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「水濃徃方」の解読 3


(庭のフイリアマドコロ)

午後、「駿遠の考古学と歴史」講座に出席した。今年度の最初で受講料も払う。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

七つの鐘に尻からげして、弓張挑灯(ゆみはりちょうちん)持てば、文王(ぶんおう)の御領分を虞芮(ぐぜい)の君の通らしゃる様で、何とやら、こっ恥(ぱ)ずかしく、丸一が早や出の太皷、東雲(しののめ)の雲に響き、町並み続く松竹の風。
※ 七つ(ななつ)➜ 午前四時および午後の四時ごろ。ななつどき。
※ 尻からげ(しりからげ)➜ 着物の後ろの裾をまくり上げて、その端を帯に挟むこと。尻はしょり。
※ 弓張挑灯(ゆみはりちょうちん)➜ 竹弓の弾力を利用して火袋を上下に張って安定させたもので、火消し人足や御用聞きをはじめ広く商家でも使用した。
※ 文王(ぶんおう)➜ 中国周王朝を創建した王。徳をもって万民を治め、諸侯もこれを慕い、隣国の虞と芮の争いを止めた。
※ 虞芮(ぐぜい)➜ 中国周代の虞 (ぐ) と芮 (ぜい) の二国。両国が田を争い、周の文王の裁決を求めて周に行ったところ、
周では、耕す者はあぜを譲り合い、道行く者は道を譲り合っているのを見て、恥じて訴えをやめたという。(虞芮の訴え)
※ 丸一(まるいち)➜ 江戸の太神楽の家元の通称。紋に、丸に一を用いるのでいう。また、太神楽のこと。
※ 東雲(しののめ)➜ あけぼの。夜明けのほのかに明るくなるころ。

一ト先(ひとまず)陣所へ立ち帰りと、塩辛声の浄瑠璃も、すめき渡る常盤橋前、大紋(だいもん)の袖、たぶやかに、馬上ゆゝし御礼(おれい)者は、金出して拝みとうても、他(よそ)の国には何として。有難き君の御恵みと、謳歌(おうか)し奉る声。高砂の裏借し屋まで敷き並べたる青畳、青海波(せいがいは)とはこれやらん。
※ 塩辛聲(しおからごえ)➜ かすれた声。しわがれ声。
※ すめく ➜ すうすうと息づかいをする。多く、詩歌を作るときに苦吟するさまにいう。
※ 大紋(だいもん)➜ 武家の男子服の一種。大紋の直垂の略称。直垂に大きく紋所をつけたことによる。
※ たぶやか ➜ ゆったりしているさま。
※ ゆゆし ➜ すばらしい。りっぱだ。
※ 御礼(おれい)➜ あいさつ。ここでは、新年の挨拶であろう。
※ 謳歌(おうか)➜ 声をそろえて褒めたたえること。
※ 高砂の裏(たかさごのうら)➜ 高砂の「浦」と「裏」をかけている。
※ 裏借し屋(うらかしや)➜ 裏貸し屋。裏通りや路地にある貸し家。(借と貸は現代のように使い分けてはいない)
※ 青海波(せいがいは)➜ 波形をかたどった文様。半円形を同心円状に重ねたもの。
(「水濃徃方」つづく) 

読書:「不信の鎖 警視庁犯罪被害者支援課6」 堂場瞬一 著
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「水濃徃方」の解読 2


(散歩道のハイキンポウゲ)

散歩道の田んぼに、レンゲと隣り合って、一面を覆うように咲いていた黄色い花、図鑑でハイキンポウゲと名前を決めてみたが、違うかもしれない。

「水濃徃方」は目次から、いよいよ本文に入る。江戸言葉の言い回しが新鮮で、けっこう楽しめそうだ。80枚ほどあって、読み終わるに一ヶ月半ぐらいかかりそうだ。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

   水濃行邊目録
 巻之一  柔和里(じゅうわり)先生之篇 上下
 巻之二  取替兵衛(とりかえべえ)之篇
      馬糞先生之篇
 巻之三  塵世遁(ちょんがれ)法師(ほうし)之篇
      大森翁(おきな)之篇
 巻之四  華表(とりい)(とうげ)勘輔(かんすけ)之篇 附薩摩屋
 巻之五  亀山(きさん)丈人(じょうじん)之篇 附三言翁
   水の徃邊目録終

