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小夜中山夜啼碑12 半七とお花の縁組

(忠孝の志を感じて、半右衛門娘お花を半七に娶合わせ、家を譲らんことを示す)

小夜中山夜啼碑の解読を続ける。

この時、半右衛門が娘のお花は、十四才の春をむかえ、容色ます/\うるはしく、万事内端(うちば)の育ちゆえ、半七とは一対のよき女夫(めおと)ぞと、両親の心に許す。

恋情も、色におぼれぬ半七より、お花はなおさら二親の、居まさぬ折りは己を慎み、かりにも淫(みだり)のふるまいなく、半右衛門夫婦は、おり/\二人がさまを窺えども、一点ばかりも異なることなかりしかば、親はずかしく思いつゝ、ある時お花と半七を、夫婦がほとり近くまねき、半右衛門言いけるは、我日頃より汝等二人を、女夫にせんと口には出さねど、心にかねて許したれば、両人ながら年頃なれば、若し訳あらば幸いなりと、密かに様子を窺うに、お花は親を思うをもて、操まったき女子の鑑、我子ながらもいと頼もし。また半七は主人を貴とみ万端つかえ、私なく色欲の念顕われざるは、これぞ忠義の手本というべし。

その行いを感ずる余り、二人の者へとらす物あり。お花にはこれをやるとて、押入よりとり出したる晴れ小袖、孝という字の裾模様、雪の縫わせたるは、これ祝言の支度とは、言わねど顔に顕われたり。
※ 笋(たかんな)- 筍(たけのこ)。

さて半七は、順礼のときに持ちたる古菅笠、とり出しつゝその裏に、半右衛門、筆をそめ、

  上みれば 及ばぬことの 多かりき 笠着てくらせ 己が心に

かくは一首の歌を記し、これ半七へ遣わすなり。これを互いのかためとして、今宵改めて両人を祝言させ、この身代をゆずる間、お花も孝を身に着なし、半七はまた昔を忘れず、心のうちに笠をきて、上を見まじを常とせよと、親と主との恩愛教諭、お花の喜び半七も、かたじけなさは身に余れど、願望(のぞみ)ある身をいかゞはせん。

さりとて大事は漏らされず、何と返答せんものと、たゆたいしが心にうなづき、暫しありて言いける様、僕(やつがれ)こと五年已来(このかた)扶助し給うだに、身に余るをもったいなや、主人の息女を僕風情に女合(めあわ)せんとの御言葉、かたじけなくも有難けれど、請け給われば御惣領、判兵衛さまを、先き達て御勘当なされし由、今は定めし御心も直り給いしは必定なり。

その若旦那をさし置き給いて、種性(すじょう)も知れぬお召し仕いの我等に、家督を譲らんと思し召すは、憚りながら御心たがえに候わん。僕もまた御家に仕え、主人の嫡子を余外にして、主家を奪いしなんぞありては、世の口の葉も後ろめたし。願うは御惣領の行方を求め、御家相続させましと。僕はいつまでも召しつかわれて然るべしと、道理を尽して言いけるにぞ。
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