駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇月組『琥珀色の雨にぬれて/Grande TAKARAZUKA110!』

2024年09月01日 | 観劇記/タイトルか行
 梅田芸術劇場、2024年8月23日12時。
 市川市文化会館、8月31日12時。

 1922年、秋のある朝。パリ郊外にあるフォンテンブローの森を散策していたクロード・ドゥ・ベルナール公爵(鳳月杏)は、ひとりの女性と出会う。神秘的な美しさを湛え大勢の紳士淑女たちを相手に自由にふるまうその姿に、クロードは一瞬にして惹きつけられる。森の妖精のように軽やかな足取りで去っていく彼女をうっとりと見送るクロードに、ジゴロのルイ・バランタン(水美舞斗)が声をかけ、女性の正体を明かす。彼女の名はシャロン・カザディ(天紫珠李)、絵や写真のモデルをしたり、客の前でドレスを着て広告塔を務めたりする、いわゆるマヌカンである、と。実はルイもシャロンに魅せられていた。同じ女性に惹かれたふたりに奇妙な友情が芽生えて…
 作/柴田侑宏、演出/樫畑亜依子、作曲・編曲/高橋城、吉田優子、寺田瀧雄。1984年初演。月組新トップコンビのプレお披露目公演。

 初演には間に合っていなくて、チャーリーのときはオサ代役版を観ていてこちら。星全ツちえねね版感想はこちら、雪全ツだいきほ版はこちら
 マイ初日の梅芸公演はありがたいことですが席が前すぎて、こっちもはかはかしていたし舞台もまだあわあわしていた感じもありました(全ツ恒例の大道具さんトンテンカンテンもだいぶにぎやかでしたし…)。マイ楽となった市川は中通路少し後ろくらいのお席で全体がとても観やすく、舞台もしっとりおちついて、いい感じに観られたかなと思います。初演クロードのペイさんがいらしていました(前日には初演シャロンの若葉ひろみ様がいらしていた模様)。あと、92期総見だったのかな? 桃花ひなちゃんとか花陽みらちゃんとか、中通路前センターブロックにわちゃっといたようで、ショーでの盛り上がりっぷりが可愛らしかったです。りんきらもいるもんね、うれしいよね楽しいよね…!
 柴田先生のお目が悪くなってからは主にハリーが演出を担当していたと思いますが、今回はかっしー。脚本・音楽・振付(振付/司このみ、名月かなで)はだいきほ雪組全ツ版ママ、お衣装(衣装/加藤真美)と装置(装置/稲生英介)は「過去のものを生かしつつ今回用に整理」したそうです。そう、セットがなんかいいな、とまず感じたんですよね。全ツ用にもうだいぶ仕上がっていると思いますが、それでもなんか、よく出てくるボードみたいなのの色とか模様とかがお洒落になった気がしました。衣装も、プロローグの娘役とか、当時のデザインなんだろうけど上半身があまり綺麗に見えないのが気になっていましたが、気持ちスッキリした気がしました。また、ラストのリヨン駅の待合室のシャロンの服の色がシックにおちついたのも、すごくよかったと思います。露見を恐れない、むしろ喧嘩売る、みたいな勢いの赤も、よかったんですけれどね。ここの帽子の飾りも素敵でした…! というかあまし氏がスタイル良くて着こなしも素晴らしくてなんでも似合う…というのもあるのかもしれません。幻想とかでも着ていた、シャロンといえば、というお衣装のひとつでもあろうかと思われる、白ブラウスとスカートに黒のレース地のベストみたいなのが乗っかってるお洋服、あるじゃないですか。あれが胸元のV字のラインといい、胸の高さの拾い方といい、完璧だったと思いました(どこを見てるんだ、と思われそうですがすみません…私は女体には、まして胸にはうるさいのです)。
 総じて、洗練された、シックな、そして情感もある、良き芝居の、納得度の高い舞台に仕上がっていたのではないかと思います。かつては「これは、いいけど地味すぎるのでは…」などの暴言も吐いた私ではありますが(ところでシャロンの「あたし」はいいよね。エヴァ(白雪さち花)への「そいじゃ」といい、それが素で、お上品ぶらなくて、お行儀悪いギリギリみたいな、でも絶妙にお品がない感じが、たまらなく「シャロン」だと思うのですよ…!)、今や大好きな作品です。そもそも柴田ロマンが好きなので、似た構造ではある『コルドバ』も『バレンシア』も大好きなんですけれど、ひときわ渋くて、大人っぽい作品ですよねえ…
