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「水濃徃方」の解読 13


(静居寺のモミジの新緑)

一昨日訪れた静居寺、モミジの新緑である。中に赤いものは実だろうか。二枚羽根の特徴も見える。モミジには詳しくないから、詳しい方の教えを乞う。

午後、神戸在住の甥AK氏が来宅。三男のR君を伴っていた。何年ぶりだろうか。いつの間にか、幼かった三男坊も身長が180センチまで成長し、驚くばかりであった。AK氏は神戸で写真教室をやっている。町の成人教室という意味では、立場が自分と一緒で、講座の苦労話などをした。AK氏の父親の、入院中の自分の次兄の様子などを詳しく聞いた。

夜、病院の次兄から電話があった。声に力が無かったが、入院してからようやく電話する気力が出たようで、少し安心した。この時期、家族も面会は週に一回、15分だけとか、これから手術もひかえていて、早い回復を祈るばかりである。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

山王祭より外には、具足着た人見た事なく、十二や十三の抜け参り、奥長崎の船の道、居ながら届く状通(じょうつう)、金銀、皆なこれ御の字のつく弓矢破魔の御 (いさおし)。町人でも男の子持った者は、家ごとに祝いて、低い所へも置かず、天窓(あたま)の上へ並べて置き、目鼻は無しとも、(じょう)と姥(うば)、心ばかりの嶋臺(しまだい)(あ)が君は、千代もましませ、さゞれ石の、巌となりて、苔のむすこも、娘の子も。年神様への捧(ささ)げもの、御世を明かむるたとえなりとの物語。
※ 具足(ぐそく)➜ 武具。甲冑(かっちゅう)。
※ 状通(じょうつう)➜ 手紙を送ること。
※ 功(いさおし)➜ 手柄。功績。
※ 尉と姥(じょうとうば)➜ 嶋臺にかざる、箒と熊手を持った高砂の男女の老人の人形。
※ 嶋臺(しまだい)➜ 婚礼その他のめでたい儀式のときの飾り物。州浜の台の上に松竹梅を作り、これに尉(じょう)・姥(うば)を立たせ、鶴・亀などを配したもの。蓬莱山をかたどったものといわれる。
※ 吾君ハ千代も ‥‥ ➜ 「君が代」の本歌の別バージョンか。もじりか。
※ 御世を明かむる ➜ 天岩戸伝説を踏まえる。

よくよく聞けば、有り難うて涙がこぼれ、それからは、雪降るに七ッから出る時も、頂かずに雑水(ぞうすい)喰うた事は無い。挊(かせ)ぐの、骨折るのと、大層にいえど、この様な時世に生れては、宝船の船頭勤める様なもの、今から心切り替えて勤め給えの勤兵衛殿。
※ 七ッ(ななつ)➜ 今の午前四時および午後の四時ごろ。ななつどき。
※ 雑水(ぞうすい)➜ 雑炊。飯に魚貝や野菜などを加え、醤油味や味噌味の汁で粥(かゆ)状に煮たもの。

綱は武蔵の箕田(みた)の者、江戸の生え抜きとて、銭をば何とも思わぬ。それと云うも、渡辺のおば御(おばご)が金持で、尻ぬぐうてやらるゝから、それを頼みに、有れば有りきり、惣体(そうたい)掛け水の有る者は、結句(けっく)(し)のす者が稀(まれ)なは、空様の芽、恃(たのみ)と云う実を植えると、油断と云う花が咲く。
※ 生え抜き(はえぬき)➜ その土地に生まれ、そこでずっと育つこと。また、その人。生っ粋。
※ おば御(おばご)➜「おば」を敬って呼ぶ語。おばぎみ。
※ 惣体(そうたい)➜ だいたいにおいて。一体に。総じて。
※ 掛け水 ➜ ここでは、金ずるから出る金のことを指す。
※ 結句(けっく)➜ とどのつまり。あげくのはて。結局。
※ 仕のす(しのす)➜ 勤め上げる。
※ 空様(そらざま)➜ 空の方向。上の方。上向き。
(「水濃徃方」つづく)

読書:「血の扇 御広敷用人 大奥記録 5」 上田秀人 著
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「水濃徃方」の解読 12


(静居寺の黄色のツツジ)

