駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『IAFA』初日雑感

2019年10月06日 | 観劇記/タイトルあ行
 宝塚歌劇月組公演『I AM FROM AUSTRIA』大劇場初日と翌日11時の回を観て帰京しました。日本オーストリア友好150周年記念、おめでとうございます。原作ミュージカルは2017年ウィーン初演、二年間のロングラン公演だったとか。カテコでご紹介ありましたが、関係者さんたちがたくさんいらしていました。いろいろ改変もされているようですが、おもしろく思っていただけていたら嬉しいです。私はおもしろく観ました。
 原作ミュージカルは3段重ねみたいなケーキ型のセットが有名なんだそうですが、冒頭のホテルのセットはそのイメージも踏襲していて華やかでした。というか今回はちゃんとお金がかかっている感じがしました、セットにもお衣装にも。特にお衣装は、現代物だからって急に安っぽくなるときあるからさ宝塚歌劇って…
 ヨシマサ大好きオープニング映像もいい感じ。オーバチュアに乗って赤と白のオーストリア国旗をかたどった道が、ウィーンの街を奥へ奥へと伸びていくのにはワクワクしました。キャストとそのキャラクター紹介、それぞれのテーマソングみたいなナンバーのサワリを聞かせるのもいい感じ。その後けっこう多用される映像も全体にいい感じだと思いました。もともとジュークボックス・ミュージカルでそんなに深いお話ではないんだろうけれど、その明るさ、ライトさ、楽しさをチャチになるギリギリの映像がうまく効果的にオモチャ箱感で表現していて、ちょうど良かったんだと思うのです。
 そう、オーストリア人にとっては有名な作曲家の有名なポップソングばかりで綴られたジュークボックス・ミュージカルなんでしょうが、我々日本人にとっては、オーストリア第二の国歌と言われるほど有名な、作品タイトルにもなっている主題歌すらまったく未知のものなわけです。が、やはり楽曲の良さ、新鮮さは十分伝わりましたし、ミュージカルとしての楽しさを底上げしていたと感じました。各ナンバーのダンス展開っぷりもとても良かったです。ちゃんと宝塚歌劇の下級生活躍場面として手を入れられているんだろうな、と思えたのもよかったです。
 外部作品あるあるなんだけれど役はやはり少なくて、梅芸公演とかで本当はよかったのかもしれません。来年の御園座公演もこれでよかったのでは、とは思いました。でも組子はみんなアンサンブルでもがんばっているし、れいこが復帰してちなつが戻ってきての新生月組!というスタイルが見えたので、よかったかと思います。ファンは何度も通って端の小芝居まで楽しむんでしょうしね。
 くらげちゃんの完全復活も頼もしかったです。こういう別格娘役ないし二番手娘役を擁していることは、組にとってとても重要なことだと思います。ありちゃんやおだちんがこういうライトな役を今、たくさんやっておくこともとても大事だと思いました。もちろんもっと深く濃く重い演技もできるスターさんたちだけれど、そういう宝塚歌劇っぽい悲劇のロマンスとかちょっと辛気くさい芝居とかはまたすぐ回ってくるものですからね。ライトなコメディをきっちり仕上げて観客を笑わせハッピーにさせる、という仕事を今覚えておくことは、将来絶対に利いてくることだと思います。
 気持ち尺が長いフィナーレもとても良かったです。本編が明るいコメディなんだからそこに豪華なフィナーレって、まさしくてんこ盛りデザートのおかわりみたいなものでお腹いっぱい大満足…なんだけどやはり別腹で、れいこの歌唱指導やありちゃんのロケットボーイが楽しめてちなおだシンメもあって、本舞台で珠城さんが男役引き連れてガシガシ踊るところにれいこちゃんが娘役ちゃんたちを引き連れてザカザカ降りてくるカッコ良さたるやたまりませんでしたし、パレードでれいこちゃんがちゃんと二番手羽を背負ったのもよかったです。ちなつとふたりででもよかったろうところを、くらげちゃんがちゃんとソロ付きのひとり降りだったのもとてもよかった。エトワールははーちゃん、まだ緊張気味に聞こえたけれどどんどん良くなることでしょう。
