていたとは…(笑))、これがバーメイドにもなって歌のセンターは愛陽みちちゃん、大正解。さらに夢陽まりちゃんとせれーなでこれがまたダンスが上手いのよおぉ! あ、ジャンの少年時代を音綺ちゃん、青年時代を律希くんというのも大正解でした。こういう気の配り方もできない作家は全然できないので、ホントぴったりとしていて気持ちよかったです。
 私ははばまいちゃんはそんなに得意ではないのですが、上手いことには毎度感心していて、今回もそんなに出番がないにもかかわらず盤石のヒロインっぷりで素晴らしかったです。歌えるのも強い。お衣装も可愛かった! 一部あすくんの台詞や役割をシェリルに移してもよかったんでしょうけど、特にラブラブしていなくてもちゃんと物語のヒロインだったと思います。知的好奇心や想像力の在り方が主人公と似ていて、良き友、良きパートナー、良き魂と人生の伴侶になれそうな相手…というんで十分だと思いましたし、美しかったです。キラキラしたふたりの友情、協力には心温まり、ラストも幸せな気持ちになりました。はばまいちゃんが「歌劇」か何かで、今どきの、あるいは先進的な自立した女性像にしないようにしている、と語っていたのも大正解だと思いました。父の仕事を手伝い、門前の小僧で学者並みの学識があって好奇心も想像力も大きくて、それでも女性は学者になれないし知識階級が集うコーヒーハウスにも行けない時代で、「私はただの女で、何にもなれない」と卑下でなく事実として淡々と言う、「普通の女性」。でも彼女が持つエネルギー、強さ、優しさを十全に演じてくれていました。だからこそジャンも自然に「人は誰でもなりたりものになれる、そう願えば」と言えるのです。ジャンはそれを一時は誤って使って詐称、詐欺に走ってしまったわけですが、本当はそういうことではなくて…という作品のテーマをきちんと打ち出す関係性が描けていて、ただ可愛いだけとか賢いだけのヒロインになっていないはばまいちゃんの力量のおかげもあるぞ、とホント感動しました。
 なので主人公がヒロインポジ…みたいになりそうでもあるところを、あがちんの主役パワーがそうさせていないところが、またおもしろい作品でもあったかな、と思いました。私はこの人は海坊主のインパクトが強くて、そういうタイプの役をやらせた方がいいのかな?など思ってきたのですが、意外や繊細な演技をするタイプですし、このまますぐ、いかにも2番手な悪役とかはまだやらされずにすむのなら、かえっていいのかもな?とも思うようになりました。
 ジャンは、両親に慈しまれて育ったものの、時代のせいなのか早くに亡くして貧乏暮らしで、本から得た知識に想像が広がって、それで騙り、なりすましで日銭を稼ぐような男に成長したわけです。食べるためのお金が欲しかったのと、人々に自分の空想の話を聞いてもらうこと、信じてもらえることが楽しい、というのと両方があったんだろうな、と思います。そこまでだったらまあ害はないようなものですが、イネスに出会ってしまったのが運の尽きだったわけです。
 イネスの過去はそれほど語られはしませんが、やはり貧しい育ちで色を売らざるをえなかったのかも?と類推される描写もあり(不必要ですがおもろいのでいいです。リアリティに役立っている気もしなくもないですし)、そこからの反骨精神というか、成り上がってやる今度はこちらが見下してやる有名になって贅沢して見返してやる…という黒い炎が燃え上がり、ジャンを絡め取ってしまうのでした。ジャンは、空想力はもちろん、ある種のアジテーション能力にも秀でていて、イネスみたいなメフィストフェレスには格好の相手だったのでしょう。この、利用し利用されているような共犯なような、でも友情がないわけでもなくて…というふたりの関係もおもしろかったし、しっかり演じて見せているあがちんもかせきょーも恐るべし…!でした。
 でもイネスはヤバいとなればひとりで逃げ出す気満々で、でも優しいジャンはちゃんとイネスを先に逃がす算段をしていて、そして自分のなりすまし事件とその顛末にきちんと決着をつける…見事な展開だと思いました。イネスもその後、幸せに生きていってくれるといいな、と思いました。フィナーレはバリバリ元気でしたが(笑。違うか…しかし最前列の私たちにまでニヤリとした笑みを落とすワザ、すごかった! あとシケのあの長さがホント卑怯!!)。
 あとはあがちんのお歌に安定感が出てきたのがいいですね。ちょっと小柄なのがどうかな、とは思いますが、これはどうしようもないし、雪組はこのままかせきょーまで御曹司路線で全然いいと思うので、よろしくお願いしますよ劇団…というキモチです。
 フィナーレ含めてなんちゃって台湾なお衣装が素敵でしたし(衣装/薄井香菜)、間近で観るあがちんのダンスのキレ、シャープさ、体幹の強さ、素晴らしすぎました。もっと広いところでのびのび踊らせてあげたい!とも思いましたが、計算されたギリギリのスペースを使い切るテクニックがちゃんとあるのもわかりました。すごかったなあぁ…!
 あとはすわんちゃんの踊りのキレもマジすごかった。あといい気合いの声が出てた(笑)。バーメイドのスカートの中はもちろん覗きましたすみません。

 熊倉先生も次回は大劇場デビューかな? またショーからのデビューもおもしろいかもしれませんが、芝居からなら、より大人数が使えるか、トップコンビにふさわしいラブストーリーが描けるかが勝負ですね。期待しています!
 新生雪組お披露目本公演も、良いものでありますように…!








コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2025年観劇始め!『ラズ... | トップ | た組『ドードーが落下する』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

観劇記/タイトルは行」カテゴリの最新記事