神戸在住の甥のA氏が、今、下田にいるので、明日我が家に来たいとラインで連絡があった。OKの返事をしたが、2時間ほど経ってしまい、通じたかどうか気になる。(今、返信があって、通じたようだ)

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

お身が頭(かしら)字、忠の字は、その心人の為に謀(はか)りて忠(まめ)ならずやと、論語にあるも、まめに告(つげ)てよく導(みちび)くと云う事も、口まめな事では無い。如才(じょさい)のうしてやる事。忠心、忠義、主持(しゅうもち)ばかりの事ならず。あたり近所に憎まれては、市(いち)の中でも一ツ家同前、木綿屋がよい戒(いまし)め、災(わざわ)い必ず少々の事でないぞや。
※ 人の為に謀りて忠ならずや ➜ 論語「曾子曰、吾日三省吾身、為人謀而不忠乎。与朋友而交不信乎、伝不習乎。」読み下し「曾子曰く、吾れ日に吾が身を三省す、人の為に謀りて忠ならざるか。朋友と交わりて信ならざるか、習わざるを伝えしか、と。」
※ 如才ない(じょさいない)➜ 気がきいていて、抜かりがない。
※ 主持(しゅうもち)➜ 主人や主君に仕える身分。また、その人。

さて、その次は酒樽の金兵衛殿で申そうなら、こなたの病は酒なれど、上戸(じょうご)はおかしく罪ゆるさるゝ時もあるが、呑まる時のふところ手が、得手(えて)、陶淵明と云えば、こなたの様な左り利き。底抜けの様にいえど、人生は勤(つと)むるにあり、勤むる時は(とぼ)しからずと。国語を用いて詩を作り、挊(かせぎ)のわりも知った人。
※ 上戸(じょうご)➜ 酒の好きな人。また、酒が好きで、たくさん飲める人。酒飲み。
※ 得手物(えてもの)➜ 相手がそれと了解できるものをさしていう語。例の所。例の物。例の人。
※ 底抜け(そこぬけ)➜「底抜け上戸」の略。非常な大酒飲み。酒豪。
※ 匱しからず(とぼしからず)➜ 足らないことはない。十分である。

そこのくりやったは弓矢破魔。お武家方は格別、町人の家で算盤(そろばん)ならぬ弓矢は如何がと思うたりや。ある物知りの咄(はな)しには、二百年跡までは乱世が続きて、大平の時と云うがあって、この広い世界に軍(いくさ)と云うものは無い時もあるげな。虚言(うそ)らしい事じゃと云うくらい、その様な目に逢いたいと待った衆は逢(あ)わいで、調度の時を狙(ねろ)うて生れた、そちやおれは、まあ、こげな方ではない。
※ くりやった ➜ 人が自分に、または自分の側の者にものを与える。頂いた。
(「水濃徃方」つづく)

読書:「悲恋の太刀 はぐれ長屋の用心棒 36」 鳥羽亮 著
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「水濃徃方」の解読 11




(静居寺のボタン)

午前中、思い付いて、女房と静居寺のボタンを見に行った。昨日の大雨で傷んだり、花びらを落したものも見受けられたが、残ったものも多く有り、堪能できた。池でザリガニ釣りしている親子も居て、少しずつ日常が帰ってきているが、背後に第四波が迫っていて、不気味である。

夜、区の総会に付いて打合せ。第四波を危惧して、今年も総会は資料を廻して済ませるようだ。その準備の段取りを打ち合わせる。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

いわば道中双六、人通りの多い春夏は、一人旅も心強い。行くも帰るも別れては、知らぬ人さえ便りになって、追いはぎの恐れもなく、戻り馬戻り駕(かご)通用(つうよう)が、よいじゃないか。町もに住むもその道理。
※ 戻り馬(もどりうま)➜ 荷物や客を運びおわった帰りの馬。
※ 戻り駕(もどりかご)➜ 戻り駕籠。客を乗せて送ったあとの、帰りの駕籠。
※ 通用(つうよう)➜ ある期間・範囲内で、自由に使えること。