 ホテルの社長令息、チャラく見られがちな青年ジョージ役の珠城さんと、ハリウッドで活躍する世界的大女優エマ役のさくさくは見事なハマり役で、これも素晴らしかったです。さくさくの評価って実はまだ定まりきっていないと私は感じているのだけれど(ちなみにここを読んでくださっているみなさまはご存じでしょうが私は大好きで高く評価していて、初詣カレンダーから注目していたし『1789』新公とかホント良かったと思っているし上手いし綺麗だし以前はちょっとおばちゃんっぽく見えがちだったけれど近年どんどん垢抜けてきてトップ娘役就任になんの問題もなかったと思っているし他の生徒さんを推したかったのかなんなのかわかりませんが外野がやたら叩きがちな意味がさっぱりわかりません)、こういういわゆる「美人女優役」が嫌味なくハマる持ち味ってロリになりがちな昨今のトップ娘役事情からするととても貴重だし、なんでもできたちゃぴと比べると確かにガラは狭いかもしれないけれど立派に有望だと思っています。ただ今回はちょっと足下がバタバタして見えるときがあったかなー。せっかくの美脚なんだし、そこはどーんとかまえてビシッと見せていただきたいので、課題がないわけではもちろんないんですが、この先さらに成長していいトップコンビになっていってくれることを期待しています。特に歌唱では珠城さんを立派に支えてくれることでしょうしね。あ、あとデュエダンの髪型は『OTT』に続いて私は今回も不満…もっとオーソドックスな方がいいってば~! これはまどかもやりがちなので、自信のなさが出ちゃうんだろうなー…(><)
 「等身大の役」というのも意外に難しいものですが、珠城さんはそれが上手いのも強みのひとつですよね。青柳さんを経ているからかもしれませんが、自分が経済的に恵まれた育ちである自覚があり、ホテルの次期オーナーとして期待されていることもわかっているし自分でもちゃんとやりたいと思っているけれど、ちょっと窮屈に思っていたりまだまだ友達たちとキャッキャして甘えていたいと思っていたり、かと思えば自分が継いで両親を早く楽させてあげたいとも考えている、根は真面目な、あくまでいい子な、好青年。ぴったりでした。「ハリウッド女優」に実はあんまり興味がなさそうなところも今どきの若者っぽくていいですよね。「僕はエマ・カーターというブランドに興味はない」みたいなことが言えるのはなかなかいいです。でもそれはエマの女優という仕事を愛するプライドやキャリアの否定ではない、ところもいい。原作の主役はエマで、宝塚歌劇ふうに主人公をジョージに変換されていてもストーリー展開の軸となるのは本質的にはやはりエマなんだけれど、単なる触媒なだけのジョージになっていないのはさすがだなと私は思ったのですが、それはもしかしたら贔屓目と、宝塚歌劇マジックがあったかもしれません。それか、ちゃんとジョージに活躍の場を与えたヨシマサの功績か…
 それと、ジョージの過去にいわゆるロミオみたいな、今までも適当に異性とつきあってきたけれど本気の恋は今回が初めて、みたいな余計な説明がないのが個人的には好みでした。エマも同様です。単に原作にそうした描写がなかっただけかもしれないし、変に付け足すにはヨシマサがザルすぎたのかもしれませんが、今回の恋のスペシャルさを表すためにわりと付け足しがちな安易な設定だと思うのです(少なくとも私ならやらかすと思う(^^;))。でもジョージもエマもいい大人なんだし、過去があってもなくても今の特別さには関係ない、というスタンスがとてもクールでいいなと思ったんですよね(ところであの「クール」連発にはなんのこだわりがあるの? 原作準拠なの? ドイツ語圏で今「クール」って英語が流行ってる、とかなの? 今の「セクシー」みたいなものか? 流行っていないか別に…)。その上で珠城ジョージ童貞説とかを勝手に妄想して萌えたい、というのがファンの性だと思います(笑)。
 れいこやまゆぽんのわかりやすくベタな悪役っぷりと、ちなつくらげのミッドライフ・クライシスからのフルムーン・ラブもいい。フェリックスのお相手は原作ではアンナだったようですがまさかのパブロになっていて、ありおだってのもとてもいい。全体に組子のそういうバランスがとてもいいと思いました。組ファンがリピートするのにもいいし、ビギナーを誘うのにもいい演目だと思います。チケットが順調に売れていくといいな、そしてなるべくみんなが観られるといいな、と思います。他組は観ない、みたいな人も食わず嫌いはやめて、演目として一度は観ておくといいんじゃないかなとも思います。今の宝塚歌劇に足りないもの、日本のオリジナル演劇に足りないものが何か、みたいなことも考えさせられます。これが『エリザベート』のように何度も再演されそして消費されていく作品になるかどうかは正直やや微妙かなと思いますが、日本初演の初日に立ち会えて光栄でした。どうなるんだろう、と固唾を呑んで見守っていたのが徐々にほぐれて、笑いがこぼれ手拍子が湧くさまを体感できて、楽しかったです。パレードのどよめきも胸アツでした。
 配属された研1生も加わってかぐやちゃんも復帰して、やっと休演者なしのフルメンバー上演でした。千秋楽まで事故なく怪我なく、楽しく作品を深めていってくれることを願っています。今から新公も楽しみです!

