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松木新左衛門始末聞書21 遊女を買う、薬礼に土蔵を建つ

(畑のブルーベリーの紅葉)

松木新左衛門始末聞書の解読を続ける。女郎買いの話しで、具体的な名前は記されていないが、駿府で遊郭というと二丁町と呼ばれていた。元々、駿府には96ヶ町あり、その内7ヶ町に遊郭があった。しかし江戸が開けると、その内5ヶ町の遊郭が江戸へ移り、駿府には2ヶ町が残った。それが二丁町の由来である。新左衛門もその二丁町に出入りしていたのであろう。ちなみに二丁町は先の大戦の、靜岡大空襲で焼失するまで残っていた。

     遊女を買う事
一 女郎買いに誘(いざな)えば行き、誘えざれば他をば誘う事なし。その訳は、咄しに傾城を買い遊ぶは、面白き事、至極なれども、帰りたき時に、そのまま帰さばよき物なり。別れは少しあわれの気味あり。快からざる所も有り。因って多分は遁れずと云いしよし。
※ 傾城(けいせい)- 遊女の別称。近世では特に太夫・天神など上級の遊女をさす。

これは美男にして大勇なり。色取面にして温和なり。されば女郎が惚れて、饗(もて)過ぎ、名残りをおしみて、帰し兼ねる故なりと見えたり。

※ 大勇(だいゆう)- 真の勇気。大事にあたって出す勇気。
※ 色取(いろどり)- 物事に変化を与え、面白みや興趣を増すこと。


     薬礼に土蔵を建て謝する事
一 町内ただの栄庵と云う本道相医師あり。先祖は佐々木左京太夫という武士にて有りし由。天正年中、徒士立て、打物を荷わせ、当町内乗り込み、暫く浪人を立て居る処に、後医師と成りて、家名を改めしよし。これは新左衛門、遠き親類にて、勿論別退にして新しくしたるよし。
※ 徒士(かち)- 江戸時代の武士の一身分。騎乗を許されない徒歩の軽格の武士をいう。
※ 打物(うちもの)- 刀剣・薙刀(なぎなた)などの、打ち合って戦うための武器。


然るに新斎、自然に少々不快に有りしに、少しむずかしく病い付いて、則ち栄庵療治して、本復したり。その謝礼として、御用の残木を以って、三間に五間の土蔵を一ヶ所、新たに立て、薬礼として、惣桧にして大坂瓦、壁は内外漆喰の一寸塗りなり。五十年程経て、家内を親類へ引き取る時、この土蔵は売り払う。買い取りしもの大利を得しなり。木道具は一つも朽腐なし。瓦は壱枚も砕けず。五十年程のうち、庇両処は修理に及びしが、蔵は少しも手を付けずとなり。
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