近き頃、ある田舎に、「紙屑」と異名取りたる木綿売り、江戸に住んでは、近所隣りの付き合いだけ損じゃと、一ッ家を買いて、毎日/\江戸への通い商い。餅、茶のこ配る費(つい)えなく、戻りには紙屑拾うて包(つつ)んで帰る故の仇名。金の溜まる事、吹き廻しの雪の如く増える時に、盗人(ぬすっと)気遣(きづか)い、四方高柵、忍び返し。ある夜、何者の業とも知らず、親子三人ともに切り倒して、有金残らずもて行きぬ。いずくより誰が業(わざ)とも知れず。残りの家財は少しの知る辺の物となりたり。盗人の用心は、迯(に)げる時の邪魔になり、勘(かんが)え過ぎての一ツ家たれ。
※ 木綿売り(もめんうり)➜ 木綿物を売り歩くこと。また、その人。
※ 茶のこ(ちゃのこ)➜ 茶の子。お茶請けのお菓子。
※ 知る辺(しるべ)➜ 知っている人。知り合い。

(たす)ける者もなく、(あさ)ましい身の果て。その様な目にも会わぬは、向三軒両隣のお影(蔭)、それのみならず、お身達が仕事にも、友、朋輩、一所(一緒)木遣り云うたり、連れで出て、連れで戻れば、骨折り、遠道(とおみち)、苦にならぬ。相持(あいもち)の世、就中(なかんずく)、病い煩(わずら)い、公事訴詔、取持がて、人の憎まぬ事は、身を入れて世話してやるかよい。
※ 浅間しい(あさましい)➜ あまりにもひどい。程度がはなはだしい。
※ 向三軒両隣(むこうさんげんりょうどなり)➜ 自分の家の向かい側三軒の家と、左右二軒の隣家。日常親しく交際する近隣の称。
※ お身達(おみたち)➜ あなたがた。「お身」は、二人称の人代名詞。対等またはそれに近い相手に用いる。
※ 木遣り(きやり)➜ 木遣り歌。民謡の一。大木や岩を大ぜいで運ぶときにうたう仕事歌。
※ 相持(あいもち)➜ 互いに助け合う関係にあること。持ち合い。
※ 取持がて(とりもちがて)➜ 取り持ちついで。
(「水濃徃方」つづく)

読書:「浪人奉行 五ノ巻」 稲葉稔 著
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「水濃徃方」の解読 10


(散歩道で見た、ピンクのルピナス)

今日は大雨、そのためか、古文書講座は2講座で四人の欠席があった。それにしても、2講座で4時間、しゃべり続けるのは何とも疲れる。ともあれ、今月は峠を越えた。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。今日より「柔和里先生之篇 下」の篇に入る。

   柔和里(じゅうわり)先生之篇 下

十兵衛、炬燵に腰を入れ、これより外に客も無し。子分と云うより、心安い挨拶もなければ、慮外(りょがい)は御免。年始で御座れば、わしから呑んで廻します。何れもお楽に御座らぬかと、あらまし底の入りたる時分、そんなら最早納めますと盃とらせて、この跡は、例年変わらぬ聞取法問功拙(こうせつ)は変われども、教化(きょうか)の道に二つは無し。
※ 慮外(りょがい)➜ 無礼者。ぶしつけもの。
※ 底の入(そこのいる)➜ 「底が入る」飲食する。本格的に飲食する前にすでにある程度飲食してある意にいうことが多い。
※ 聞取法問(ききとりほうもん)➜ 自分が考えたのでなく、他人の説を聞いて、それを自分の説として発表すること。
※ 功拙(こうせつ)➜ 巧拙。たくみなことと、へたなこと。
※ 教化(きょうか)➜ 人を教え導き、また、道徳的、思想的な影響を与えて望ましい方向に進ませること。

忠蔵は駿河の国天上(あまかみ)の生れなり。御番衆に付いて下って、江戸の渡世挊(かせぎ)はよし、慰み嫌い、何一つ悪い芸はないが、お身はとかくすました様な皃(顔)きが鼻の先へ見えて、人の可愛がらぬは不思議な事と思えば道理こそ。人は人、おれはおれと云い、立派とやらを守らるゝげな。尤も、我身の上は忘れて、人の世話ばかりする者も阿呆なれども、また人の事は人が世話せいで誰がする。貸し借りと云う事も、天地自然の道で、有餘(ゆうよ)を以って不足を補う無尽(むじん)頼母子(たのもし)。信義さえ守ってせば、悪い事では無い。考えて見やれ。人に無尽頼む人から見ては、頼(たの)まるゝ人は仕合(しあわせ)のよいと云うもの。人は虎狼相住(あいずみ)のならぬもので、人は人によって身をも立て、互いに相助け、相養う。
※ 慰み(なぐさみ)➜ 手慰みのこと。ばくち。
※ 有餘(ゆうよ)➜ 余りがあること。余分。
※ 無尽(むじん)➜ 口数を定めて加入者を集め、定期に一定額の掛け金を掛けさせ、一口ごとに抽籤または入札によって金品を給付するもの。
※ 頼母子(たのもし)➜ 親(発起人)と講中(仲間)が定期的に一定の金・米を出し合い、入札・くじなどで順次掛金・掛米を借りる方法。上方では頼母子。江戸では無尽と呼ばれた。
※ 仕合(しあわせ)➜ めぐり合わせ。運命。
※ 虎狼(ころう)➜ トラとオオカミ。
※ 相住(あいずみ)➜ 同じ家にいっしょに住むこと。
(「水濃徃方」つづく) 
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「水濃徃方」の解読 9


