駒子の備忘録

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ジョエル・ディケール『ハリー・クバート事件』(創元推理文庫)全2巻

2017年01月08日 | 乱読記/書名は行
 デビュー作でベストセラー作家となったマーカス・ゴールドマンは、二作目が書けずに苦しみ、大学の恩師で国民的大作家ハリー・クバートに助言を求めるが、そのハリーが33年前に失踪した美少女殺害容疑で逮捕されてしまう。師の無実を信じるマーカスは独自の調査を開始し、師に教えられた小説作法に従い一冊の本にまとめることにするが…驚異のメガヒット・ミステリー。

 スイスの若い作家がアメリカを舞台にフランス語で書いたエンターテインメント小説、だそうです。なるほどね、ベタなアメリカの田舎感はそれもあるのかなあ。でもすっごく楽しく、ほぼノンストップで読みました。若書きの部分も粗削りな部分もあるかもしれないけれど、ギミック先行というほどでもなくちゃんと人間やドラマが描けていて、ミステリーというより文芸作品としてちゃんとしていたと思います。ミステリーとしてはミスリードというより後出しっぽい話が多くて、ドンデン返しを楽しむというのとは違うというか、深く掘ると真相が見えてくるのを楽しむ感じかな。なので最大のトリックについては、私は殺人事件の真犯人とかはまったく当てられないタイプなのですが(そういう謎解きをしながら推理小説を読むということをあまりしないのです)、これは途中で予想ができました。だって私は本好きだからね。
 そう、これは「本の本の本」なのでした。
「人生に意味を与えろ。それができるのは二つだけ、本と愛だけだ」という言葉がラストに出てきますが、強いて言えば主人公のマーカスのキャラクターが薄いことと、彼が本はものするけれど愛に関してはからきしなのが心配で、だからこの師弟愛を疑似BLと読むべきなのかはたまた…と思っていましたが、作家が若いせいもあるかもしれないし、続く作品でもマーカスが主人公となっていてそれには彼の恋人も出てくるようなので、それは杞憂のようですね。いい作家に育っているといいなと思います。翻訳されたら読みたいです。




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