歌舞伎座、2022年7月9日18時半(七月大歌舞伎第三部)。
産業文明が起こってから千年後、文明は頂点に達し、生物さえ思いのままに作り変える技術を手に入れた人間は、ついには「巨神兵」という兵器を生み出し、その兵器を用いた「火の七日間」と呼ばれる戦争で破滅への道を突き進んだ。今や大地のほとんどは有害な瘴気を発する「腐海」という菌類の森となり、そこは巨大な蟲たちの棲家となった。そうした中、救世主が現れ、穢れのない青き清浄の地へ導くという古い言い伝えが信じられるようになるが…
原作/宮崎駿、脚本/丹羽圭子、戸部和久、演出/G2、尾上菊之助、尾上菊之丞。2019年に新橋演舞場において昼夜二部の通し狂言として初演されたものの前半部を改訂し、皇女クシャナに焦点を当てて上演。
初演の感想はこちら。今回もありがたくもお友達にお誘いいただいて、一階どセンター席で観てきました! 土曜だったからかずいぶんと小さい子供を連れた家族連れも多く、初演はいかにも原作ファンらしき観客層だったのにへえぇ、と思ったりもしました。でもこうして広がっていくならいいことですね。
初演で「やだホンモノの女子がひとりまざってる!」と思ったケチャ(今回は中村莟玉)役だった米吉さんが今回はナウシカ(中村米吉)役、七之助さまだったクシャナ(尾上菊之助)はナウシカだった菊之助さんが扮するというスライド。その他、前回は若いな!と思ったユパ(坂東彌十郎)が今期の大河ドラマで萌え萌え中のやじゅさまになったり、かと思えば続投メンツもいて、歌舞伎にくわしい方ならもっといろいろ楽しめるのでしょうが、私は毎度イヤフォンガイドにすら頼らず素手で飛び込むスタイルなのでまだいろいろわかっていないことも多く、あまり語れずにすみません。でもとてもとても楽しかったです。
序幕は初演の序幕とほぼ同じ、いわゆるアニメ映画化部分です。なので完全にナウシカが主役でしたよね。でもクシャナさまのお衣装は新調されていた気がします、さすがです!
もちろん演出もちょこちょこブラッシュアツプされていて、尺もちょっと減ったかな?
最も大きい変更点は第十場、酸の湖・中州の場でしたでしょうか。ここではナウシカのお衣装がピンクから王蟲の体液を吸った青に引き抜きでなるのが見せ場のひとつだったと思いますが、今回は幼き王蟲の精(尾上丑之助)のお衣装がまず変更になっていて、胸元や背中に赤と青に光る王蟲の目がくっついていて、これが王蟲の精の役なんだとわかりやすくなっていました。さらにそれが、ナウシカと心が通い合うと引き抜きで、すべての目が青いお衣装になるのですよ! その前も、幼き王蟲の…なんというかハリボテが(笑)スススと去ると精が現れるわけですが、そこからの彼とナウシカの心が寄り添い合っていく様子が踊りで表現されて、それがもう優しくていじらしくて神聖で、もうもう爆泣きでした。
初演もナウシカがしっとり踊る場があったけれど、今回はなかったので、他に踊りが入る場面が追加されてよかったなと思いました。遠見のナウシカもなくなっちゃったし、本水を使っての大立ち回りの場もなかったわけですが、義太夫とか踊りとかがちゃんとあるとやはり歌舞伎!って感じが強くなって、とてもいいと思うのです。これは歌舞伎役者がやっている新作のお芝居、とかではなくて、あくまで新作歌舞伎であるべきだと私は考えているからです。
大詰は、クシャナが母親であるトルメキア王妃(上村吉弥)を想う夢の場面から始まって、原作コミックス3巻くらいまでの、主にトルメキアと土鬼の戦いを描く展開で、こちらはクシャナの立女形っぷりを存分に堪能できました。ただし戦闘のわちゃわちゃってやはり舞台ではなかなか表現しきれるものではないので、ちょっとダイジェスト版のようには思えちゃったかな。尺もだいぶ短かったし、最後はナウシカとメーヴェの宙乗りが持っていってしまうので、『白き魔女の戦記』と謳うにはちょっともの足りなかったかもしれません。