 水濃徃方 巻之一
    柔和里(じゅうわり)先生之篇 上
(こと)も疎(おろ)や、東都の繁栄、就中(なかんずく)、暮ゆく年の賑(にぎ)わい、小判を木鉢で量る家あれば、羽子板を車で引く舘(やかた)あり。されば崎玉(さいたま)の津に寄る船絶えず。都築(つづき)の岡の続きもて渡る年取り物、門松、山草の嵩張りたる物は、筑波山も更に動き出で、武蔵野の草の限り、取り尽くすかと疑うも、無理ならねど、膳の向こうに二つ付けるこまめは、四日市小鮒町の街道を(ふた)、小樽(こたる)に運ぶ節酒(せちざけ)買うとて、酒注ぐ男の手元まで行き付く間が、午(うま)の始めより未(ひつじ)の終り。さるにても、押し殺されぬ命一つ、当暮の儲け物と、寒中に汗を絞る紺の(たい)なし。六十六ヶ国の貨(たから)は皆なこの湊に集まるかと思えば、さあ無いと云うてから、無いものは金なり。
※ 言も疎か(こともおろか)➜ 言うまでもない。
※ 崎玉の津(さいたまのつ)➜ 万葉集にも登場する「埼玉の津」は、東京湾の入江の名残りともいわれ、埼玉県行田市にあった。
※ 都築の岡(つづきのおか)➜ 現、横浜市都築区。
※ 年取り物(としとりもの)➜ 年の暮れに用意する、正月を迎えるための飾り物や燃料・食料品など。。
※ 塞ぐ(ふたぐ)➜「ふさぐ」に同じ。
※ 節酒(せちざけ)➜ 節(せち)の日を祝って供えたり飲んだりする酒。
※ 帯なし(たいなし)➜ 帯のない着物。作務衣のような二部式着物。
※ さあ無い(さあない)➜ そんなことはない。

十二月晦日(みそか)晩景に当たって、人々の顔色、青菜に砂を振い懸けたる如く、鬢先そげ、鼻息は身柱(ちりけ)肩癖(けんぴき)の間から抜けて、夜更(ふけ)る程、意気地なく、御知行所の飛脚がまだ着かぬも、お出入方のお払いが出ませぬも、当年は物入り、この間は病気と、品こそ替われ、詰まる所は出来兼ねの井のむぐらもち、暗闇に頭を抱えて、足音の度、びく/\する内、気の通(かよ)った石町の鐘撞き、こん/\/\、最早(もはや)掛乞(かけごい)もコン(来ん)と撞(つき)ならす。
※ 晩景(ばんけい)➜ 夕方。夕刻。
※ 青菜に砂(あおなにすな)➜「青菜に塩」は普通言われるが、「青菜に砂」の言い方もあるのだろうか。いずれにしても、人が元気がなくしょげるようすを指す。
※ 鬢先そげる(れい)➜「鬢先」は頬のあたり。「鬢先そげる」は頬のあたりがやつれたさまを指す。
※ 身柱(ちりけ)➜ 灸点の一。えりくびの下で、両肩の中央の部分。
※ 肩癖(けんぺき)➜ けんびき。首から肩にかけて筋肉がひきつって痛むこと。肩凝り。
※ むぐらもち(土竜)➜ モグラの別名。。
※ 石町(いしまち)➜ 日本橋本石町に時の鐘があった。現存する。
※ 掛乞(かけごい)➜ 半年分の付けの代金を、暮に取り立てること。
(「水濃徃方」つづく)
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「水濃徃方」の解読 1


(散歩道のルピナス)

今日より、「水濃徃方」の解読にかかる。「序」「自序」と続くが、この「自序」が、大変難しい。一日がかりで解読してみたが、まだ理解しがたい部分も多く、解読出来た気がしない。進む間に、またここへ戻って来る気がする。今日は大方の解読をして、次へ進む。

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「水濃徃方」の解読を始める。 

  水の徃方(ゆくえ) 序
小児の灸を見て逃げるは、一時の熱きを知りて、その身の病を去る事を知らざればなり。俗人の、教えを聞きて、うるさがるは、気の詰まるを知りて、我が身の治(おさま)る事を知らざればなり。父母、小児を愛するに、飴ん棒をかじらせて、かの熱さを紛らす。今、平原屋がこの書を見るに、滑稽を以って俗人をなづけ、教えるは古人の道の四角なるを、所々隅切角(すみきりかど)にし、あるいは、円くも、長くも、短くも、流れ次第の水の行辺(ゆくえ)、その浅きと深きに至りては、汲(く)む人々の心任せ。口の甘き飴ん棒をかじって、切灸(きりきゅう)の熱さを忘れよと云う。
  酉正月吉旦(きったん)         風来山人(しる)す。
※ 吉旦(きったん)➜ よい日。吉辰。吉日。
※ 風来山人(ふうらいさんじん)➜ 平賀源内の戯号の一つ。

  自序
南條子、近代隠遁(いんとん)伝を著(あらわ)さん事をすゝむ。予、謂う、大隠(だいいん)は金馬の門に隠れ、大きん玉、戸塚の台に住むとは、拙者が親仁(おやじ)が寐言(ねごと)なれども、今や唐雲の重代(じゅうだい)に逢うて、件(くだん)申すは、瓢箪を鑓印の案じ、伯夷(はくい)無顧を神前の送り状、誰をか遺賢(いけん)と称し、誰をか逸民(いつみん)といわん。この時に当たって、太公(たいこう)を木場に求め、穽成を牛町に捜さば、時を知らざるの甚しきなりと。
※ 隠遁(いんとん)➜ 俗世間を逃れて隠れ住むこと。
※ 大隠(だいいん)➜ 悟りきっていて、俗事に心を乱されない隠者。
※ 戸塚の台(とつかのだい)➜ 戸塚の手前は、「保土ヶ谷」。
※ 親仁(おやじ)➜ 自分の父親を親しんで、また、他人に対してへりくだっていう語のこと。
※ 親仁が寐言 ➜ 親父の寝言と称するこの辺りまでは何やら怪しい文。
※ 重代(じゅうだい)➜ 先祖代々伝わっていること。また、そのもの。累代。
※ 太公(たいこう)➜ 太公望のこと。
※ 伯夷(はくい)➜ 中国古代、殷末周初の伝説上の人物。高名な隠者で、儒教では聖人とされる。
※ 遣賢(いけん)➜ 世に認められない有徳の人。
※ 逸民(いつみん)➜ 俗世間をのがれて、隠れ住んでいる人。
※ 太公(たいこう)➜ 太公望のこと。

