駒子の備忘録

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劇団チョコレートケーキ『ブラウン管より愛をこめて』

2023年07月16日 | 観劇記/タイトルは行
 シアタートラム、2023年7月14日19時。

 1990年、バブル景気に沸く日本。特撮ヒーローものを制作する会社の企画室。若手クリエイターを中心に番組の脚本会議が行われている。少年時代、特撮巨大ヒーローのシリーズに熱中した経験のある彼らは、自分たちの仕事が所詮は過去の名作の焼き直しにすぎないことに忸怩たるものを感じながらも、先行の名作の後追いになるのは仕方ないとなかば諦めている。そこには、本来は大人向けの番組を作りたいという屈折した思いもある。そんな覇気のない会議の中で、ひとりの脚本家があるシリーズで放送された異色エピソードを話題にする…
 脚本/古川健、演出/日澤雄介。全1幕。

 劇チョコは最近やっと観るようになっていて、これまで観たものはこちらこちら
 今回も、世代なようなちょっと違うような…という題材に、期待というよりとまどいながら出かけました。
 というのも、私は69年生まれで、弟がいたので『ゴレンジャー』とかの戦隊ものも『仮面ライダー』も『ウルトラマン』シリーズもひととおり見て育ちましたが、あくまで子供としてまた子供向け番組として見ていただけなので、今でも主題歌は歌えますが内容はほぼ覚えておらず、マニアックにハマった(主に男性の)世代からはひとつかふたつ遅れているのだろうな、と認識しているからです(私が、子供向けと思いきや…!とハマり自分でもそこから子供ではなくなったと考えている作品はやはり『機動戦士ガンダム』なのです)。だからそのあたりを熱く語られるような内容だと、ついていけないだろうしおもしろく思えないかもしれないな…と案じていたのでした。
 しかし舞台は、こうしたあらすじ(劇団公式サイトから書き写しました)から想像されるものとは、ちょっと違っていたんですよね…まずなんか、全然バブル感がなかった(笑)。わざとかなあ、こういう業界や制作会社や末端スタッフはこんな感じで別にバブリーじゃなかったよ、ってことかもしれませんが、92年から社会人をしてきた私としてはイヤどうだろうどこもかしこもやっぱりバブリーだったよね…?というのが実感ですし、むしろわざと昭和チックに、第一次ブームのころの制作風景とダブらせるように作っているのかな?とも感じました。どうなんでしょうね?
 だってバブルのころにも、制作費削減のために怪獣が出てこない安上がりな回を作ろう、なんて事態があったんかいな?という気もしたのです。でも、ともあれそんな状況で、テレビ局の担当者(緒方晋)や番組プロデューサー(林竜三)や監督(岡本篤)や助監督(清水緑)や主演俳優(浅井伸治)やゲスト女優(橋本マナミ)やそのバーターで連れてこられた新人俳優(足立英)やがそれぞれ勝手なことを言い…という状況は、想像がつきます。そんな中に、学生時代の先輩である監督に呼ばれて、駆け出しの脚本家(伊藤白馬)が巻き込まれていく…というような展開でした。
 私は全然くわしくないのだけれど、実際の特撮シリーズに、差別の告発や社会批判、政治批判、文明批判めいたメッセージがある、子供向け番組らしからぬエピソードの回があった、ということは知識として知っています。そのあたりのオマージュ(パクリではなく)も込めた今回の舞台なのでしょう。最初のうちはやや紙芝居チックな演劇だなー、などと感じていたのですが、やはり実際の撮影というか稽古というか演技というか、が劇中劇のように始まったりし出すと、俄然舞台の魔法を感じて私にはおもしろく見え出したのでした。というか鮮やかすぎたし怖かった…これは子供向けに放送するのは無理があるだろう、というざらざらのざらりぶり、ぐさぐさのぐさりっぷりでした。結局は大人の問題であり、大人がどういう社会を作っているかという問題であり、でもそれを改善していきたいという想いがあるなら、やはり子供向けにメッセージを発信していくことも大事なのではなかろうか、などとも考えました。
 大人ななあなあ着地も、ほっとしたようななんだかなあなような、でもあるあるだなとも思いました。そして監督もまた差別される側だった、ないし今もなおそうなのだろう、とは早くから感じられていて、私は彼は脚本家のことを好きなのかなとか思っていたのですが、ちょっと違う設定でしたね。でも、そういうことでした。彼はカミングアウトしないし、周りは気づかないままに無神経な扱いをし続け、差別はなくならない。バブル期どころか今もなお事態はほとんど改善されていず、後退している部分すらある。SOGI差別、性差別、国籍や人種や出身地による差別などなどはまったく撤廃されていず、理解もまだまだ進んでいない。むしろバックラッシュの嵐で、今また似たようなアジが飛び暴動が起きかねない状況になっている。バスカフェの器物破損は立派な犯罪でれっきとした暴力ですし、たとえばそういう例に最近でも枚挙に暇がありません。私たちは全然学習していない、前進していないのです。
 でも、訴え続けるしかない、発信し続け作り続けるしかないのだ…という、クリエイターの意地のようなものも感じました。良き舞台でした。
 ちょっとおもしろく感じたのが、役者役の三人が、役者のときとこの特撮ドラマの中で演じる役とが男性ふたりはけっこう乖離があって、女性はそうでもなかったことです。ゲストといえどアイドルみたいなタイプの女優さんではなく、また役もベタなマドンナ役ではなかったからかもしれませんが、なんとなく劇作家のそういう視線を感じなくもなかったです。渋い異星人役を演じる新人くんがホントもの知らずでお行儀もなっていなくて、でも真面目で向学心もあり…という描かれ方をしているのもおもしろかったし、希望を見た気がしました。
 タイトルは、もっと何かいいものがありそうな気もしなくもないですが…
 でも、次回公演も楽しみです。新作が来年6月上演予定とのこと。次はどんなことをしてくるのかな…

 


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