(庭の鉢にオオツルボが花を咲かせた。何時の間に?)

午後、静岡へ駿河古文書会に出席した。他は一日、明日の2講座の準備に追われた。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。今日で「柔和里先生之篇上」を読み終わった。落語のネタ本のような本である。

皆なよく呑みやったか。アヽ、呑み込んだとも/\、呑み込んだついでに、この御盃はどうでごんすと勤兵衛がいらたて(苛立て)に、はて、忙しない。酒ばかりも進ぜられまいと問うて、暮に貰(もろ)うた青頸(あおくび)。取合せは歌の心。

  菜摘みの川の 川よどに 鴨ぞ鳴くなる 山陰にして

よい加減にして、北の方、早く出しやれ。歌人は居ながら、これでたべる。ソリャ弟吉も戻った。こいつ、喰い物を見るとおかしな身(み)をする。まあならぬ、給仕して跡で喰やれ。その替りに、コレおじい達のみやげ、道中双六、弓矢破魔、このいかのぼり、大きなものだ。その外にまだ、鬼の面、大判小判、嬉しいか/\。サアさめぬ内、早く参れと世話やけば、女房は飯注ぎ抱へて小漬飯。いつそ、おやの椀に下(くだ)んせぬかい。わしもその気でまゝ焚(たか)ぬとは、伝兵衛が国ぶり歌。コレどんどゝせい、浜松の音、とぞ祝(しゅく)しける。
※ 苛立て(いらだて)➜ 気持ちがいらいらして、じっとしていられなくなること。苛立つこと。
※ 青頸(あおくび)➜ マガモの雄。頭部が緑色をしているのでいう。
※ 菜徒ミの川の ➜ 本歌は、万葉集の、
  吉野なる 菜摘の川の 川淀に 鴨ぞ鳴くなる 山蔭にして
※ 北の方(きたのかた)➜ 身分の高い人の妻を敬っていう語。ここでは、親分の女房を洒落でそう呼んだ。
※ 身(み)➜ からだのこなし。身ぶり。恰好(かっこう)。
※ 小漬飯(こずけめし)➜ 汁と飯だけの軽い食事。軽食。一説に湯漬飯ともいう。
※ 国ぶり歌(くにぶりうた)➜ 各地方の風俗歌(ふぞくうた)。民謡や俗謡。
(「水濃徃方」つづく)
 
読書:「下郎の月 大江戸定年組 4」 風野真知雄 著
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「水濃徃方」の解読 8


(裏の畑のユリズイセン)

月一回の配りものが、総区長から届く。担当の三つの班長に配った。いずれも留守であったが、玄関口に受け箱が用意されているので、無駄足にならずに済んだ。区長の仕事も半月終わった。残り11ヶ月と半分。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

十兵衛も機嫌よく、これは/\いずれもこの長屋での、伊達もの四天王と呼ばれる衆が、見る影もなき瘦せ親仁(おやじ)を、親分の、頭のと云うて下さる。忝(かたじけな)い。大江山の酒吞童子が首より取り難(にく)いは、大家殿の仕切、家賃残らず済みよし(住吉)のお払いさえよければ、あっちから持ち掛けて、貸すが(春日)明神、弓矢八幡味噌ではないが、掛乞(かけごい)地口(じぐち)言わせて笑うて出すは、この町内でこのばかり。皆な信じ奉る三社の神のお影(おかげ)/\。縁(へり)こそ付けね、八畳敷の座敷の真似もあり。皆な通って御神酒一つ祝うてくりゃれと、押し上げる。
※ 仕切判(しきりばん)➜ 帳簿のしめくくりをしたしるしとして押す印。
※ 済みよし ➜「家賃が済む」と「住吉神社」を掛けた。
※ 地口(じぐち)➜ ふつう世間に行なわれている成語に語呂を合わせたことばのしゃれ。
※ 裏(うら)➜ 裏長屋。
※ 三社(さんじゃ)➜ 浅草神社のこと。

