駒子の備忘録

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新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐(つきのつるぎえにしのきりのは)』

2023年07月17日 | 観劇記/タイトルた行
 新橋演舞場、2023年7月16日16時半。

 西暦2205年。過去の歴史を改変しようとする人々は、時間遡行軍を編成して過去の時代に送り込み、歴史を変えようとしていた。これに対抗する審神者のもとに寄せられたのは、時間遡行軍が室町時代の永禄年間に出撃したという報告。時間遡行軍は将軍暗殺の首謀者とされる松永弾正(中村梅玉)を生きながらえさせて、戦国時代の到来を遅らせることを画策していたのだ。そこで審神者は、三日月宗近(尾上松也)、小烏丸(河合雪之丞)、髭切(中村莟玉)、膝丸(上村吉太朗)、同田貫正国(中村鷹之資)、子狐丸(尾上右近)を呼び出し、この陰謀を阻止するために永禄年間に向かわせる。ときは応仁の乱後、足利家の権威は失墜し、次期将軍の足利菊幢丸(右近の二役)は志賀の荒れ寺を仮御所として、妹の紅梅姫(莟玉の二役)とともにわびしい日々を送っていた…
 原案/「刀剣乱舞ONLINE」、脚本/松岡亮、演出・振付/尾上菊之丞、演出/尾上松也。刀剣に宿る付喪神が戦士の姿となった刀剣男士を率い、歴史改変を目論む時間遡行軍から本来の歴史を守る人気ゲームを、「永禄の変」を題材に古典歌舞伎の技法や演出を存分に取り入れて歌舞伎化。全二幕。