でも、そもそもこの物語ってかなり複雑で入り組んだストーリーなので、わかりやすく展開させるのはけっこう至難の業なんですよね…
思うに、アニメ映画版ってやはりすごくよくできていて、なんといっても土鬼の存在を全カットしているっていうのが大きいんですよね。これでかなりストーリーがシンプルになっている。実際の原作はあくまでトルメキアと土鬼の戦争に風の谷が巻き込まれるものであって、しかもこの二大国にはそれぞれかなり根深い思惑があって、クシャナですらある種巻き込まれる形での参戦になっています。そこにさらに王蟲というか粘菌というか世界そのものの思惑が絡んでくるわけで、しかし実際に森の人に会ったりシュワを訪れたりして世界の謎を解明するのはナウシカなので、これは確かにナウシカが主人公の物語なのです。
けれどナウシカのアナグラムの名を持つクシャナもまた裏主人公なのであり、クシャナの物語としてこれを読み替えることはできるはずなんですよね。ただそれにはかなり原作に大胆に手を入れ改編しないとならないはずで、歌舞伎化云々より前にそういう脚本を組める作家がいるかどうか、というのが問題になる気もします。でもそれができれば、それこそ歌舞伎じゃなくて普通のお芝居やミュージカルでもいいんだけれど、クシャナ編としてすごくおもしろいものになるだろうけどなー。
クシャナはヴ王の第四皇女(上3人が息子なだけで皇女としては第一な気もしますが)ですが、先王の血を引くただひとりの子供、ともされています。つまり兄3人とは腹違いで、クシャナの母が先王の娘だったということですね。つまりヴ(これは名前なのか?)はまず別の女性との間に息子3人をもうけて、そのあと先王の娘を娶ってクシャナが生まれ、それで王位に就いたわけです。けれどヴはクシャナを嫌い、元服(女性に対してもこういうのでしょうか…でも袴着ってのもアレだしね)の祝い酒に毒を仕込み、それを悟った王妃は娘の代わりに杯を煽って、心を壊した…とされています。それ以前からも王妃はやや邪険にされていたようで、それでクシャナは父と兄3人への復讐を胸に秘めながらトルメキア王女として、女将軍として国土を守り広げるために戦い働き始めるわけです。けれど土鬼諸侯国連合帝国と本格的に開戦となったときに、ずっと育ててきた軍団を取り上げられ、わずかな手勢だけで辺境への南進作戦を命じられる…そこから始まって、ナウシカと出会い、ユパと出会い、ナムリスと出会い、自分の軍団を取り戻し父と兄を殺そうと戦い続け、そしてやがて代王となって王道を開くまでの、彼女を主人公にした物語が描けるはずなのです。そんなクシャナ編、観てみたいけどなあ…!
ともあれこの歌舞伎版は、来年早々くらいには下の巻として初演の後半のブラッシュアップ版を上演するのかな? それもまた楽しみに待ちたいと思います。そしてまた昼夜通しでの上演も…米吉ナウシカと七之助クシャナの顔合わせだって観てみたい! 夢が広がります。そしてケチャは第三のヒロインとしてもう少しクローズアップされてもいいキャラクターだと私は思っているので、そのあたりも深めてくれると嬉しいなあ。ところで今回のアスベル(尾上右近)はだいぶヤングでチャラげな若者でよかったですよね…!(笑)
お友達は下の巻では丑之助くんのチククが観たいと言っていました、わかりみがすぎる! 後半はけっこう観念的になりかねないストーリーなんだけれど、初演にはアイディアもあってこれまたとてもおもしろく観たものでした。またあの舞台マジサック、歌舞伎マジックにハマりたい! 楽しみにしています。
はーしかし米吉ナウシカ可愛かったなあ! あのエアリーボブ、たまらん! ハケるときのトトトトって走り方とかホント女子で…! いじらしくしかし凜々しく、素晴らしかったです。抜擢なんだろうけれど、しっかり応えていたと思いました。古典作品でも観てみたいです、勉強します!