 さて、では以下、辛口ターンです。あ、今さらですが以後はさらにネタバレ全開で語りますので、すでにご覧になった方かネタバレを厭わない方、予習したい派の方のみお読みいただければと思います。すでにご覧になっていて、百点満点大満足!という方もここでUターンした方がいいかもしれません。
 ではでは。
 海外ミュージカルにはほとんど台詞というか芝居パートがない、ソング&ダンスなオペレッタみたいな作品も多いようですが、ウィーン版をご覧になった方の感想ブログなどを読んだ限りでは(こちらとかこちらなど)この作品はそんなことはないようです。なので全部ヨシマサが一から作らなくちゃならなくて大変だった…ということではないはずなんですが、ヨシマサってこんなに台詞が、というか脚本が、日本語が下手だったっけ?ととまどう荒さ、雑さ、スカスカさで、脳内ル・サンク赤字入れが忙しくて私は終始イライラしました。てか今回は「ル・サンク」に脚本が載らないパターンなんだろうな…プログラムにも歌詞が一切ないし、そういう契約なのかもしれません。ちなみに歌詞もどれもあまり良くなかった…マシに思えたのは「マッチョ! マッチョ!」くらいかな? アレは特に意味などなくて、パワーで押し切るナンバーだと思うので(^^;)。でもそれ以外はもっと丁寧に手を入れてほしかったです。もちろん元の歌の歌詞から大きく改変することはできなかったのかもしれませんが、あいまいで意味や意図がわかりづらいものが多く、残念でした。日本の観客には知られていない歌ばかりなんだから、観客が聞くのはまず歌詞ですよ、そこに込められたキャラクターの感情や物語を読み取ろうとするんですよ、演出家はそれに応えなきゃダメですよ。
 台詞も、何を指しているのかわからない指示代名詞が多かったり言いきらない語尾が多かったり受け答えとしてズレているものが多く、原作のギャグを上手く訳せていない以前の問題があまりに多すぎました。こういうことに観客をいちいち引っかからせてストレスを与えるのはコメディーとして致命的だと思うのです。なんでもっとブラッシュアップできないのか本当にナゾ…時間の問題だというなら今からでも手を入れて休演日以降、新公以降、東京公演からでも改良してほしいです。もったいない!
 たとえば…いちいちあげていくとキリがないんですけれど、まず冒頭でエマがお忍びでホテル・エードラーに泊まりにくることをボーイのフェリックスがツイッターでつぶやいてしまうのって、「リーク」とは辞書的に、ニュアンス的に違うんじゃないでしょうかね? またその後何度も何度も「リーク」って言葉を出すんですよ、覚えたての新しい言葉を自慢している子供なのかヨシマサ!? 繰り返すことに意味がある場合を除いては、同じことを違う言葉で表現するのが物書きのプロでしょう。本当にイライラしました…
 で、そのツイートにパパラッチたちがホテルに集まってきてしまって最初のナンバー「ホテルロビー」が始まるんだけど、パパラッチたちの前にまず現れる「セレブ」たちって何? ピコ太郎みたいなバイトのゆりちゃんとかいるんだけど、これは本物のセレブなの似非セレブなの? パパラッチ同様、エマ来訪のツイートに乗っかりに来てるってこと? 説明が欲しいんですけど…もしかして歌詞にあるのかもしれないけれど聞き取れないし、一曲目がこれで私は初日、正直言って頭を抱えました。
 二曲目の「NIX IS FIX(全てが可能)」も、私の英語力が貧弱なだけで私だけが意味がわからないでいるのであれば申し訳ないのですが、「NIXがFIX」って何? 私が知っているフィックスは、たとえばいくつかあった予定の日程がひとつに固まった、みたいなとき「日時がフィックスしました」というようなものくらいなんですけれど、世の常識はもっと違うの? サビだし一度くらいは原語(なのか? 原作はドイツ語上演ですよね、でもこれは英語…ドイツ人が外国語としての英語を使うときの独特かつドイツ語圏では常識、みたいな表現なのでしょうか…?)で歌うにしても、あとは「♪うまくいく」とか「♪できるはず」とか「♪やってやる」とか歌わせるだけでだいぶ意味が通ると思うんですけれど…あと、これは言っても詮ないんだろうけど、長い。