(さむらい)は百の細元手に、経史子集の請け売り見せ、硯の水の出放題は、鵜の真似をする烏の水と、咲(わら)わば咲え、気違い水の咎(とが)(かず)て、杜撰(ずさん)の責めは處(初)から逃げ、水の行辺(ゆくえ)とは題し侍(はべ)るなり。
  明和改元秋八月           平原屋東作自序
                       遍以介んや
※ 経史子集(けいしししゅう)➜ 中国の古典的書籍の四部の分類。経部(経書)・史部(史書)・子部(諸子)・集部(詩文などの文学書)からなる。漢籍の分類法として用いられる。
※ 気違い水(きちがいみず)➜ (飲むと正気を失う水の意から)酒の異称。
※ 被ける(かずける)➜ 責任などを押しつける。人のせいにする。
※ 杜撰(ずさん)➜ 物事がいいかげんで、誤りが多いこと。
(「水の徃方」つづく) 

読書:「浪人奉行 四ノ巻」 稲葉稔 著
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「彙軌本紀」の解読 17


(散歩道のハナミズキの花)

午後、女房と散歩に出る。あたりはすっかり春になっていて、桜は終わったが、色々な花が咲き乱れ、百花繚乱と言ったところである。中でも街路樹のハナミズキの花が目立っていた。

途中で、近所の人から電柱にカラスが巣を作っているから、中電に連絡してくれと言われた。これも区長の仕事だろうと、電話をする。電柱番号も伝えたけれども、卵があると鳥獣保護法で撤去が出来ないと言われた。その時は電柱に監視中の表示がされるという。特に住民に直に被害が及ぶわけではない。設備に影響があってはと思い連絡しただけだから、何の問題もないが、カラスにも鳥獣保護法は適用されることを改めて知った。

今日は中学校の入学式。名古屋のかなくん、掛川のまーくん、共に、ラインで、中学校門前の学らん姿の写真を送って来た。60年以上前の自分も同じ姿だったが、「学らん」などとは言わなかった。今時の言葉だろうと思っていると、筒袖の洋服の事を、幕末、明治の文明開化の頃、蘭服と呼ばれた。「蘭」はオランダである。つまり、学生用の蘭服で「学らん」であった。何のことはない。今や自分の守備範囲の時代の言葉であった。ならば、「ライン」というのも「蘭引」と書くのかもしれない?

さて、明日から読む積りの古文書は「水濃徃方」という滑稽本である。著者は「平原屋東作」、そう 「彙軌本紀」に跋を書いていた、江戸後期の狂歌師、戯作者である。どんな内容なのか、予備知識は全くない。

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「彙軌本紀」の解読を続ける。

   自跋(じばつ)
清貧(せいひん)は常に楽しみ、濁富(だくふ)は常に患(うれ)うとは、往昔(むかし/\)、老夫(じいさま)山に柴刈り、婆さま川に洗濯するの時代にて、天秤棒(てんびんぼう)、上へそりたるの定矩(じょうき)にあらず。貧者は甘塩(あまじお)のさんまを賞し、富者は鯛の味噌酢を奇なりとせず。(貧者は)(ます)の米に追われて、腹中淋しく、(富者は)百斛(こく)の美酒をくらって、寒夜を知らず。豈(あに)楽しみ、貧者にあらんや。もし古語を当時(今)当つる時は、婆あ様山に柴刈り、老夫(じいさま)川に洗濯し、桃太郎鬼ヶ島へ渡って、若衆(わかしゅう)にさるゝに及ぶべし。
※ 自跋(じばつ)➜ 著者自らのあとがき。
※ 清貧(せいひん)➜ 私欲をすてて行いが正しいために、貧しく生活が質素であること。
※ 濁富(だくふ)➜ よこしまに、富むこと。
※ 定矩(じょうき)➜ 物事の標準。定規。
※ 百斛(ひゃくこく)➜ 古代の体積の単位。百石。
当つる(あつる)➜ 当てる。
※ 若衆(わかしゅう)➜ 美少年。特に、男色の対象となる少年。

箱根からこつちに、野暮(やぼ)(ま)れにして、錢(ぜに)(もう)からず。化物出ずして、怪談の書廃(すた)れたり。この二つの外に、至って微(び)なるものは何ぞや。山吹辺事(へんごと)なり。
※ 野暮(やぼ)➜ 人情の機微に通じないこと。
※ 山吹(やまぶき)➜(ヤマブキの花に色が似るところから)大判・小判の金貨。黄金。
※ 辺事(へんごと)➜ その辺のこと。