「クロードってクズなんだけど、でもやっと話の意味がわかった」みたいな感想もたくさん見ました。まあ私個人としては、ちなっちゃんはスマートで洒脱すぎて、クロードの朴訥さには欠けるのではないかと思えましたし、マイティもいい人っぽそうすぎてルイの崩れた色気や危なっかしさが足りないのでは、とあまり感心しなかったのですが…作品が好きすぎて、そして脚本には必要十分なことが全部書かれていると思っているので、そこから立ち上がる人物像に対してちょっと違うんでないかい? …と、思わないではなかったのです。
 でも、こういう何度も再演される作品って、作品にそれだけの強度があるので成立するし、演じ手が変わることで立ち上がる変化を楽しむものでもあると思うので、よかったな、とは私も思ったんですけどね。
 でもなんか、もっと幼い芝居をしようと思えばできただろうちなっちゃんがあえてこういう役作りで来たんだろうから、それを味わうべきなんでしょうけれど…でも、マオ(菜々乃あり。顔ができてきましたよねー! 単なるダンサー枠ではない娘役力が出てきた、とことにショーで感じました)にコートを掛けてもらうくだりとかは、もっと老成して見えてもいいんじゃないかなと個人的には思ってしまったんですよね。物語の時間軸としてはここが一番新しいんだと思うのです。お芝居のラストシーンのさらにあと、おそらくフランソワーズ(白河りり)とも別れ、ミッシェル(礼華はる)とも袂を分かって違う事業をやっているのではないかしらん…そして過去を振り返り、物語が始まる…実はここの主題歌もなんか感心しなくて、でもラストの歌はとてもよかったんですよ。なのでそういう計算だったのかもしれないな、とも思うのでした…
 でも、ギャグでもあるとは思うのですが、「クロードってクズ」で片付けちゃうのは、私はやっぱりそれはランボーにすぎる、愛とか恋とか青春とか人生とかを雑にまとめすぎる発言だろう、と感じてしまうのです。クロードがシャロンを「無垢で純粋」と言うのは、実は彼自身が無垢で純粋な青年だからなんですよね。戦争にも行ってきた大の男が何言ってんだ、ってのはそれはそうなんですけれど、実際に従軍で青春時代を奪われているのかもしれないし、もちろん生来の性格もあるのかもしれないし、ミッシェルのようにはさばける暇が、機会がなかった人なのでしょう。その揺らぎ、ときめき、惑いを描いた作品なのだから、クズなんて言葉で片付けてほしくないなと思ってしまうわけですよ…
 もちろん、幼なじみなのか以前から家族ぐるみのつきあいなのか、婚約してまあまあ長そうなフランソワーズに対して誠実でないとかひどいとかはあるんだけれど、りりちゃんがまた絶妙にウェットで重く辛気臭く、いじらしいんだけどちょっと嫌な感じでもある女性としてフランソワーズをやるもんだから、まあしょうがないよね好きならさあ…って感じも出ていて、そのどうにもならなさがすごくよかったと思いました。一昼夜運転して追っかけるような気力があるなら、思い切ったら自分からクロードを捨てることなんてへのかっぱな女性だと思うんですけれど、それをしないのはクロードを好きだからだろうし、クロードが自分といてもそれなりに幸せそうなところをちゃんと見ているからだと思うんですよね。シャロンの身分や生業を見下している感じはあまりないけれど、やはりこういう関係は一過性のもの、あるいはお金があるうちのものだろう、ということがちゃんとわかっている女性なのではないかしらん…だからこそ、こんな軟弱な男のことは吹っ切ろうと思えばできるだろうに、それをあえてしない彼女にも責任がある気がするので、一方的にフランソワーズがかわいそうでクロードはクズ、とも私には思えないのでした。
 今回のシャロンも、クロードがコルベール(大楠てら。こういう役どころが絶品すぎるだろう…!)から救ってくれたくらいでは、まだエヴァが言うようには「シャロンは公爵に惚れたよ」ではないんじゃないかな、と私は感じました。彼女が本当に恋に落ちたのは青列車の展望台だったと思うんですよね…あのとき、指輪の琥珀しか見てないクロードと、そんなクロードを見るシャロン、という構図がホントたまりませんでした。からの、「一度行ってみませんか、一緒に」みたいに言われて、疑いながらも「本当に?」と答えて、恋に落ちない女はいないでしょう…!