なのでダンスナンバーとしても意味を持たせないとつらいんだけれど、ここでダンサーとして出てくるのは主にクリーニング部の男女なので、そのことに意味を持たせないとダメなんですよわかる?ヨシマサ。単に下級生の顔見せをさせたいってのは劇団都合なんだから、たとえばホテルスタッフの特に若手たちはジョージを皇太子扱いするどころか同年代の友達としてフランクに接していて、かつジョージが導入したがっている新しめの、アメリカナイズされたジムとか新企画に期待していてホテルの刷新を望んでいて、だからジョージがセンターで自分の夢を歌い出したときに彼らがバックに加わるのである…とかにしないと、意味不明でしょ? ミュージカルのイメージシーンだからって意味なく従業員たちが歌い踊ってたらなんでオーナー夫妻は怒らないのか、見えていない設定なのかって観客は混乱するじゃん。そういう混乱、引っかかり、ストレスを観客に与えちゃダメなの!
 続くエマの「私の居場所」も歌詞があいまいでぼんやりしていてあまり良くないです。素敵なバラードなんだけれど、ここでエマが、今の仕事に疲れているとか望んで飛び込んだ芸能界だけどあまりの虚飾がちょっとしんどい、みたいな状況にいることをもっとダイレクトに、かつうまく伝えてほしいのです。
 順番が逆かな? ジョージがエマへのお詫びにエードラー・トルテを差し入れることを思いつくくだりも、ハイジとクララ(この名前だけで笑うのが今の日本の「常識」ですよね…)といるときに「ああ、エードラー・トルテか!」と言わせた方がいい。大きな舞台であんな小さな皿の蓋開けただけで中身が何かなんてわからないっつーのなんで「ああ!」だけでやめるんだよなんの省エネだよヨシマサ。あ、「なんて」と言えば「エマのことなんて、忘れられないよ」みたいなジョージの台詞が後半にあって、その「なんて」はおかしいやろ、とつっこんだこともありました…(><)
 細かいようですがザッハトルテって実はそんなにメジャーなお菓子の名前じゃないと思うし、「ザッハ」が人名だってことはもっとマイナーだと思うので、宝塚ホテル云々よりあのくだりの方が寒くて私は震えました。服についたクリームをなめちゃうエマや、床のケーキを勧めるジョージには萌えたんですけれどね。あと、あのいかにもセレブの部屋着のハイブランド・ジャージ、みたいな服はイイ! ホント今回のお衣装(加藤真美)はこういうところがちゃんとしていました。
 エマに二度も三度もジョージを「おもしろい人ね」と言わせるのも寒ければ、脚本がジョージにそこまでおもしろいことを言わせられていないのも寒い。全部ヨシマサの罪です。もっとちゃんとおもしろいことを言わせてくださいよ頼むから…
 原作都合なのかもしれませんが、エマにホテルを案内するジョージがまず製菓部に行く意味もわかりません。あちこち覗いていくつかめに行くべきでは? すんごい設備があるわけでもないし…それか最初から、トルテに興味が出たならその生まれ場所に行こう、とかにした方がいいのでは? 冷凍室の装置がハートなのは可愛かったですけどね…あと休憩が厳密とかってやりとり、要ります? 女優は24時間営業だってこと? ホテル・エードラーはホワイト職場だってこと? 意味を持たせたいならその意味をはっきり説明して! 意味がないならカットして! ベルが鳴って従業員がいなくなれば、休憩だって十分わかるんですから! あと、この場所でラストにジョージとエマが再会するので、場所の名前を明示してほしい。「パティスリー」ってなんだよ、ウィーンに有名ケーキ店でもあってそれが原作ジョークになっているのかと思ったよ…(><)
 「キス!キス!」も歌詞が今ひとつわかりづらくて何を意味している歌、場面なのかあいまいでもったいない。ただたまさくがラブラブ歌って見えるだけじゃダメなんですよ…ラウンジバーでの「中年の危機」もイントロというか前半が今ひとつ…今はゴリゴリのビジネスウーマンなロミー母さんだけど若い頃はイケイケにはっちゃけてたよ、って歌なんでしょ? だからラテンダンサーが湧いてくるんでしょ? でもそういう導入ができていないじゃん、なんでどうしてどこから湧いたのこのラテン?ってぽかんとなるじゃん…くらげのダルマは素晴らしいけれど、そんなことではは私は騙されないんだよ!