今、予が著(あらわ)す「彙軌本紀」は、全く鉦(しょう)を進むるに非ず。かれを見、これを聞て、以って、その尻の詰まらざる事を喩(さと)し。この書を世界の息子たちに見せ、居候の難を免(まぬが)れん事を欲す。稼ぐに追い付く貧乏なし。尽くすに追い付く富貴なし。然りといへども、一概に古風を慕わば、沈香は焚かずして、屁を嗅(か)どんちやんあるべし。油断すべからずと、まじめになつて記す事、然り。
※ 稼ぐに追い付く貧乏なし ➜ 常に精を出して働けば、貧乏に苦しむことはないという格言。
※ 一概に(いちがいに)➜ 細かい差異を問題にしないで一様に扱うさま。おしなべて。 ひとくちに。
※ 沈香(じんこう)は焚かずして、屁を嗅(か)ぐ ➜ 「沈香も焚かず屁もひらず」(可もなく不可もない、平々凡々であることのたとえ)の諺のもじり。
※ どんちゃん ➜ 太鼓・三味線などの鳴り物入りでにぎやかに遊ぶこと。また、そのような騒ぎ。

  天明甲辰歳 ☐☐
              島田金谷 述
                      タワ  ヲヤ
                      ケノ  タマ
                    (二つの角印の中の文字)
※ 天明甲辰歳 ➜ 天明四年(1784)。
※ ☐☐ ➜ 下の二文字解読できず。読めた方、コメント下さい。


(「彙軌本紀」おわり)

読書:「化粧の裏 御広敷用人 大奥記録 2」 上田秀人 著
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「彙軌本紀」の解読 16


(寒そうなモンシロチョウ)

寒の戻りとかいう早朝、区長のお仕事で、交通安全週間の登校する小学生の、交通安全指導に出た。今日から学校が始まり、大井川鉄道の踏切が一つ無くなって、通学路が今日から大きく変わる子供たちもいる。チョッキとタスキを掛け、旗を持って、合格駅前交差点に立った。30分ほどで終わる。

午後、久し振りに女房と散歩に出た。花粉症で、しばらく敬遠していたが、今日から再開の積りである。花粉症も今年もひどくはならずに終わったようだ。インフルエンザも流行せず、花粉症も少ない。この春は、新型コロナを手掛けない開業医は、閑散としていたのではないかと心配する。患者もお年寄りは出来るだけ診察を避ける時代だから。

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「彙軌本紀」の解読を続ける。

   彙軌本紀(ばつ)

猛晋須(もうしんす)という華人(とうじん)の詞(ことば)に曰う、居(きょ)は気を移し、春画は情を写すと。凡そ大いなるもの、天下に三つ。西京(きょう)に堂塔伽藍あり。浪花(おおさか)に交易運遭(うんそう)あり。智恵と胆気(きも)とに至りては、東都(えど)を除(の)けて、また何れの国にあらんや。
※ 跋(ばつ)➜ 書物や書画の巻物の末尾に記す文。後書き。
※ 猛晋須(もうしんす)➜ 架空の人か。「申しんす」の洒落か。「詞」に春画が出てくるのは、いかにも嘘っぽい。
※ 胆気(きも)➜ 胆気(たんき)。どんなことをも恐れない気力のこと。度胸。きもったま。

吾が友、島田金谷(しまだきんこく)。その江都(えど)の中央(まっただなか)ぎやっと云うて生れしより、前へ性根(しょうね)七歩(しちほ)を進め、後(うしろ)野狐(きつね)の七歩を退き、難陀(なんだ)が口より洒落(しゃれ)を吐き、跋陀(ばつだ)が口より自慢(じまん)を吐く。武蔵野の原を腹とし、富士の山を準(やま)とはり、聡明叡智、委細承知、生れ付いたる智恵の甲折(かいわり)
※ 子(し)➜ 学問・人格のすぐれた者の名に付ける敬称
※ ぎやっ - おぎゃあ。(生まれる第一声)
※ 性根(しょうね)➜ その人の根本の心構え。心の持ち方。根性。こころね。
※ 七歩(しちほ)➜ 七歩歩む間に詩をつくること。また、その才能。七歩の才。
※ 野狐(きつね)➜「やこ」とも。狐の妖怪・狐憑きをも意味する。「性根」と「野狐(きつね)」で韻を踏んでいる。
※ 難陀(なんだ)➜ 難陀龍王。仏法を守護する八大龍王の一。
※ 跋陀(ばつだ)➜ 跋難陀龍王。仏法を守護する八大龍王の一で、難陀龍王の弟。
※ 自慢(じまん)➜ おはこ。転じて、癖のこと。
※ 甲折(かいわり)➜「甲折(こうたく)」は、草木が芽を出すこと。「かいわり」は「かいわり菜」のことで、ダイコンやカブの芽生え。種子の殻を割って双葉が出てきたもの。

牽頭(たいこ)末社(まっしゃ)に育てられ、その丈(たけ)、三万三千丈、白髪の老翁(おやじ)にうんと云わせ、放屁(へっぴり)(じゅしゃ)に誤(あやま)ったかと、きめても尽きせぬ智恵の海。硯(すずり)を皷(なら)せば一句となり、墨を摺れば一章となり、兔なり角なり、瓢(なりひさご)かしがましとて捨(すつ)る人。有難いとて拾う人。ぐっと鵜飲み(うのみ)の玉川鮎。水道の水のそれ、ナンと云うと。平原屋東作、筆を酩酊(めいてい)の中に揮(ふる)う。
  天明三癸卯歳春、めでたき日
                       へいげんや
※ 牽頭(たいこ)➜ たいこもちのこと。
※ 末社(まっしゃ)➜ これも、たいこもちのこと。。
※ かしがまし ➜ やかましい。うるさい。
※ 平原屋東作(へいげんやとうさく)➜ 江戸後期の狂歌師、戯作者。著書に「水の徃方」五巻。
(「彙軌本紀」つづく)
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「彙軌本紀」の解読 15