 ゲームなるものをいっさいやらず、いわゆる刀ステは『禺伝』を観ただけ、歌舞伎は『ナウシカ歌舞伎』以降ミーハーに勉強中ですが未だに初心者、そして室町年間の史実も『太平記』程度の知識しかない…という私ですが、チケットがダブったというお友達からありがたくお譲りいただき、いそいそと出かけてきました。
 お席は1階上手サブセン後方、このハコは1階の床の傾斜があまりなくてそこは観づらく感じましたが、前列に座高の高い男性に座られることもなく斜めに舞台センター方向が抜けて、花道も観やすく、良き1等席でした。なんかチケット発売のときに先行で買っても配席が良くないのなんのと炎上したのを見聞きしていましたが、私も自分で買うなら席を選びたかったのでチケットweb松竹であとからゆっくり買おう…とかは考えていましたよ? というかFC先行で買うのはそこへの貢献に意味があるんだから、席についてガタガタ言うべきじゃないんじゃないの?と私なんかは思ってしまうのですが…宝塚歌劇の生徒席ともまた違う、このジャンルの何か別ルールがあるのでしょうか。でもまあ、幕が開いたらおおむねとうらぶファンには好評…なのかな? よかったです。歌舞伎ファンにはどうなんでしょうか? 新作なんて観ない、というお年寄りたちからは完スルーなのかなあ、それはもったいないような気もするけどなあ…こうしたいわゆる花形歌舞伎の扱いがこのジャンルでどうなのかも私はよくわかっていなくて、おバカ発言があったらすみません。これまた宝塚歌劇の新公とは違うノリを感じますしね…
 で、ともあれ私は楽しく観て、そして泣いちゃいました…
 前説もあって、歌舞伎とは、刀剣乱舞とは、という解説が入るのも毎度ありがたいですし、プロローグが刀鍛冶の場面(やや長く感じないこともなかったけれど、歌舞伎と刀剣って切っても切れない関係でしょうし、ここにも私にはわからない何かのオマージュないし本歌取りみたいなものが込められていたのでしょう)から始まって、刀剣から男士たちが具現化し、ずらり並んでカッコいい名乗りを上げる!ズギャ~ン!!(心理的効果音)みたいなところから始まるので、つかみはオッケー!なワケです。
 で、そこからは、いくつか観てきた原作ものの新作歌舞伎からすると、すごく古典に寄せているな、松也と菊之助の作劇、演出の違いなのかな、とかがまず感じられて、それもおもしろかったです。座組の問題もあるんだろうけど、『禺伝』は六振りをなるべく対等に扱い見せ場もそれぞれ等分に作ろうと気を遣ってくれていたんだなあ…とかね。なんせ意外に刀剣男士たちの登場シーンは主役含めて少ないし、ドラマはむしろ弾正とその息子久直(鷹之資の二役)、義輝とが担っていて、はっきり言ってむしろ右近様々なんじゃないのこの演目?という気もしたので…
 でも、それで十分成立していて、ちゃんとおもしろいのがすごいです。歌舞伎の醍醐味が感じられる、というかちゃんと歌舞伎になっている。歌舞伎役者が「刀剣乱舞」をやる、というだけのものにしたくない、「刀剣乱舞」を歌舞伎でやるとこうなる、というものをきちんと見せたい、という矜持がビンビンに伝わりました。松也自身がゲームのファンで、でもあくまで歌舞伎にとっていいこと、必要なことをやろう、としているのがいいんですよね。原作へのリスペクトがちゃんとある上で、再演され続け古典になっていく演目を作ろうとしている、その意気や良し、なんです。そういうのがなーんもないままに人気漫画をただテレビドラマ化しただけ、みたいなものを散々見せられている身からすると、ホント沁みました…
 紅梅姫が宗近に想いを寄せちゃうくだりも良くて、また宗近は男性じゃないどころか人間でもないのでそこはクールにスルーなんだけれど、でもそういう視点をそもそもとうらぶに持ち込んでもいいんだ?そういう視点を初めて持ち込んできたのが基本的に男性ばかりで作っている歌舞伎からなんだ??ということにも仰天し、かつときめきました。私はこれまた最近やっと「赤姫」というものを理解するようになってきたのですけれど、歌舞伎にはそういうお若く美しいお姫さまキャラクターのジャンルがあるんですよ、というのをただ見せるためだけであったとしても、やっぱりこのくだりにはものすごく意味があったと思うし、まるる(と知ったかぶりして愛称など使ってみる)が兄者とこの姫、立ち役と女形の二役をやっているというのがまた本当にザッツ・歌舞伎で、早替わり含めてそこも素晴らしいと思うのです。で、メタつっこみギャグ、これも歌舞伎がまたよくやるよねー、というニヤリもあり、ホント楽しかったです。あとこの二幕二場の広庭のセットは盆で回って景色が変わるのも素敵で(美術/前田剛)、イケコか!って一幕ラストがカッコよくてもう大満足でした(プロローグと序幕、第二幕が前半、いわゆる一幕でここで休憩が入り、第三幕と大詰めが休憩後の二幕です)。
 史実の解釈には定説があって、物語としても弾正は悪役扱いされることが多いようですが、今回は義輝が異界の翁(澤村國矢)、媼(市川蔦之助。このふたりがまた声が良くて上手いんだ…!)に騙され操られている、ということになっているので、むしろ将軍を討たざるをえない家臣の苦悩…みたいなものが描かれているし、そこからの息子とのあれこれなどもいかにも歌舞伎な見どころで、おもしろかったです。男士が出てない場面がまあまあ長く続き、しかしおもしろく進むというとうかぶの奇跡…
 で、闇堕ちした義輝が大立廻りをやってみせて、それがもう日々の鍛錬と確かな段取りと信頼と様式美の権化みたいな大アクションシーンなんですけれど本当に白眉で、そこからさらに、今回は義輝の愛刀とされている宗近と義輝の無音の一騎打ちになるという、ね…! てかそうやって落ちるだろうと思っていた右近の崖落ち、もちろん奥にマットか何かが置かれているんだろうけど、なんの音もしないってどういうことなの!? そして残された刀がサスに当たって浮かび上がり、立ち尽くす宗近にもライト…泣くでしょうこんなの!!!
 そして最後の最後はまた刀に戻るところまで見せて、終わる。歌舞伎本丸これにて終了、というのもあるし、男士たちは顕現するたびにリセットされるような設定もあるんだそうじゃないですか。虚しいようなせつないような非情なような、クールなような…痺れました。
そしてバレード、さらには撮影アリのカーテンコール。楽しく華々しくにぎやかに終われて、送り出しアナウンスは日替わりだとか。サービスいいですねー!
 あ、よくある大詰直前のロック三味線タイム(と私は勝手に呼んでいるのですが正式にはアレはなんというのでしょう…)が今回は琵琶で演者が女性で、これも本当にエモーショナルで素敵でした。
 近習役の人だけが声ができていなくて、カテコでも姿勢が悪くて立ち姿が美しくなく、悪目立ちしていたのが残念だったかな…宮司役の方の長男さんだそうで、6年ぶりの本興行出演だそうで、若いしこれからってことなんでしょうけれど、歌舞伎のそーいうとこがアレなんじゃ…ってのもあるので、ちょっと引っかかりました。
 ポスターもロゴも幕もプログラムのデザインも素敵で、印象的でした。こういうの、大事! ハコを替え役者を替えても再演していけるといいですね。ブラッシュアップできる部分もあるだろうし。でも、今回の松也の座長っぷりは、だからこそ語り継がれていくべきものだと思います。ホント偉いよ、よくやったよ、カッコいいよ…! 右近といい、みんなが歌舞伎以外の舞台も映像のお仕事もしている若い世代だけれど、いろいろ吸収し、顔を売り、そして歌舞伎に還元していって、伝統を滅ぼさない、つないでいく、より豊かにしていく…ってのが大事なんでしょうね。松竹もちゃんとわかっていてしっかりお金を出してくれているなら、安心です。こちらもできるだけ応援していきたい、と思いました。まあパトロンとかは無理なんで、楽しく観させていただく、楽しかったよと口コミで宣伝する…くらいしかできないのですが。
 9月には初めて南座で観劇予定です。楽しみにしています!






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