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事実証談 神霊部(下) 66、68 豊川稲荷明神、孕石村孕石天神社

(掛川市孕石、孕石天神社)

事実証談の解読を続ける。

第66話
○豊田郡森本村、定吉という者、寛政九年(1797)天龍川に流木のあるを拾わむと、
(これは小破枝(こわし)とて奥山にて朽ちたる木の、年来雨風にされ、鰹節の如くなる木の、大水のとき流れ出で、よどみにとゞまり、沼に入りて有るを、掻網(かくみ)とて、木に網を付けて、沼中をかきて拾うる事あり。古水には又大なるもいろ/\有りて、同じからず。)

五、六歳なる男子をつれ、船にて中の瀬に渡り、船棹を渚(みぎわ)に突き立て、綱を以ってその船をつなぎ、男子をば船中に置いて、こゝかしこ歩行(あるき)て、流木を拾い集むるとて、思わず時をうつし、休まんとするに、かの船見えざる故、大いに驚き、川下までも駈け行き尋ねれども見えざれば、

今は人力の及ぶべきにあらずと、身禊(みそぎ)して、三河国豊川稲荷明神に祈願しつゝ、なお川下に尋ね下りけるに、十丁余り下なる中嶋村という所の渚に、かゝりて有るを見付け、駈け寄り見るに、その男子、船中に遊びて有りける故、大いに悦び、連れ帰り、まことに神の加護なりと、取る物もとりあえず、豊川稲荷社へ参詣し、札守りをいたゞき、神棚に納め置きけり。
※札守り(ふだまもり)-守り札。神仏の力によって人を災難や病気から守るという札。社寺から受けて、身につけたり家にはったりする。護符。おまもり。おふだ。

その後、同村土手屋の妻、難産にて苦しみけるによりて、かの豊川の札守りを、その家に借り受けて祈願せしかば、速やかに安産しけるが、その札を返さず留め置きしに、その後、定吉の忰、俄かに煩いし故、卜者に占わせければ、稲荷明神の崇りなりといいけるゆえ、かの札守りを他の家に出し置きし崇りなるべしと、取り返せしかば、男子の病、速やかに全快せりといえり。
※ 卜者(ぼくしゃ)- うらないをする人。占師。

またその後、赤池村の者病気にて、かの札守りをその家に借り受けて祈願せしかど、これはしるしなくて死(うせ)たりしを、その札守り返さんとするに、失せてあらざりしとぞ。



(孕石天神社に貼られた赤ん坊の写真)

第68話(第67話は明日)
○佐野郡孕石村、孕石天神社は一つ岩の孕石ありて、その上に社あり。その岩、所謂(いわゆる)子産石にて、小石あまた産れ出るなり。それを神にこい申して、拾いて安産の守護とせり。また妊娠せざる女、祈願するにも、その石を神に乞い受け帰りて常に信ずるなり。かくて懐妊して安産の後、他の石を副えて返し納むるを礼代(いやじろ)とはするなり。その村にては、古えより産に臨みて死せし事なしと、その村の老人の物語なり。
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