(庭で野生化したアケボノセンノウ)

今日、「新型コロナワクチン接種の御案内」なる書類が市役所から届いた。集団接種の他に、掛かり付け医での接種も可能のようで、医院の名前も載っていた。さて、申し込みはと、ネットなどで調べて行くと、申し込みが出来るようになったら、後日、広報などで連絡するとあった。「接種の御案内」の書類がしっかりしている割には、先のことはワクチンが届いて来なければ、始まらないと、何とも頼りないことである。今月の終り頃には接種が始まるのであろうか。

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「彙軌本紀」の解読を続ける。本文の解読は今日で終わる。あとがきのようなものが、もう少しある。

武士、化して宗匠(そうしょう)となり、商人変じて居候となる。千柳(川柳)前句(まえく)に曰う、

  掛人(かかりゅうど) 昔をいうと 張り込ま

と、相当れり。これ憎(にくま)れ口の、未だ止(や)まざるが故なり。先人、馬鹿百韻(ひゃくいん)を作って、尻をすぼめ、近くは、宝井大通(だいつう)山入(やまいり)を書いて、品川をしくじる等。皆な(おとがい)の達者より起る。
※ 宗匠(そうしょう)➜ 文芸・技芸などの道に熟達しており、人に教える立場にある人。
※ 前句(まえく)➜ 連歌・俳諧で、付句(つけく)の前に位置する句。
※ 掛人(かかりゅうど)➜ 他人の世話になって生活している人。居候。
※ 張り込む(はりこむ)➜ おごる。(但し、「おごる」の意味は兵庫県の方言らしい。)
※ 百韻(ひゃくいん)➜ 連歌・俳諧で、百句を連ねて一巻きとする形式。
※ 尻をすぼめ(しりをすぼめ)➜「屁をひって尻窄める」失敗をしたあとで、取りつくろったり、誤魔化そうとしたりすることのたとえ。。
※ 大通(だいつう)➜ 遊里・遊芸などの方面の事情によく通じていること。また、その人。
※ 山入(やまいり)➜「山入」には、 店などを閉じる、店じまいするの意味がある。
※ 頜の達者(おとがいのたっしゃ)➜「あごが達者」つまり、弁舌が優れていることをいう。

魚街(ぎょがい)爺老(じいさま)没して、助六の初日寂しく、大山代参の咄(はなし)もきかず。功成り、名遂げて、身退(しりぞ)く輩(ともがら)枸杞(くこ)の油の香を忘れ、清次可本田もひとつ昔の噂(うわさ)となる。惜そおかな、東都名物の衰(おとろ)えたること。半太夫(はんだゆう)、少く行なわれ、野呂間(のろま)再び創(はじ)まる。土佐外記の二流は、知る人希(まれ)なり。
※ 枸杞(くこ)➜ 東アジア原産のナス科の落葉低木。夏から秋にかけて薄紫色の花を咲かせて、秋に赤い果実をつける。有用植物で、食用や薬用に利用される。
※ 半太夫(はんだゆう)➜ 半太夫節。浄瑠璃の一。貞享頃、江戸の太夫、江戸半太夫が創始。江戸中期に流行したが、のち河東節に押されて衰えた。江戸節。
※ 野呂間(のろま)➜ 野呂間人形。人形浄瑠璃の間狂言として遣われた道化人形。寛文・延宝年間、江戸和泉太夫座の野呂松勘兵衛が創始したという。青黒い顔の人形の一人遣で,せりふは狂言風だったらしい。
※ 土佐(とさぶし)➜ 土佐節。古浄瑠璃の一派。土佐少掾橘正勝が語りはじめたもの。延宝~宝永の頃、江戸で流行。
※ 外記(げきぶし)➜ 外記節。江戸古浄瑠璃の一。薩摩外記が貞享のころ創始。京都から江戸に下って硬派の浄瑠璃を語った。

願いは、夷狄(いてき)の曲を避けて、一口も東都節(えどぶし)の雅言(がげん)をうなるべしと、寒夜(かんや)に大肌(おおはだ)を脱ぎ、三舛(みます)の手拭いを鉢巻にして、いらざる世話を焼栗の、杜撰(ずさん)の呵里(しかり)を逃げ栗(にげぐり)、追い栗(おいぐり)、這い屈んで、誤って白(もう)すのみ。
※ 雅言(がげん)➜ 洗練された上品な言葉。正しいとされる優雅な言葉。
※ 三舛(みます)➜ 紋所の名。歌舞伎俳優、市川団十郎などの家紋。
※ 杜撰(ずさん)➜ 物事がいいかげんで、誤りが多いこと。
※ 呵里(しかり)➜ お叱り。口に出してとがめること。
※ 云爾(のみ)➜ 漢文で、文章の終わりに用いて、これにほかならない、という意味を表す語。 元来、助辞として用いられ、訓読の際には、「しかいう」「のみ」と読む。
(「彙軌本紀」つづく)