産業文明が起こってから千年後、文明は頂点に達し、生物さえ思いのままに作り変える技術を手に入れた人間は、ついには「巨神兵」という兵器を生み出し、その兵器を用いた「火の七日間」と呼ばれる戦争で破滅への道を突き進んだ。今や大地のほとんどは有害な瘴気を発する「腐海」という菌類の森となり、そこは巨大な蟲たちの棲家となった。そうした中、救世主が現れ、穢れのない青き清浄の地へ導くという古い言い伝えが信じられるようになるが…
原作/宮崎駿、脚本/丹羽圭子、戸部和久、演出/G2、尾上菊之助、尾上菊之丞。2019年に新橋演舞場において昼夜二部の通し狂言として初演されたものの前半部を改訂し、皇女クシャナに焦点を当てて上演。
初演の感想はこちら。今回もありがたくもお友達にお誘いいただいて、一階どセンター席で観てきました! 土曜だったからかずいぶんと小さい子供を連れた家族連れも多く、初演はいかにも原作ファンらしき観客層だったのにへえぇ、と思ったりもしました。でもこうして広がっていくならいいことですね。
初演で「やだホンモノの女子がひとりまざってる!」と思ったケチャ(今回は中村莟玉)役だった米吉さんが今回はナウシカ(中村米吉)役、七之助さまだったクシャナ(尾上菊之助)はナウシカだった菊之助さんが扮するというスライド。その他、前回は若いな!と思ったユパ(坂東彌十郎)が今期の大河ドラマで萌え萌え中のやじゅさまになったり、かと思えば続投メンツもいて、歌舞伎にくわしい方ならもっといろいろ楽しめるのでしょうが、私は毎度イヤフォンガイドにすら頼らず素手で飛び込むスタイルなのでまだいろいろわかっていないことも多く、あまり語れずにすみません。でもとてもとても楽しかったです。
序幕は初演の序幕とほぼ同じ、いわゆるアニメ映画化部分です。なので完全にナウシカが主役でしたよね。でもクシャナさまのお衣装は新調されていた気がします、さすがです!
もちろん演出もちょこちょこブラッシュアツプされていて、尺もちょっと減ったかな?
最も大きい変更点は第十場、酸の湖・中州の場でしたでしょうか。ここではナウシカのお衣装がピンクから王蟲の体液を吸った青に引き抜きでなるのが見せ場のひとつだったと思いますが、今回は幼き王蟲の精(尾上丑之助)のお衣装がまず変更になっていて、胸元や背中に赤と青に光る王蟲の目がくっついていて、これが王蟲の精の役なんだとわかりやすくなっていました。さらにそれが、ナウシカと心が通い合うと引き抜きで、すべての目が青いお衣装になるのですよ! その前も、幼き王蟲の…なんというかハリボテが(笑)スススと去ると精が現れるわけですが、そこからの彼とナウシカの心が寄り添い合っていく様子が踊りで表現されて、それがもう優しくていじらしくて神聖で、もうもう爆泣きでした。
初演もナウシカがしっとり踊る場があったけれど、今回はなかったので、他に踊りが入る場面が追加されてよかったなと思いました。遠見のナウシカもなくなっちゃったし、本水を使っての大立ち回りの場もなかったわけですが、義太夫とか踊りとかがちゃんとあるとやはり歌舞伎!って感じが強くなって、とてもいいと思うのです。これは歌舞伎役者がやっている新作のお芝居、とかではなくて、あくまで新作歌舞伎であるべきだと私は考えているからです。
大詰は、クシャナが母親であるトルメキア王妃(上村吉弥)を想う夢の場面から始まって、原作コミックス3巻くらいまでの、主にトルメキアと土鬼の戦いを描く展開で、こちらはクシャナの立女形っぷりを存分に堪能できました。ただし戦闘のわちゃわちゃってやはり舞台ではなかなか表現しきれるものではないので、ちょっとダイジェスト版のようには思えちゃったかな。尺もだいぶ短かったし、最後はナウシカとメーヴェの宙乗りが持っていってしまうので、『白き魔女の戦記』と謳うにはちょっともの足りなかったかもしれません。