 そんな私は大学で履修した第二外国語がドイツ語だったので「ヴァルトフォーゲル」がギリわかったけれど、もう少しフォローが必要かもしれないとこれまた引っかかりました。でも「ブロンド」場面はさすがにわかりやすいし、ザッツ・ミュージカルで楽しい。パブロ登場!からの「マッチョ!マッチョ!」もわかりやすくていい。れいこリチャードがメインで歌っちゃうのがまたいいですよね。でもパブロが必要以上に片言というか、いわゆる外国人しゃべりをさせられるのはいかがなものか…最近でも『壬生義士伝』のヒメのしゃべり方を批判した私ですが、原作でもスペイン語訛りでしゃべっていたりするのかなあ? 訛りはともかく欧米ではある程度英語で意思疎通ができるんだと思うし、そのしゃべり方で変な笑いを取ろうとしたりはしないのではないでしょうか、知らんけど。とにかく今の日本でこれをやると単に外国人差別になるだけだと思うので、早急にやめていただきたいのです。
 続く「太陽が降り注ぐ路」は、歌詞はけっこうあいまいなんだけれど「影」のダンスが奏功して吉。「夜のウィーン」もムードがあって素敵でした。いい1幕ラストです。
 でもからんちゃんたちを「ホームレス」だと言っておきながら「彼らにはここがホームなんだ」っておかしいでしょヨシマサ? そこは「故郷」でいいのでは? サブタイトルにも使っているんだし…てかもっと自信持って日本語を使ってほしい。ロミーが「私たちはファミリーなのよ」と言うのもシシリアマフィアなの?と違和感…「家族なのよ」でいいじゃん、マトカのデジャブは振り切るからさ!(><)
 ゆりちゃんやはーちゃんセンターの警官たちの「エマの捜索」があるのも良き。「スポーツ万歳」も客席降りがあったり参加型エアロビ(?)があったりして楽しいです。でもリチャードやライナーにエルフィーのことを「ババア」と呼ばせるのは今すぐやめさせていただきたい。彼らの悪役キャラの表現としてあえて言わせているのかもしれませんが、ヨシマサ自身にそんな信頼はないです。というか今の日本のエンタメにそんな信頼が望めないんだから、まずはこういう表現は全カットすべきです。こんなひどい言葉はよっぽどの悪人でない限り公の場で口になどしないものだ、という共通認識ができて初めて、意味をなす描写です。うっかり無遠慮に口にしてはばからない愚劣な男が世にはびこる状態、そういう描写をして平然としている男性作家が蔓延している状態では通じません、無理です。不快なのでやめてください。
 あと、エルフィーの姓が浸透していないからカタリーナ・シュラットのギャグが不発なんですよ、わかります? それにジョージをやたらフランツ・ヨーゼフ呼ばわりしているから、その愛人って言われても微妙になるの。わかります? ヨハン・シュトラウスが親子どっちも、ってのはよかったんだけどなあ…
 ペガ子ならぬヘリ子は驚いたし楽しいから吉。主題歌をオーストリア人と同じテンションでは味わえないかもしれない我々ですが、美しくて良き。そして山小屋の一夜、翌朝エマのリボンタイがほどけているならジョージもセーター脱いでいてほしかった…が、いい朝チュンなので吉。からのエマの誤解が初日はちょっとムリめに見えましたが、次の回からは埋めてきていて吉。フェリックスの「ごめんよジョージ」のおもしろさも吉。
 ジョージがリチャードと対決するときに「きみ」と言うのはおかしいと私は思います。そのあと「あんた」とかになってるんだからそもそも統一するべきです。その後のリチャードの「汚職のタンゴ」、いいんだけどマネージャーのこういう悪さは「汚職」とは言わないのでは…? 