 梅田ではまだ緊張もあったのでしょうが、最初のソロが弱いかな、森の妖精っぷりが出ていないかな、とも感じたのですが、あまし氏のシャロンは妖精よりはもうちょっときちんと地べたに足をつけた、みどりシャロンにも近い、現実主義者の綺麗でそれなりに賢い女…という印象でした。役者の個性にも合った、良きシャロン像だったと思いました。
 逆にルイも、同類だから誘った、というより、なんかわりとちゃんとマジでシャロンが好きで、ほとんど必死にかき口説いて駆け落ちしたんだな…って感じは、新鮮でもありました。でもやはりなんかちょっとまっとうすぎる気がしたかな…このルイはシャルル(夢奈瑠音。大健闘していたと思うけど、でも誰かもっと上級生が他にいなかったかなあ、と感じてしまった…るねっこに似合う役どころがもっとあった気がしてしまって…)やエヴァの庇護から去ってもなんとかしちゃいそうに思えたので。でも、イヤ駄目だろうな、大成しないで転落していくんだろうな…って思えた方がいいキャラなんじゃないのかなあ、どうかなあ?
 ともあれ改めて、青列車からの幻想というミュージカル展開や、アラベスクからの四人という芝居の展開に唸らされたのでした。戯曲として出来すぎている…!
 私はキャラクターとしてはフランソワーズの兄・ミッシェルが好きで、ぱるもちなっちゃんと親友の役なんて…とはかはかしたろうけれど、生来のおおらかさを生かしたいいお役になっていて嬉しかったです。ラストの「ちょっと、がっかりしたな」みたいなのは肝の台詞だと思うのですが、ユミコミッシェルはオサクロードに言ってないそうなんです。ええぇ!? 前回はまなはる、その前はどいちゃんでしたっけ、どうでしたっけ…? まなはるから足された台詞だとの話も聞きました。ということはハリーによる改変…?
 そういう改変があるなら、待合室でクロードがフランソワーズに言う「ひとりにしてくれないか」はカットする、というのはたとえば、どうでしょう…気持ちはわかるけれど、でもあれはホントーにホントーに「おまえが言うな、今言うな、彼女に言うな」案件だと思うので…(^^;)まあアレを言っちゃうのがクロードという甘えた男だよ、ってのもあるんでしょうけれどねえ…ちなっちゃんが絶妙に上手いから、クロードがギリギリでカッコ悪すぎには見えない、というのがいいところなのかもしれません。
 マジョレ湖のシャロンの録音台詞のモノローグ、アレは録音台詞モノローグで唯一許せるものだな…など、思いました。それでもサスの中かなんかで生で言っても演出できるだろう、とも思いましたけどね。私、録音台詞がホント嫌いなんですよね…(><)
 ともあれあまし氏のシャロンは、美貌だけでは食えなくなる歳ギリギリのころに、なんかいい感じのカタギと出会って結婚しておちつけるような未来が見えないこともなくていいな、と思ったりしました。美しいけれど貧しい女、が転落するしかない世界なんてやっぱウンチ!(byシャロン『BLUFF』)ですからね…希望の光が見えるべきなんですよ。だってクロードだってきっとなんとかなってるんだろうからさ…
 でもりんきらのジョルジュ(凜城きら)はちょっと脂っ気がなさ過ぎたのでは…? シャロンとは完全にビジネスライクなパトロンでもいいんだけれど、もうちょっとギラついていた方がクロードやルイが焦るのでは…
 ジゴロのエース、アルベール(英かおと)のうーちゃんがマジで素敵でした。以下若手なんだけど、みんながんばっていてよかったなあぁ。七城くんが垢抜けてきていてときめいちゃったし、大学生から転落したっぽいピエール(七城雅)とお嬢様のジュヌヴィエーヴ(きよら羽龍)おはねのカップルに夢中でした(初演新公がヤンさんとやっちゃんだったなんて、たぎるわ…!)。あとセルジュ(遙稀れお)の遙稀くんもショーでも識別できるようになってしまって怖い…わかはあいかわらずもう一息欲しいんですけどねー。あと前回新公でときめいた美颯りひとがニースのホテルのギャルソンとかで美形で、こちらもショーでもちょいちょい起用されていて沼が怖いです。あとあと、ぐっさんの上手さは卑怯…!
 娘役ではクロードの姉・ソフィー(桃歌雪)がとてもよかったです。プロローグの歌手はいちごちゃん、フルールの歌手はのりんちゃんでそれも良き。ダイナマイトな伯爵夫人の妃純凜もたまりませんでした!