唐紙(からかみ)の壱枚絵も、大津壁の三尺床、落とし掛けの杉丸太に、曲がらぬ主の気達(きだ)てを表わし。この三社の御託は、先に忠蔵には咄して置いた、さる儒者衆の思い付きで、そちたちが守りやすい様にと阿っての頓作(とんさく)(おど)と思わず、聴聞(ちょうもん)しやれ。まず真中(まんなか)は住吉様の御託。〇父母の恩は手拭いの如し。常に頭に頂くべし。腰に挟むべからず。世上の渡りは法被(はっぴ)の如し。常に潔白(けっぱく)にすべし。垢に穢(よご)すべからず。左は八幡大菩薩、家業は股引の如し。昼夜肌身を離すべからず。詞(ことば)は草鞋(わらじ)の如し。踏まえをして云うべし。右は春日、(みもち)は鳶口(とびぐち)(けた)にして、とがるが如く、突き合えば、掛矢の丸くして鈍(にぶ)きが如くなれ。
※ 大津壁(おおつかべ)➜ 日本壁の一つ。消石灰を水で練り、色土、 もみすさを加えた土壁の一種。
※ 落とし掛け(おとしがけ)➜ 床の間の正面上部の下り小壁を受け止める横木。
※ 氣達(きだて)➜ 気立て。他人に対する態度などに現れる、その人の心の持ち方。性質。気質。
※ 御託(ごたく)➜ 神仏のお告げ。御託宣。
※ 頓作(とんさく)➜ 即座にうまく応答したり洒落(しゃれ)などを言ったりすること。また、そのような人や、そのさま。
※ 戯け(おどけ)➜ おどけること。しゃれ。こっけい。 冗談。
※ 聴聞(ちょうもん)➜ 説教や演説などを耳を傾けて聞くこと。
※ 世上の渡り(せじょうのわたり)➜ 世渡り。生活をしていくこと。よすぎ。
※ 潔白(けっぱく)➜ 清潔でよごれのないこと。真っ白なこと。
※ 身持(みもち)➜ 日常の身の処し方のこと。
※ 方(けた)➜ 四角な形。四角いさま。方形。また、かどばったさま。
※ 掛矢(かけや)➜ 樫(かし)などの堅木で作った大きな槌(つち)のこと。
(「水濃徃方」つづく)  

読書:「鏡の欠片 御広敷用人 大奥記録 4」 上田秀人 著
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「水濃徃方」の解読 7


(庭のシランが咲き出した)

午後、はりはら塾の古文書講座。今年度、最初の講座である。今年は受講者8人で始まった。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

安物の銭失いと云う事、人がよく云う事なれど、我身の目当てにする教えの道を、安物で上げたがる衆中が多いから、間違いが出来る。わしは何も知らぬが、赤城辺りのさる儒者衆へ、木樨(もくさい)の樹、世話して上げてから、どうしてか、わしが御意(おき)に入りて、そちは気象(きしょう)の面白い者じゃとて、より/\に何角(なにかと)のお咄し聞かはったが、アヽまた(ぶん)なものじゃぞい。それからは、恐らく悟りひらいたと云う様な気になつて居れば、さて/\寝覚(ねざめ)が心安い。そち達もわしが世話にせねばならぬわけの人なれば、いらぬ干渉ながらこの様な事も話しますとの物語。
※ 木樨(もくさい)➜ もくせい。モクセイ科モクセイ属の常緑小高木。別名、ギンモクセイ。
※ 気象(きしょう)➜「気性」に同じ。生まれつきの性質。気質。きだて。
※ 何角(なにかと)➜ あれこれと。なにやかやと。。
※ 聞(ぶん)➜ 聞くこと。また、聞いて知ること。
※ 聞なもの(ぶんなもの)➜ 聞いてみるもの。
※ 干渉(かんしょう)➜ 他人のことに立ち入って自分の意思に従わせようとすること。 