でも、そもそもこの物語ってかなり複雑で入り組んだストーリーなので、わかりやすく展開させるのはけっこう至難の業なんですよね…
思うに、アニメ映画版ってやはりすごくよくできていて、なんといっても土鬼の存在を全カットしているっていうのが大きいんですよね。これでかなりストーリーがシンプルになっている。実際の原作はあくまでトルメキアと土鬼の戦争に風の谷が巻き込まれるものであって、しかもこの二大国にはそれぞれかなり根深い思惑があって、クシャナですらある種巻き込まれる形での参戦になっています。そこにさらに王蟲というか粘菌というか世界そのものの思惑が絡んでくるわけで、しかし実際に森の人に会ったりシュワを訪れたりして世界の謎を解明するのはナウシカなので、これは確かにナウシカが主人公の物語なのです。
けれどナウシカのアナグラムの名を持つクシャナもまた裏主人公なのであり、クシャナの物語としてこれを読み替えることはできるはずなんですよね。ただそれにはかなり原作に大胆に手を入れ改編しないとならないはずで、歌舞伎化云々より前にそういう脚本を組める作家がいるかどうか、というのが問題になる気もします。でもそれができれば、それこそ歌舞伎じゃなくて普通のお芝居やミュージカルでもいいんだけれど、クシャナ編としてすごくおもしろいものになるだろうけどなー。
クシャナはヴ王の第四皇女(上3人が息子なだけで皇女としては第一な気もしますが)ですが、先王の血を引くただひとりの子供、ともされています。つまり兄3人とは腹違いで、クシャナの母が先王の娘だったということですね。つまりヴ(これは名前なのか?)はまず別の女性との間に息子3人をもうけて、そのあと先王の娘を娶ってクシャナが生まれ、それで王位に就いたわけです。けれどヴはクシャナを嫌い、元服(女性に対してもこういうのでしょうか…でも袴着ってのもアレだしね)の祝い酒に毒を仕込み、それを悟った王妃は娘の代わりに杯を煽って、心を壊した…とされています。それ以前からも王妃はやや邪険にされていたようで、それでクシャナは父と兄3人への復讐を胸に秘めながらトルメキア王女として、女将軍として国土を守り広げるために戦い働き始めるわけです。けれど土鬼諸侯国連合帝国と本格的に開戦となったときに、ずっと育ててきた軍団を取り上げられ、わずかな手勢だけで辺境への南進作戦を命じられる…そこから始まって、ナウシカと出会い、ユパと出会い、ナムリスと出会い、自分の軍団を取り戻し父と兄を殺そうと戦い続け、そしてやがて代王となって王道を開くまでの、彼女を主人公にした物語が描けるはずなのです。そんなクシャナ編、観てみたいけどなあ…!
ともあれこの歌舞伎版は、来年早々くらいには下の巻として初演の後半のブラッシュアップ版を上演するのかな? それもまた楽しみに待ちたいと思います。そしてまた昼夜通しでの上演も…米吉ナウシカと七之助クシャナの顔合わせだって観てみたい! 夢が広がります。そしてケチャは第三のヒロインとしてもう少しクローズアップされてもいいキャラクターだと私は思っているので、そのあたりも深めてくれると嬉しいなあ。ところで今回のアスベル(尾上右近)はだいぶヤングでチャラげな若者でよかったですよね…!(笑)
お友達は下の巻では丑之助くんのチククが観たいと言っていました、わかりみがすぎる! 後半はけっこう観念的になりかねないストーリーなんだけれど、初演にはアイディアもあってこれまたとてもおもしろく観たものでした。またあの舞台マジサック、歌舞伎マジックにハマりたい! 楽しみにしています。
はーしかし米吉ナウシカ可愛かったなあ! あのエアリーボブ、たまらん! ハケるときのトトトトって走り方とかホント女子で…! いじらしくしかし凜々しく、素晴らしかったです。抜擢なんだろうけれど、しっかり応えていたと思いました。古典作品でも観てみたいです、勉強します!
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