 うーん、隅々までよかったなあぁ…また、良き配役で再演されていってほしい演目です。


 レビュー・アニバーサリーは作・演出/中村一徳。
 本公演の感想はこちら
 私が本公演の回数を観ていないせいもありますが、新場面が多く、前トップコンビ退団ショーから新トップコンビのプレお披露目ショーに見事にシフトチェンジされていて、とても楽しく観ました。
 そして発見してしまったのですが、私はくらげちゃんが苦手だったんですけれどあまし氏はわりと好き、てか今回めっちゃ好きになってしまって、センターを観るのが楽しくて楽!と萌え萌えノリノリで観劇してしまいました…! いやーホント気持ち良くバリバリ踊るし、ハットの縁を撫でる指はかっこいいし、組カラーのお衣装のデュエダンでは靴の裏地まで黄色いし、トップ娘役就任おめでとう!ともう心おきなくワーキャーできました。この多幸感を、次の星組でも観たかったよ…次期トップ娘役がいれば、その就任おめでとう感あふれるショーが作れるんじゃん、みんな幸せになれるじゃん…しょんぼり。
 ちなっちゃんの十年前から主演です、な任せて安心感もたまりませんでした。マイティとりんきらを立てつつ、ぱるが2番手格でガンガン使われていたのもとても良き。
 プロローグのあと、みとさんといちごちゃんのりんちゃんが歌うところもよかったなー。みとさんは別に歌の人ではないしぶっちゃけちょっと痛々しくもなくもない歌唱なんだけれど、宝塚の娘役さんの歌唱ってこうだよね、と思えるところもあって、そこに上手いコーラスが被さるので、なんかちょうどよく聞けるんですよね…(言い方)お休みタイムでもあるかもしれないけれど(オイ)。私は好きな場面でした。
 続く場面は、アレはイタリアだったの…?と今プログラムをちゃんと読んで驚きましたが、ひときわ派手で鮮やかなあまし氏がバリッと出てくるのもいいし、ぱるりりが歌うのもいいし、全カップル観たいのに目が足りない!って感じで楽しかったです。
 アヴァンギャルド!は涼宮くん、りひと、わかの露払いから(イヤ立派だったよ!)ブルーのギラギラブーツに金手袋で目もチカチカなマイティのセンター場面に。娘役のセンターはおはねで、ツインテールめっかわ! ここも全員観たくて目が足りませんでした…
 中詰めスパニッシュのとっぱしのぱるの歌がまた良くなっていて、ときめきました。居並ぶ若手男役もイキっていてとても良き。ここから、スターをジャンジャンバリバリ出していきますから!って景気の良さが良かったし、途中あまし氏がひとりでバリバリ踊るターンがあったのもめっちゃ良かったです。常にトップスターの相手役としてだけで起用されてるんじゃつまらないですからね! 歌手枠も存分に散っていてとても良きでした。客席下りは全ツの華、楽しかったです!!
 みんなのお着替えタイムのために新トップコンビが残ってるんるん歌う、定番場面もとても良きでした。ちなっちゃんのタッパがあるから、あまし氏は膝も折らないし変にぺたんこな靴も履いていなくて、とてもよかったです。
 からの、スーパーおだちんタイムだったところが七城くんになっていて、梅田はさすがにはかはかしたけど市川では手拍子も入って楽しそうで溌剌としていて、そうそうこういうところから若手は出世していくんですよ!と胸熱でした。新公主演するまではわりと扱いが悪かったスターさんだと思うんだけど、実力あるし華が出てきたし、ホント楽しみです!
 からのロケットはセンターがおはね! ぎゃんかわ! 中高なのにおはねセンターだから両脇が男役で、それにもときめきました。
 さらに、りんきらのソロからちなっちゃんインの同期タイム、胸熱…! マイティが加わり、全員へ。そしてマイティが残って…美しい構成でした。てかやっぱマイティのダンスはイイですよね!
 フィナーレとっぱしもぱるりりの「ムーン・リバー」でキュン! からの娘役を率いたあまし氏の「ムーンライト・セレナーデ」めっちゃイイ!! からの男役の黒燕尾…ぎゃーカッコよーー!!!
 りんきらが美女ふたりはべらかして歌ったのはこのあとか? そして粋でコミカルでハッピーなデュエダン! カゲソロはいちごちゃん、ノリノリでとても良きでした。
 エトワールはのりんちゃん、パレードもゴージャスでよかったです。

 千秋楽の札幌まで、どうぞご安全に! そしてお披露目本公演も楽しみです!!










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