忠蔵、きつくうけ取リ、段々お世話でわしに限らず、この長屋の者、人にも侮(あなど)られず、旧冬(きゅうとう)も世間では掛乞(かけごい)声山(こえやま)たてゝ、鳴り喚(わめ)くに、こちの長屋中は、米屋、薪屋から、頼(たの)みもせぬに、春の仕込みまでしておけば、その日/\に米も買(か)わず、マア月買い長者の暮らし。皆なこれ親分の光(ひかり)
※ 段々(だんだん)➜ かずかず。あれやこれや。
※ 旧冬(きゅうとう)➜ 昨年の冬。昨冬。ふつう、新年になってから用いる。
※ 掛乞(かけごい)➜ 江戸時代、節季に掛売の代金(掛金)を取立てたこと、またその人。
※ 声山(こえやま)➜ 大きな声。大声。

今日は打ち揃(そろ)うて申し入れる。大方、押し付け来ましょうと、咄しに違(たが)わず、門口から、酒樽の勤兵衛、年始の出仕(しゅっし)となり、小手ながら持ち込むは、皃(かお)も真赤な紅絹の布(もみのきれ)、結び付け多る弓矢破。あとから入るは、綱が進物(しんもつ)いかのぼり。茨木が鬼の面は、竹まが年玉。大判、小判、壱分こまかね、露の玉屋の信兵衛が遣い物。のしの代りに、ごまめの歯ぎしり。お頭、目出とう御座りますと、一同にこそ居並びけり。
※ 押し付け(おしつけ)➜ まもなく。追っ付け。
※ 出仕(しゅっし)➜ その場にのぞむこと。ある場所・席に出ること。
※ 小手(こて)➜ ひじと手首との間の部分。また、手先。
※ 紅絹の布(もみのきれ)➜ 紅で染めた絹布。
※ 弓矢破魔(ゆみやはま)➜ 正月の縁起物として神社などで授与される弓と矢である。それぞれ破魔矢、破魔弓と呼ばれる。
※ 進物(しんもつ)➜ 人に差し上げる品物。贈り物。
※ いかのぼり ➜ 凧のこと。
※ ごまめの歯ぎしり(ごまめのはぎしり)➜ 力の弱い者が、いたずらに憤慨して悔しがることをいう。鰯(いわし)はもともと弱い魚であるが、その上、からからに干されているのだから、何もできないという意味である。
(「水濃徃方」つづく)  
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「水濃徃方」の解読 6


(庭のミヤコワスレ)

朝から、土曜日の金谷宿、2講座の準備。初回だから、事務的な書類がたくさんある。テキストと解読の準備が明日以降に残った。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

よい衆は、儒者衆の、出家衆の、と云うも、皆な御抱えがあって、よい事ばかりを聞し召せば、お手前の馬、駕籠で御道中なさる様なもので、脇道へ掻き込まるゝの掏摸(すり)騙り(かたり)に逢うのと云う御案じはなけれど、こちとらが様な者は、太平記の講釈や、辻談儀飛乗(とびのり)。何を聞いても一と理屈づつやらるれば、これも尤とも、彼もいやと云われぬ、と思案が後には、どんちやんして、道かと思うて付いて行けば、畠の畔(くろ)や田の畦道、茨ら、からたち、足や(もすそ)に引っ掛かって、懐(ふところ)の物、落したり。
※ 御抱え(おかかえ)➜ 人を雇って専属にしておくこと。また、その雇われた人。
※ 騙り(かたり)➜ 人をだまして金品を巻き上げること。また、その人。
※ 案じ(あんじ)➜ 心配。恐れ。
※ 辻談儀(つじだんぎ)➜ 談義僧などが道ばたで仏法を説いて喜捨を受けること。また、その僧。
※ 飛乗(とびのり)➜ 借切りでなく、道の途中で通りがかりの馬や人力車などに乗ること。ここでは、辻談義に入って聞くことを指す。
※ どんちゃん ➜ 入り乱れてたたかうさま、心が乱れ騒ぐさま、などを表わす語。
※ 裳(もすそ)➜ 衣服のすそ。