読書:「大義 横浜みなとみらい署暴対係」 今野敏 著
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「彙軌本紀」の解読 14


(庭のサルビア・ミクロフィラ )

ネットで花期を見ると、6月~11月とあった。花が違うのかもしれない。

午後、孫たちが帰った。孫たちの新学期もすぐに始まるようだ。去年、コロナで遅れた授業は、最終的にすべてこなすことが出来たという。

夜、区臨時班長会。

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「彙軌本紀」の解読を続ける。今日の部分は大変に難解で、何とか解読したけれども、今一つ納得できない部分もある。

攻め来る刷り物大山を張り抜くべく、名広めの会、万句の席、河内屋が高楼。神々思しく、お羽織を見ては、(いただ)き山にせんことを欲し、お煙管(きせる)を見て、誉まれごと、けばけばしく幕の桟敷(さじき)。顔見世の遣い物、闇雲にやり、暗雲(やみくも)に驕(おご)って、後に身上(しんしょう)散々廃々(ちゃちゃむちゃ)となる。
刷り物すりもの)➜ 版木を用いてすったもの。ここでは万句合わせで課題の前句を刷り物にしたもの。
※ 大山を張り抜く(たいざんをはりぬく)➜ たくさんの応募の中から勝ち抜く。。
※ 名広め(なひろめ)➜ その名が世間で広く知られるようになるようになること。
※ 万句(まんく)➜ 万句合わせ。雑俳で、選者が課題の前句の刷り物を配布して付句を募集し、勝句(かちく)(高点句)を半紙に印刷して発行したもの。
※ 思しく(おぼしく)➜ 思われて。
※ 戴き山(いただきやま)➜ 「戴く」と、「頂き」の連想から「戴き山」と洒落た。
※ けわけわしい ➜「けばけばしい」か。品がなくはでなさま。特に、色彩などがどぎつくて、はでなさま。
※ 桟敷(さじき)➜ 劇場・相撲場などで、一段高くつくった板敷きの見物席。
※ 闇雲(やみくも)➜ 先の見通しもなくむやみに事をすること。むやみやたらに。
※ 身上(しんしょう)➜ 財産。資産。また、家の経済状態。暮らし向き。
※ 散々廃々(ちゃちゃむちゃ)➜ 茶々無茶。物事が台なしになるさま。めちゃくちゃ。

忠臣は退(しりぞ)き、侫臣(ねいしん)(すく)。息子は田舎に蟄し地面(ちめん)は野暮にせしめらる。各(おのおの)、胸中甚(はなはだ)高く、弁は、蘇秦(そしん)張義(ちょうぎ)を欺(あざむ)き、才は周公(しゅうこう)呂望(りょぼう)に越ゆ。善悪、邪正、暗明、黒白の理は、よく知れども、行(おこな)いは、愚痴文盲の人よりも非なり。
※ 侫臣(ねいしん)➜ 口先巧みに主君にへつらう、心のよこしまな臣下。
※ 竦む(すくむ)➜ 驚きや恐れ、極度の緊張などのためにからだがこわばって動かなくなる。
※ 蟄す(ちっす)➜ 世を逃れ閉じこもる。ひきこもる。。
※ 地面(ちめん)➜ 土地。
※ 蘇秦(そしん)➜ 中国、戦国時代の弁論家。張儀と並んで縦横家の代表人物。
※ 張義(ちょうぎ)➜ 中国、戦国時代の縦横家・政治家。魏の人。蘇秦と共に縦横家の代表的人物。
※ 周公(しゅうこう)➜ 中国、周の政治家。文王の子。名は旦。
※ 呂望(りょぼう)➜ 周の文王、武王を補佐して周王朝建国に尽力した功臣。号は太公望。
※ 愚痴文盲(ぐちもんもう)➜ 愚かで学問のないこと。
(「彙軌本紀」つづく) 

読書:「菊太郎あやうし 剣客同心親子舟 2」 鳥羽亮 著
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「彙軌本紀」の解読 13


(春まんかい、シズウェル向いの花壇)

夜、孫たちが集まって、今夜は鉄火丼パーティ。かなくん、まーくんには、中学への入学祝いを渡す。

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「彙軌本紀」の解読を続ける。

ただの人の異見に曰う、傾城に誠なし。鶏卵(たまご)に方(しかく)なるなし。若しこの両品(りょうひん)あらば、晦日(みそか)の晩に月が出ると。これ、俗徒(ぞくと)の談にして、いまだ娼婦に真(まこと)あるの證(しょう)を見ざる故なり。
※ 俗徒(ぞくと)➜ 世間一般の人。

古語(こご)に曰う、

  (ふち)に臨(のぞ)んで魚(うお)を羨(ねが)うことは、
  退(しりぞ)いて網を結(むす)ぶに(し)かず

さきの真偽を論ぜんよりは、己(おの)が傾城をころすの才なきを慙(は)ずべし。
※ 「如かず」は、「不知」とあったが、「不如」の間違いと思う。
※ ころす ➜ 相手を悩殺する。惑わせる。ここでは、傾城を靡かせるの意か。