 製菓部で再会したジョージとエマのやりとりは奇跡的によかったですね。本当は、エマ自身がちゃんとした演技のできるちゃんとした女優なのか、そういうものを目指しているのか、単にチヤホヤされたいミーハーなのかそもそも世間の評価もアイドル女優程度なのかはっきりしないので、ジョージに「エマ・カーターというブランドには興味がない」と言わせるのはけっこう危険です。エマはそこにプライドを賭けて、家族も故郷も捨てて単身渡米したはずなんですからね(そういえば「母との難しい関係」が説明されていないのも気になりました。あとここでエマが「母」と言っているのにジョージが「パパ」と言うところとかも)。でもそのあとジョージが言うのが、よくある「ただの本名の、ありのままのきみがいい」みたいなんじゃなくて、「一緒に背負いたい、やっていきたい」という宣言なのがいいんですよね。女の仕事やキャリア、人生を否定しない男、共に背負いたい沿いたいと言ってくれる男、女が望むのはコレですよコレ。原作にあるのかもしれないけれど、ヨシマサがわかってて書けているとはとても思えないので、奇跡の台詞だと私は感じました。
 オペラ座舞踏会(「オペラ舞踏会」だと変じゃない?)、エリザやベルばら仮装のゲストがいるのは宝塚歌劇っぽくて良く、エルフィーが純白のドレスを着てデビュタント然としているのもとても良き、でした。パブロの「ブエノスアイレスのマンマ!」もとてもいいし(こういう表現をマザコンと貶めてはいけないと思う)、フェリックス、アンナ、マーチンの展開(改変)もよかったと思いました。
 ただ、これは『オーシャンズ11』大楽でかなこハロルドがりくバシャーにチューしちゃったときに私が密かに感じたことなんですが、ここでやるべきだったのはむしろバシャーからハロルドへのキスだったんですよ。それまでハロルドに迫られるのに怯えてきたバシャーがガバッとやり返すのならよかった、それで客席が湧くならいいんです。それは『王妃』こんクレのやられたらやり返チューにほぼ近い。両想いになった、ないしバシャーからのサービスだとしても、ハッピーエンドだからです。でもバシャーはそれまでずっと嫌がっていたんだから、そこをハロルドが襲っちゃうのは、それはレイプなんですよ。同意なき性的行為は挿入でなかろうとレイプです。宝塚歌劇だろうと、主に女性が消費する娯楽だろうと男性優位社会で作られた男性異性愛者視点の性愛ファンタジーに毒されてしまっている部分は残念ながらあって、もちろんこれはBL的でもありかつそもそも中の人は女性同士でもあるんですが、でもそういうこととは別に、「ノーという意思は尊重されるべきなのであり、同意なく強要するのは犯罪です」ということは徹底して周知していかなければならないことなので、こういうところで笑っちゃってちゃダメなんです。よかったねハロルド、とか言ってる場合じゃないの、だってバシャーのノーって意思が踏みにじられてるってことなんだから。私たちは男社会でさんざんやられていて嫌だと思っていることを、タカラジェンヌにやらせて復讐したような気になっていてはいけないのです(BLで男にやらせて仇を討っているようなところがある、というのは私の持論のひとつですがそれはまた別の機会に…)。バシャーの方からキスするならよかった、描けていないだけでバシャーがその気になったんだと類推することはできるからです。驚いただろうハロルドが想いが報いられて嬉しかったろう、とみんなして喜べるからです。
 だからパブフェリも、大楽にはチューしちゃうんだろうな、というようなツイートも見ましたが、フェリックスが嫌がってるままならパブロはこれ以上しちゃダメ絶対。
 ただ救いがありそうなのは、すでにしておだフェリがあまりありパブを嫌がってなさそうなところですよね(笑)、ありおだって素で仲良しだそうですもんね。だからフェリックス自身に同性愛に関して偏見がなく、またアンナにフラれた直後でもあるけれど、口説いてくるパブロがとにかくカッコいいし大スターだしいいヤツなんでちょっとときめいちゃう、って方向性の芝居をしてくれるならアリなんですよ。本当にバイセクシャルなのか愛があるのか流されてるだけなのか、は実は微妙ではありますけれどね。でも今まででありがちなのは、というか今やってるのは、ノンケがオカマに迫られて嫌がるのを観て嗤う、って構造でしょ?(あえてこう表現します)それはいじめです、異性愛者が数的優位に立って弱い者いじめをしていることになるんです。それは同性愛差別です、多様性の否定です、人権侵害です。そういうのはやめていかないとなりません。ここは強く警告しておきたいです。
 パブロは自身のセクシュアリティを隠すためのカモフラージュとしてエマとの結婚の計画を了承していたってことなんですよ(そういえばリチャードは「アクセサリー」と言っていましたがここは「トロフィー」でしょう。原作ではトロフィーワイフにあたるドイツ語が使われていないのかなあ…?)、せつなくないですか? しんどかったろうと悲しく思いませんか? 彼のテーマソングにある「マッチョ」は筋肉モリモリというよりは男性優位主義のことなんですよ、彼はそれに苦しめられてきたという皮肉が示されているんですよ。男性でも女性でも性別がなくても、異性愛者でも同性愛者でもどんな性的指向でも、未婚でも既婚でも子供がいてもいなくても、障害や持病があっても、誰もがありのままでいられる、幸せで優しい世界を目指すべきだと思いませんか? 宝塚歌劇を観るような、心豊かで良識があり理想を語れるはずの人間が、安易に堕ちてはいけない闇がここにあることの危険を、私は案じます。口うるさくて申し訳ない、偉そうにわかったようなことばっか言っててホント申し訳ない。でも警告しておきます。安易にありおだに萌えるだけ、では看過できない問題が確かにここにはあります。頼むよヨシマサ!