護摩の灰に風呂敷包み、取らるゝがいやで御座れば、馬にも駕籠にも乗らず、宿々の御高札を守りに掛けて、家業(かぎょう)身過(みすぎ)膝栗毛に、律儀(りちぎ)の鞭を打って行くには、怪俄、誤りはなけれども、歩いてばかりも行かれぬ旅、挊(かせ)いでばかりも居られぬ世間。一生の内には、様々の事に触れねばならぬもの。世の酒色(しゅしょく)に耽(ふけ)り、諸勝負にかゝりて、家を亡ぼす人は、悪事と知ってするわざなれば、云うに足らず。律義、実躰(じつてい)に四十、五十までも挊(かせぎ)出した身上(しんしょう)を、つい売主坊主(まいすぼうず)(たら)されて、家風を乱し、我なき跡まで、後家や娘に浮き立てらるゝ衆中は歎(なげ)かわしき事。
※ 護摩の灰(ごまのはい)➜ 江戸時代,道中荒し,枕さがしなどを働いた小盗賊。
※ 身過(みすぎ)➜ 暮らしを立てていくこと。また、その手だて。なりわい。
※ 膝栗毛(ひざくりげ)➜ 膝を栗毛の馬の代わりにして旅をすること。徒歩で旅行すること。
※ 律義(りちぎ)➜ きわめて義理堅いこと。実直なこと。
※ 酒色(しゅしょく)➜ 飲酒と色事。
※ 実躰(じつてい)➜ まじめで正直なこと。また、そのさま。実直。
※ 身上(しんしょう)➜ 財産。資産。身代(しんだい)。
※ 売主坊主(まいすぼうず)➜ 正しくは「売僧坊主」。人をだましたり、うそをついたりする者。
※ 誑される(たらされる)➜ ことば巧みにだまされる。たぶらかされる。
※ 浮き名(うきな)➜ つらい嫌な評判。悪い評判。
(「水濃徃方」つづく)  
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「水濃徃方」の解読 5


(庭のアヤメ)

朝早くに通学路の見守り立哨。月一回の区長の仕事である。立哨は少し大げさか。結局、我が班のゴミステーション角の五差路を通ったのは、番生寺から来る30人ほどの子供たちのみであった。

朝から明後日のはりはら塾の古文書講座の準備に、ほぼ昼間を過ごした。準備完了。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。 

これはまた、言われぬ事して、弟吉めに能(よ)い物、あいつが好きの絵草紙、何時(いつ)とても廃らぬは、この道中双六。合羽(かっぱ)着て雨のふるは白須賀。戸塚ではいつも居風呂(すえぶろ)に入って居る。六十六部早追飛脚三宝荒神抜け参り。こればかりづつ書いてあれども、これに向えば、自然と旅の情が浮んで面白い。
※ 言われぬ(いわれぬ)➜ 無用の。 余計な。
※ 居風呂(すえぶろ)➜ 大きな桶の下にかまどを作りつけて、湯をわかし入浴するのに用いるもの。すいふろ。
※ 六十六部(れい)➜ 法華経を六十六回書写して、一部ずつを全国六十六か所の霊場に納めて歩いた巡礼者。
※ 早追飛脚(はやおいひきゃく)➜ 急行飛脚
※ 三宝荒神(れい)➜ 日本特有の仏教における信仰対象の一つ。仏法僧の三宝を守護し、不浄を厭離する佛神である。
※ 抜け参り(ぬけまいり)➜ 親や主人の許しを受けないで家を抜け出し、往来手形なしで伊勢参りに行くこと。江戸時代に流行し、黙認された。

わしが思うに、人間一生もこの様なもので、箱根と云う嶺(とうげ)があれば、大井河と云う大河あり。島田、金谷と唄いしも、むかし石部々々と皆な口々に誉められた堅作(かたづく)も、今は大津馬追がらし(ひま)ゆく年も、丁度今年で五十三次無明(むみょう)の酒に酔いもせず。京まで行き着かぬ内は金も大事。めつたには使われず。命も大事、道連れの付き合い、食養生、少しでも抜けがあると、それだけの苦労が増える。一生は長(なが)の道中、駒の朝走りも後(しり)の続かぬは油断の本(もと)。挊(かせぐ)/\を悪く心得て、慾に目が一つ余ると、つい跡戻(あともど)りする。
※ 石部(いしべ)➜ 東海道五十三次の宿。「石部金吉」(非常にきまじめで物堅い人の擬人名)の略。
※ 堅作り(かたづくり)➜ 堅気風。まじめな職業についている人らしいこと。
※ 大津馬(おおつうま)➜ 大津の宿駅で荷物の運送に使われていた馬。
※ 追がらし(おいがらし)➜ 使えなくなるまで追い使うこと。
※ 隙ゆく年(ひまゆくとし)➜ 隙ゆく駒。年月の早く過ぎ去ることのたとえ。隙過ぐる駒。
※ 五十三次(ごじゅうさんつぎ)➜ 五十三歳を東海道の宿場数で表現。
※ 無明の酒(むみょうのさけ)➜ 人間を惑わす煩悩を、正常な心を失わせる酒にたとえていう語。
※ 駒の朝走り(こまのあさばしり)➜ はじめに元気がよすぎると、最後まで続かないことのたとえ。
(「水濃徃方」つづく)

