駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

新翔春秋会『吉野山/春興鏡獅子』

2024年09月10日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 京都芸術劇場春秋座、2024年9月8日12時(千秋楽)。

 素踊りの『吉野山』は、『仮名手本忠臣蔵』『菅原伝授手習鑑』と並ぶ義太夫狂言三大名作のひとつ『義経千本桜』の名場面のひとつ。初音の鼓を持つ静御前が藤間勘十郎、佐藤忠信実は源九郎狐を市川團子。
 新歌舞伎十八番の内のひとつ、通称『鏡獅子』は作/福地桜痴。明治時代に九代目市川團十郎により初演され、しばらく上演が途絶えていて、1914年に六代目尾上菊五郎が復活させて当たり役となり、以降たびたび上演されるようになったもの。小姓弥生後に獅子の精が市川團子。

 知らないことばかりのにわかミーハー歌舞伎ファンの私ですが、公演発表時に、「團子ちゃん主演ってこと? 女形と毛振りの両方が観られるの? え、観たい!」となって、親切でくわしいお友達にチケットを取っていただき、別のお友達も同じ回を観ることにしてくれて、三人で楽しい道行となりました。
 春秋座は京都芸術大学の中にあるんですね。京都駅からバスも出ているようでしたが、アクセスはそれほど良くなくて、在来線と京阪とタクシーを乗り継いで移動しました。開場は2001年、三代目市川猿之助が「実験と冒険」を掲げて設立したそうです。とても綺麗で素敵なハコ、いやコヤと言うべきかな、でした。鳥家が大きいのが自慢だそうです(笑)、いいですね。
 今回の二演目は澤瀉屋に所縁ある作品だとのこと。私は染五郎みたいなキレッキレに尖った美少年タイプはちょっと苦手で(あくまで顔の話ですすみません)、朴訥と言っていいくらいの團子ちゃんの顔の方が好き、みたいなところから入っているホントただのミーハーなのですが、去年の博多座二月花形歌舞伎『新・三国志 関羽篇』で初めて観て、『不死鳥よ~』なんて代役主演初回も観に行っちゃいましたし、『新・水滸伝』も南座まで観に行っちゃいましたし、『ヤマトタケル』は来月博多座までまた行っちゃいますし、出るなら何が何でも全部観る、みたいな追っかけ方はまったくしていませんが、密かに心ときめかしているのでした。二十歳なんてもう孫なのに…!(笑)最初は「その、こ…ではない、よ、な?」みたいなところから、やっと血縁関係だの歴史だの今の状況だのがなんとなく私でもわかるようになってきたのでした。
 でも、変な悲壮感がないのがいいですよね。いろいろ背負わされて大変なんだろうけれど、好きだからやっていて、やりたくてやっていて、楽しそうにやっている感じがします。イヤそりゃ当人はホントは悩んだり足掻いたり迷ったり焦ったりいろいろしていて大変なのかもしれないけれど、周りもいろいろ思惑はありつつもきっちりサポートしている感じで、当人も伸び盛りで(背がにょきにょき伸びていて、観ているこの二年で少年からもう立派な青年になりましたよ…!)成長著しいのではないでしょうか。
 私は古典にはまだまだ歯が立たないのもあって、スーパー歌舞伎や新作歌舞伎を選んで観ているようなところはあり、やはり四代目のプロデュース力、アレンジ力、アップデート感ってすごいんじゃないかなと思うので、できればどんな形でも復帰していただきたい、という気持ちはあります。團子ちゃんのためにも、というのもありますが…そのあたりも、素人ながら見守っていきたいです。
 今回も、とても発見の多い観劇になりました。自身の研鑽の場として立ち上げ、これが第一回公演とのことなので、今後回を重ね、芸を磨き、ますます大きな歌舞伎役者さんになっていくのでしょうし、そのときに「最初の回を観たんだー!」と自慢できるような(笑)ものだったと思います。楽しかったー! 観られてよかったです。