また謂う、

  傾城に 誠があって 運の尽き

と、俳諧に云えるごとく、伴頭を顧(かえりみ)れば、傾城に疎く、傾城に親しからんとすれば、家おさまらず。ここに是(ぜ)なること、かしこに非なり。非を非と知って非をなすは、傾城の誠心(せいしん)を見ればなり。商人の金を出して物を買ふも、銭の儲(もう)かるを知ればなり。その道は、言葉にして欲するところ、是一(これいつ)なり。あえて鉦者(しょうしゃ)を譏(そし)るべからず。
※ 誠心(せいしん)➜ まことごころ。偽りのない心。まごころ。
※ 鉦者(しょうしゃ)➜ 鉦叩きのことか。「鉦叩き」は、鉦をたたいて経文などを唱え、金品を請い歩く者。かねたたき坊主。商人も鉦叩きも言葉にして欲するところは同じだという考え。

面白いの最上(うえなし)青楼の楽しみ。智者となり、愚者となり、通となり、野暮となるも何ぞや。正に金(かね)の多少による。

  (は)無くして能(よ)く飛び、足無くしてよく行く

ヤッサコラサの二百増し猪牙(ちょき)船州(せんしゅう)の腕に任す。
※ 青樓(せいろう)➜ 妓楼(ぎろう)。江戸では特に、官許の吉原遊郭をさした。
※ 増し(まし)➜ 割合・数量・期間などを表す語に付いて、その分だけふえることを示す。
※ 猪牙(ちょき)➜ 猪牙舟。猪の牙のように、舳先が細長く尖った屋根なしの小さい舟。
※ 船州(せんしゅう)➜ 船頭。
(「彙軌本紀」つづく)

読書:「浪人奉行 三ノ巻」 稲葉稔 著
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「彙軌本紀」の解読 12



(上がツツジ、下がサツキ)

午後、静岡へ行き、駿河古文書会に出席する。今日から新年度だが、2回の当番に加えて、もう一回当番を頼まれた。そんなに大変ということはないので、引き受けた。今年度は駿河古文書会、創立50年にあたり、記念出版などもあるという。

駿府公園は静岡まつりで久し振りに賑わっていた。駐車場からシズウェルの会場までの間に、サツキとツツジの両方が咲いていた。コメントで教わった通りに、区別が出来た。

夜は孫たちが集まってギョーザパーティであった。

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「彙軌本紀」の解読を続ける。 

(うたげ)終って、娼家に至れば、窈窕(ようちょう)たる老乱(おいらん)嬋娟(せんけん)たる雛婦(しんぞう)、琴を弾き、弦を鳴らして、舘中塵埃(じんあい)を払い、「およしなんし、馬鹿々々しい」の廓言(かくげん)は、十寸見(ますみ)が曲声(きょくせい)と争い、高樓(こうろう)銀燭(ぎんしょく)の光は、白昼の如く、並べ立ったる台の物は、座上に島(しま)あるかと疑(うたが)わる。
※ 窈窕(ようちょう)➜ 美しくしとやかなさま。上品で奥ゆかしいさま。
※ 老乱(おいらん)➜ 花魁(おいらん)。位の高い遊女。太夫(たゆう)。
※ 嬋娟(せんけん)➜ 容姿のあでやかで美しいさま。
※ 雛婦(しんぞう)➜ 江戸時代、遊里で、姉女郎の後見つきで、新しくつとめに出た若い遊女。新造。
※ 廓言(かくげん)➜ くるわことば。江戸時代の遊廓で遊女が使った言葉・言葉遣い。
※ 十寸見(ますみ)➜ 十寸見河東。江戸時代中期の浄瑠璃太夫。河東節の流祖。
※ 高樓(こうろう)➜ 高く造った建物。高閣。たかどの。
※ 銀燭(ぎんしょく)➜ 美しく輝くともしび。

食類は樽三舛屋が風流を慕い、酒は清絜(せいけつ)の下流を汲む。鑓手(やりて)了髻(かむろ)の無礼を免(ゆる)さず。迫僕(わかいもの)は雛婦(しんぞう)の探索を戒(いまし)む。閨中(けいちゅう)綾羅(りょうら)三ッ布団金屏(きんべい)は雪舟、探幽と雲上(うんじょう)なり。
※ 清絜(せいけつ)➜ 清潔。汚れがないこと。
※ 鑓手(やりて)➜ 遣り手。遊郭で客と遊女との取り持ちや、遊女の監督をする年配の女。
※ 了髻(かむろ)➜ 禿(かむろ)。江戸時代の遊廓に住む童女。
※ 閨中(けいちゅう)➜ ねやのうち。寝室の中。
※ 綾羅(りょうら)➜ あやぎぬとうすぎぬのこと。
※ 三つ布団(みつぶとん)➜ 三枚重ねの敷布団。江戸時代、最高位の遊女の用いたもの。
※ 金屏(きんべい)➜ 金屏風(きんびょうぶ)。
※ 雲上(うんじょう)➜ ようすや態度が高貴なように見えるさま。