読書:「小袖の陰 御広敷用人 大奥記録 3」 上田秀人 著
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「水濃徃方」の解読 4


(散歩道のベニバナトキワマンサク)

散歩道の生垣だが、このトキワマンサク、葉っぱも赤い。

朝、町内の溝掃除。班の人が全員一ヶ所に例年集まるのだが、今朝はそれぞれに家のそばの溝を掃除するようにとのことで、集合場所には誰もいなかった。コロナは近所付き合いまでおかしくしてしまう。常会をもって早く立て直さないと、住み辛くなりそうである。溝掃除もおざなりに終わった。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

仕立おろしの火燵(こたつ)ぶとん、へこむ程な鑷(けぬき)をのせ、忠蔵、お身(おみ)様は、新道(しんみち)の伊勢屋から、足袋(旅)荷に雇(やと)われて、新春早々の銭儲け、大きのきまりと誉(ほ)めていたが、コリャまた怠けてのらつきやるの。こう言えば物知りらしいが、一年の謀(はかりごと)は春に有りと、節用集(せつようしゅう)頭書(かしらかき)にも書いてある。かるた、宝引(たからびき)の仲間入りせぬ為には、少々はこっちから酒盛っても、初春の仕事はするが良いてやと、異見の小言は福鼠(ふくねずみ)の初音(はつね)
※ お身(おみ)➜ 二人称の人代名詞。対等またはそれに近い相手に用いる。あなた。
※ のらつく ➜ 仕事もしないで、ぶらぶらして暮らす。酒色などにふけって、遊びくらす。 ※ 例(れい)➜ れい。
※ 節用集(せつようしゅう)➜ 国語辞書。室町中期に成立。語をいろは順に四十数部に分け、その中を天地(乾坤)、時節(時候)などの十数門に分けて配列。多くは語義や語源などの簡単な注がついている。
※ 頭書(かしらかき)➜ 書物の本文の上欄に、 注釈・批評などを書き記すこと。また、その注記。頭注。
※ 宝引(ほうびき)➜ くじ引きで、いろいろの品物を分配したり、景品を与えたりすること。福引。
※ 福鼠(ふくねずみ)➜ (幸福をもたらすといわれるところから)白鼠のこと。大黒の使者と考えられた。

忠蔵、割り膝になって、親分の心付け、忝(かたじけな)くごんす。成程、冬年(ふゆどし)からの約束で、足袋(旅)に出るつもりで、股引(ももひき)まで新しく拵(こしら)えましたが、隣の虎吉が、秋中の長煩(わずら)いで工面(くめん)が悪い。わしをやってくれんかと、達ての頼み。わしは独身、虎はお袋もって、様々苦労する。可哀そうにと思うて、とろめんの帯も借(か)して、暗い内からやりましたと云うにぞ。それは出かしゃった。人の難儀は、手前の切ない時に比べて、世話してやるが本の立て引。去年は急度精が出た。松の内ばかりも休みやるがよかろう。
※ 割り膝(わりひざ)➜ 両方の膝がしらをやや開いて正座すること。また、その膝。
※ 冬年(ふゆどし)➜ 去年の冬。去年の暮れ。昨冬。
※ 工面(くめん)➜ 金回り。ふところぐあい。
※ とろめん(兜羅綿)➜ 綿糸にウサギの毛をまぜて織った織物。色はねずみ色・藤色・薄柿色などが多く、もと舶来品。のちには毛をまぜない和製のものもできた。
※ 立て引(たてひき)➜ 義理や意気地を立て通すこと。また、そのために
とる言動。
(「水濃徃方」つづく)
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