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事実証談 神霊部(下) 84~88 年神、秋葉山

(静居寺の牡丹)

事実証談の解読を続ける。

第84話
○城東郡笠原庄、治郎左衛門という者は、榛原郡より聟に来りしを、その親里一向宗にて有りける故、かの治郎左衛門親里のまゝに、禁火(いみび)の事、正しからざりしに、
※ 一向宗(いっこうしゅう)- 浄土真宗。主として他宗派からの呼び名。一向一念宗。門徒宗。「弥陀如来の外の余仏に帰依する人をにくみ、神明に参詣するものをそねむ。」といわれ、俗信などを無視する傾向にあった。

文化十二年(1815)二月朔日、朝飯を炊(かし)きたりしが、その色赤飯の如くなりし故、怪しみて卜者に占わせたりければ、十五日頃にはかならず災い有るべしと言いけるにより、主も俄かに驚き、萬(よろず)つゝしみたりしに、同月十五日、その家の娘つるといえるが、いく度も気絶して、大病を煩いしとなん。


第85話
○周智郡天宮郷、中村家にても、寛政年中(1789~1801)、火の穢れし事有りしを知らずして有りしに、その家の娘、気絶して悩みし事有りしは、上の件(くだり)と等しき事なりけり。

第86話
○城東郡平尾村、栗田家の下女、月役にて有りしを、隠して同火したりければ、囲炉裏の鍵より煤水流れ落つる事、上に水ありて洩り下るが如くなる故、怪しみよく/\見れども、上には何もしかるべき物なく、拭えども止まざりけり。神職家の事にて有りければ、火の穢れならんとよく糺したりければ、下女の隠せし事あらわれ、祓い清めたりければ、則ち止みしとなん。
※ 囲炉裏の鍵 - 自在鉤(じざいかぎ)のこと。囲炉裏やかまどの上につり下げ、それに掛けた鍋・釜・やかんなどと、火との距離を自由に調節できるようにした鉤。


第87話
○文化十四年(1817)正月、同郡赤土村、ある家にて、年神祭りとて、常よりことに火を改め物炊きけるに、朝夕の飯、赤色に変じ、茶飯にひとしくなりし故、怪しみ糺したりければ、下女月役にて有りしを隠し、同火せし事あらわれたりける故、萬洗い清めて炊きたりければ、それよりかわる事なかりしといへり。

第88話
○豊田郡前野村、鈴木常吉という者、寛政といいし初年の頃(1789)、十六歳のとき、一僕をつれて秋葉山に参詣せしが、甚く労(つか)れ、日暮れて麓なる旅宿に着きけるを、道にて火防(ひぶせ)の札を落せし故、驚きてとかく言いさわぎけるに、相宿せし旅人聞き付けて言いけるは、

我らも日暮れて山をくだりしに、道にて大なる人出ていいけるは、暫し先へ十六、七歳ばかりなる前髪下りしが、いたく労れしと見えて、御札を落したり。持ち行きて渡せと言いしにより、怪しみながら受け取り来たりしが、これなるやとかの札を出せしに、取り落したる札なりければ、悦びて受け取り帰りしが、闇夜といい、その拾いし大なる人というは、神にておわしけんと、則ち常吉の物語なり。
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