駒子の備忘録

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『花咲ける青少年』を読んで

2020年06月14日 | 乱読記/書名は行
 またまたみんな大好きマンガPark「LaLa鉄板名作特集」全話無料で読みました。
 私は樹なつみはそれなりに通っているのですが、コミックスを買ったことはない気がします。この作品もかつて読んでおもしろかった記憶があったのですが、読んでいて全然覚えていないことに我ながら驚きましたし、残念ながらそんなにおもしろく感じませんでした。おもしろいと思ったのは『OZ』の方だったのかなあ…
 おもしろくない、と言うと語弊があるかもしれません。好みじゃない、というのか、私が求めるものが少ない、と言えばいいのかなあ。
 この作家は今は『八雲立つ』の続編みたいなものを連載しているかと思いますが、デビューからずっと、いわゆる現代日本の高校生をヒロインに先輩男子や幼なじみのボーイフレンドとのキャッキャウフフな少女漫画(決して揶揄ではありません。私はこれが少女漫画の正統だと考えているし、評価されづらいこともありますがこのジャンルの名作、傑作はたくさんあります)ではない、少女漫画らしからぬ少女漫画を描いてきたタイプの作家です。そしてそれがハマる画風、作風でもある。だからそれはいい。ただ、絵の上手さとかドライさが、私が物語に求めるウェットさにちょっと足りないわけです。また、作家の興味も私が物語に求めるものとちょっと違うところにあるんだと思います。この作家は人間に興味がない…とまでは言わないけれど、少なくともキャラ萌え漫画を描くタイプではなくて、キャラクターの心理ドラマよりも、事件というかアトラクション的なストーリーの転がり方にドラマを感じ、それをおもしろく描くことを追求しているタイプなのでしょう。私はナンパなので、主人公ないしヒロインないし視点人物ないしお気に入りのキャラクターに共感し感情移入し応援し萌え萌えになって物語を追いたいタイプなのですが、この作家の作品にはそういうキャラクターが出てくることがほとんどないので、結果的に作品の傍観者として読んでいくことになり、なのでそこまで作品世界にのめり込めないのです。扱う題材もリアリティがない、というとまた言いすぎかもしれませんが半径三メートルくらいの小市民的生活を描くことはほとんどなく、スケールの大きい、あるいはデカすぎる、突拍子もないものを描くことが多い。だからなおさら傍観してしまうことになり、それが私にはもの足りないのでした。
 ただ、そういうタイプの作品だ、と割り切れば、そのアトラクション的ストーリー展開はとてもおもしろい。絵も達者で見ていてとても気持ちがいい。多少ご都合主義でストーリーのためにキャラブレすることがあるのはご愛敬、というかそれこそ作者の興味がキャラクターそのものにはあまりないことがよくわかろうというものです。この作品でもたとえばナジェイラのキャラブレとかホントひどいと思うし、出したはいいものの上手く動かせなくて苦労したんだろうなー、と同情してちょっと微笑ましいくらいです。
 タイトルは、最終話の(電子で読むとラストシーンがわかりづらいので「完」とか足せばよかったのに…あとこの作品も当時はそれが普通だった性差別表現その他に関する注釈がないが、いかがか)「人を愛すという事は人生の花/おまえ達も大輪の花を咲かせるがいい」というヒロインの父親のモノローグにあるような意味で、この「青少年」には少女、つまりヒロインも含まれています。単なる逆ハーレムものではない、ということがミソかな。ヒロインの父親による三人の夫候補探しゲームは、実はそれ以前から彼女のお付きみたいな存在だった男に彼女以外のすべてのしがらみを捨てさせるための作戦で…というのも結果的にはおもしろいんだけれど、まあ本来なら人間はそんなふうに計算されたようには決して動かないので、やはりリアリティがないというか、作為的すぎる、アトラクション的ストーリーではあります。
 作者は男女の色恋にはあまり興味がない、ないし描くのが下手ですが、責任を負おうとする者、とか何かのために凜々しく潔く立ち向かい戦おうとする者、をカッコいいと考えていて、そういうキャラクターを描き出すことに血道をあげているのかな、と思います。それが仲間、とか共闘、とかになったときに、そこに男女がいれば恋愛として入れてくるんだけど、ちょっと無理矢理っぽいというか、いやいやそもそも恋愛ってそういうことで生まれるんじゃないよ?とはつっこみたくなるのだけれど、まあ、野暮でしょう。
 先日クサしたようにこの花鹿(変わった名前だけれど印象的でいいですよね、好きです。何から来ているのかなあ?)もまた性別未分化というか性別自認がないというか第二次性徴発現前というか、まあぶっちゃけ私がありえない存在しないと考えるタイプのヒロインなんだけれど、このキャラクターの場合は育ちの設定が設定だから…と納得はできるのが救いです。恋愛の発動に関しては…多分にたまたまで吊り橋効果的でかつご都合主義だったけれど、まあそれも許そう(毎度エラそうですみません)。立人、幸せになってね。でも曽(正しい字が出ません、すみません)も素敵でしたよ、好きでした。何かにこだわりがあってムキになる人間にやはり人は萌えるのだと思います。ユージィン(本人が納得しているようだったからいいけれど、ムスターファ呼びはちょっと承服しかねました。別の名前で呼ぶことは、やはりその人固有の人格を否定していることになるのではなかろうか…)もせつなくてよかったし、カールも好きです。私は優等生秀才苦労人タイプのキャラクターが好みなので。でも総じてキャラ描写は浅く、とにかく話が転がる方に主眼があるから、これくらいじゃ私は萌えられないんだよーもの足りないんだよー、とそこが残念でした。
 ちょっとオトナのお伽話ふうというか、ミュージカルになりそうな序章がまたよかったです。おしまい。

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