 最後に、齋藤吉正先生をさんざん「ヨシマサ」呼ばわりしていることを一応謝っておきます。ご不快に思われた方も多いかもしれません、申し訳ございません。
 ファンの方にもすみません。でも私だってファンです、だから初日から有休取って遠征して観ているんです。尊敬も期待もしています、でもクオリティの低さに愕然としてつい呼び捨てになることがあるということなんです。
 さらなる奮起を期待しています。心底絶望したら言及もせず観にも行かなくなりますから、それよりはマシ、悪口言われるのも有名税だと思ってご容赦ください。残念ながら作家ってそういうものだと思います。がんばってください。
 失礼な言いざまで本当に申し訳ない…では本日はこれにて、どろん。




 









コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 宝塚歌劇星組『GOD OF... | トップ | 本郷地下『メトロ』(集英社... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (麻生)
2019-10-06 20:43:45
はじめまして。
いつも拝見しております。私の見かたとは違うことも多く、勉強させていただいております。

初めてのコメントでこんなことを申し上げるのは恐縮ですが、一点だけ言わせてください。
感想中の、特定のジェンヌ(B)のファンが、別のジェンヌ(A)を貶めているように読み取れるくだりは、不要に思います。
そんなことを思ってもいなかったBのファンが拝読した際、「Aのファンからそんな風に思われているんだ」と思い、巡り巡ってAに悪印象を持ってしまうこともありそうです。
もしかしたら駒乃様が実際にBファン同士の会話か何かを見聞きされて、腹立たしい思いをされ、どうしても一言込めたいと思われたのかもしれませんが、せっかくの楽しいミュージカルの初日感想に、嫌な思いをぶつけ合ってもお互いヒートアップするだけでないか、と思いました。
生意気を言って申し訳ありません。
ご不快でしたら、コメントは削除してください。

後半の、愛ある叱責は一つ一つ頷かされることばかりでした。日本語として「?」なやりとり、宝塚の舞台から無くなりませんね。
ちなみに私は、「トラファルガー」での「ぬくもり」連呼の頃から齋藤先生の日本語能力と品位を疑っております……。
返信する
Unknown (麻生さんへ)
2019-10-06 22:12:21
コメントありがとうございました。
ご指摘の箇所、確かに私の見聞の中での私の感想を書いたつもりでしたが、
今さら再度煽ってもいいことないので修正しました。
ご指摘ありがとうございました、ご不快にさせたこと、お詫びいたします。

「ぬくもり」の連呼、ありましたね…(>_<)
まあアレはキーワードとしてこだわりたかったのだろうと解釈していますが、
マストを翻らせたのはまずかった…(ToT)
簡単な校閲くらい通してほしいし、誰かに読ませてブラッシュアップさせてほしいです。
自分だけでは気づかないところがあるのは誰しも当然なので…
生徒もやりにくいと思うんだけどなー、不満も言わずがんばっちゃうんだろうなー…
そのがんばりを応援しに、また劇場に向かう予定です。


●駒子●
返信する

コメントを投稿

観劇記/タイトルあ行」カテゴリの最新記事