客に侠者(きょうしゃ)なく、傾城(けいせい)鄙俗(ひぞく)なく、濱街先生の筆意(ひつい)を学び、唐机(とうき)に和漢の書を飾りて、玉章(ぎょくしょう)、つたなからず。温々(おんおん)和々(かか)として、諸事、伴頭(ばんとう)・雛婦(しんぞう)に任す。調度用物(ようぶつ)の價(あたい)を知らず。孔方(こうほう)の数量も知らざれば、これを性悪の奥様に喩(たと)う。初めて知る、深川の夷狄(いてき)なることを。
※ 侠者(きょうしゃ)➜ 侠客(きょうかく)。義侠・任侠を建て前として世渡りする人。
※ 鄙俗(ひぞく)➜ いやしく下品なこと。品がなく俗っぽいこと。田舎びていること。
※ 筆意(ひつい)➜ 筆を運ぶときの気構え。また、書画のおもむき。ふでづかい。
※ 唐机(とうき)➜ とうづくえ。紫檀等の唐木で、中国風に作った机。
※ 玉章(ぎょくしょう)➜ 他人を敬い、その手紙・文章をいう語。玉書。たまずさ。
※ 伴頭(ばんとう)➜ 番頭。
※ 孔方(こうほう)➜ 方形の穴。四角い穴。すなわち、「ぜに(銭)」の異称。
※ 夷狄(いてき)➜ 未開の民や外国人。
(「彙軌本紀」つづく)

読書:「わるじい慈剣帖 5 あるいたぞ」 風野真知雄 著
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「彙軌本紀」の解読 11


(裏の畑のブルーベリーの花)

夜、名古屋のかなくん親子が来る。春休み中だが、コロナを心配しながらの、久し振りの帰郷である。

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「彙軌本紀」の解読を続ける。

十有五(十五歳)にして、初めて、御出入の卜庵(ぼくあん)老と深川の土橋に至り、チンチヽ律の調子に乗り、悤劇(そうげき)すること甚しく、娼妓(けいせい)、役者に通(つう)ずるの案内(あない)を知らず。
※ 深川の土橋(ふかがわのつちはし)➜ 深川の岡場所、七場所の一つ。
※ 悤劇(そうげき)➜ 非常にあわただしいこと。忙しくて落ち着かないこと。
※ 案内(あない)➜ 物事の内部のようす。内情。

お先に使わるゝこと三年、牽頭持(たいこもち)不風流(ぶふうりゅう)、若い者の生存在(いけぞんざい)。船頭は諸侯の如く、客は倍臣(ばいしん)に等しく、吉さん、源さんと舌長(したなが)なり。おちょうさん、おまつさんの割床(わりどこ)、新川の義兵衛に隣りにて、終夜(よもすがら)悪口の巻物をきく。口説(くぜつ)なるか、喧嘩なるか、更に分らず。
※ お先に使わるる(おさきにつかわるる)➜ 人の手先に使われる。
※ 牽頭持(たいこもち)➜ 太鼓持(たいこもち)。男芸者。幇間(ほうかん)。
※ 不風流(ぶふうりゅう)➜ 風流でないこと。趣味を解さないこと。
※ 生存在(いけぞんざい)➜ ひどく粗略である。いかにもなげやりである。
※ 倍臣(ばいしん)➜ 陪臣。諸侯の家来。
※ 舌長(したなが)➜ 言葉が過ぎること。偉そうに物を言うこと。
※ 割床(わりどこ)➜ 一室を屏風(びょうぶ)などで仕切って、二組み以上の寝床をこしらえること。
※ 口説(くぜつ)➜ 言い争い。文句。特に江戸時代、男女間の痴話げんか。

八幡の鐘声(しょうせい)、耳を貫ぬき、閙(さわが)しく形容(けいよう)を正し、深閨(しんけい)を出て、桟橋(さんばし)に至れば、娼妓(けいせい)漸く送って、「吉さん、この間にへ」の一句にして、言(葉)を断つ。無情なる事、淡々たり。卑なるかな、深川の遊び。
※ 形容(けいよう)➜ 人のすがたかたち。容姿。容貌。
※ 深閨(しんけい)➜ 奥にある寝室。婦人の寝室。
※ 淡々(たんたん)➜ 態度・動作などが、あっさりしてこだわりがないさま。

檜木(ひのき)舞臺を踏まずんは、迷(さと)汚號(おごう)を免(まぬが)れずと、発明して、一日、知己(ちき)相伴なって、青樓(せいろう)に至る。中之(ちゅうし)街にして、估妓(げいしゃをかい)、酒を喫(きっ)して、洒落(しゃらく)たること、数刻、客を具して相集るの徒は、蘭爾、東洲、五調、嘉隆、目吉、藤兵衛等、啌(うそ)八百をならべ、大声(たいせい)笑語(しょうご)して盛々(せいせい)たり。ここに於いて、魂初めて宿替えす。
※ 汚號(おごう)➜ 汚れたしるし。
※ 発明(はつめい)➜ 理論や方法などを新しく考え出すこと。
※ 青樓(せいろう)➜ 妓楼(ぎろう)。江戸では特に、官許の吉原遊郭をさした。
※ 洒落(しゃらく)➜ 物事にこだわらず、さっぱりしていること。
(「彙軌本紀」つづく)

読書:「菊と鬼 剣客同心親子舟 1 」 鳥羽亮 著
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