 そんなわけで素踊りの『吉野山』は、まずおっさんが出てくるわけです。イヤ私よりは十も若いんだけどさ。女性のお化粧でいうところのファンデーション程度は塗っているようにも見えましたが、白塗りみたいなお化粧はもちろんしていなくて、お衣装もなく、単なる着物に袴姿です。でも、動くと女性に見える。仕草、身振り手振りが女性なのです。あなおそろしや…
 鼓に親の皮が使われているんで、子狐が慕って人間に化けて出てくるんだよね、程度の設定しか知らないで観ていましたが、鼓の音と、歌舞伎独特の「人外のものが出ますよ」効果音とともに、花道のスッポンからセリ上がりが…私の隣のマダムはおそらく熱心な團子ファンで、ものすごい勢いで爆竹拍手を切っていました(笑)。
 てか、セリ、まだ上がるんだ!?ってくらい、背が高い! 顔が小さい! だがもちろん歌舞伎役者にはいいサイズで、アイドルみたいに小顔すぎて見えないよ!ってことはない。ブルーグレーの着物に生成りみたいな、アイボリー色の袴が涼しげで美しいこと! そして腰の低い位置でつけているんだろうに、脚が長い! あんなのフツーのサイズの袴じゃ絶対につんつるてんになっちゃう! ツーブロックがすがすがしく、後頭部の丸みが可愛らしく、しかしお顔はキリリと凜々しく…もう乙女ポーズで見惚れてしまいました。
 踊りのことは全然わかりませんが、ダンサーとして捉えるなら、体感強いな、腹筋背筋ちゃんとしてるんだろうな、ということは素人目でもすぐ見て取れました。そしてときどき出るにゃんこみたいな狐仕草…ぎゃわゆい!! さらに狐ジャンプのものすごい跳躍力よ…どういうことなの!?
 静御前を見つめる瞳は、主人から警護を任された相手をひたと見据えるような、忠義や愛慕の情が漂うもので、観ていてキュンとなりました。親狐を狩って皮を剥いで鼓にした人間に、怒りや憎しみみたいなものはなかったのかしらん…前後の話を知りたいし、だから私は通し狂言が観たい派なんだよー、なども思いました。

 幕間の後半に、緞帳前に出たスクリーンで八分ほどの特別映像が放映され、ポスター撮影風景やお化粧の様子、お稽古の様子なんかが見られました。舞台化粧のことは「顔を作る」というのだそうな…團子ちゃんがお祖父さま大好きなのは知っていましたが、ここでも筆の持ち方が祖父に似ていると言われて嬉しかったとか語っていて、どんだけ…!と萌えました。てかスタジオに入るときのスーツ姿が、なんか就活中の高校生みたいなフレッシュさでたまりませんでした。たまにファッション誌とかの取材でスカしたスーツ着てキメて写真撮ったりしているのにね、素はホントまだまだ可愛らしいですね…!

 休憩のあとは、将軍の所望で初春恒例のお鏡曳き(ってナニ?)の余興で舞を披露することになった小姓(奥向きのお女中、腰元とかそんな感じ?)の弥生ちゃんが、飾られた獅子頭に乗り移った獅子の精に引っ張られて…という『鏡獅子』。前半は紫の地色に鮮やかな文様の大振り袖、でっかい立て矢の金色の帯も艶やかな女形、後半はお祖父さまのお衣装をそのまま着けての獅子の踊り、そして毛振りとなるわけです。
 タッパがあるから女形もまあ映えること! けれど可愛らしくもある、すごい!! これまた踊りのことは私は何ひとつわからないわけですが、扇や袱紗を次々持ち替えて、いろいろと趣向を変えて踊っている楽しさは伝わりました。後見さんが小道具を渡すついでに汗も拭っていて、なんかいいなーとうらやましくなったり…(笑)
 それで蝶だの獅子の精だのが飛んできちゃったということなのかな、踊りが上手いのも考えものですな(笑)。後半はこれもタッパが生きて勇壮な獅子姿で、圧巻でした。毛振り、素晴らしかったです。セットの鴨居? 欄干? を振り回される毛がわっさわっさと撫でているうちに幕…
 客席はすぐさまスタオベになりました。幕が再度上がって、胡蝶の精から順に紹介していって、脇に寄って舞台奥の長唄囃子連中も紹介し、その都度頭を下げて、最後はご宗家をお連れして舞台中央で最敬礼。獅子の頭をわしゃわしゃ撫でられて喜ぶ様子は、ホント可愛い大型犬でした。あとでネットの記事か何かで読んだのかな? ご宗家が團子ちゃんを「やっと私の『愛弟子』になった」みたいに評価していて、私まで嬉しくなっちゃいました。
 なんかホント、いいものを観た!って満足感で胸がはちきれそうでした。良き観劇でした。










コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする