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江戸繁昌記初篇 10 吉原 5

(散歩道のイヌマキの実)

今はまだ青いが、秋には赤く熟して食べられるようだ。

「江戸繁昌記初篇」の解読を続ける。

妓、従容として謂て曰う、君少く説話す、宜しく。即ち曰う、小子談話を解せず。妓曰う、また人欺むくのみ。君多く手叚有り。即ち笑いて曰う、脚を加えて纔かに四本。妓、星眼波を流して曰う、憎むべし。繊手他を一捻し去る時に、戸外を儕娼の過ぐる有り。曰う、今夕何の夕ぞ、この楽事を取る。妓、微笑しこれに応えて曰う、何等の言語か、かつて耳に入らずや。
※ 従容(しょうよう)- ゆったりと落ち着いている さま。危急の場合にも、慌てて騒いだり焦ったりしないさま。
※ 小子(しょうし)- 一人称の人代名詞。自分をへりくだっていう語。小生。
※ 手叚(しゅか)- 借りる手。
※ 星眼(せいがん)- 正視すること。
※ 繊手(せんしゅ)- かぼそい、しなやかな手。
※ 一捻(いちねん)-(原文に「つねる」とルビが振られている)
※ 儕娼(ほうばい)- 娼妓の仲間。(「朋輩」は同じ主人に仕えたり、同じ先生についたりしている仲間。)


を援(たすけ)を吹く。火光溌起、眼を偸(ぬす)んで、面目を火光中に熟視し、自家先ず餐了一番、遂に他をして餐一口せしむ。曰う、請う、且(しばら)く一睡せよ。自ら起きて、郎が上袍を褪(ぬが)し、を把(と)ってこれを被う。
※ 筒(つゝ)、烟(けむり)- 煙管(きせる)と煙草の烟。
※ 火光(かこう)- 灯火の光。
※ 溌起(はっき)- 勢いよく跳ね起きること。(原文に「はっとする」とルビが振られている)
※ 郎(ろう)- 女性から夫、または情夫をさしていう語。
※ 面目(めんもく)- 顔かたち。顔つき。
※ 自家(じか)- 自分。自分自身。
※ 餐了一番(さんりょういちばん)- 煙草を一服吸うこと。
※ 餐一口(さんひとくち)- 煙草を一服吸うこと。
※ 上袍(じょうほう)- 上着。上っ張り。
※ 衾(ふすま)- 布などで長方形に作り、寝るときにからだに掛ける夜具。綿を入れるのを普通とするが、袖や襟を加えたものもある。現在の掛け布団にあたる。


玉臂早く已に郎が角枕下に在り。曰う、想うに君が家、必ず當(まさ)佳偶の有るべし在る。曰う、良縁未だ遇(あ)わず。曰う、然れば、則ち何れの楼か知らず、暱人の親を約する有らん。曰う、家君厳なり。縦遊を得ず。如何(いか)んぞ、この事有らん。
※ 玉臂(ぎょくひ)- 美しいひじ。玉のように美しいうで。美人のひじの 形容として用いる。
※ 佳偶(かぐう)- よき連れ合い。
※ 暱人 -「暱」は「なじむ」。(原文に「なじみ」とルビが振られている)
※ 家君(かくん)- 自分の父親。親父。
※ 縦遊(しゅうゆう)- 気のむくままに遊ぶこと。

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