くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「詩のこころを読む」茨木のり子

2013-05-11 21:56:35 | 詩歌
 「わたしが一番きれいだったとき」を読み直すという課題に興味をもって考えてみました。
 今までは何度か音読させてから、カタカナ語や表記に着目することを中心に学習してきたのですが、もう少ししっかり読み込むことが必要なのではないかと。
 どこの学校図書館にも必ずあるであろう茨木のり子「詩のこころを読む」(岩波ジュニア新書)を読んでみました。
 「第二次世界大戦時における日本とは何だったのか、なぜ戦争をしたのか、その理由が本を読んでも記録をみても私にはよくわかりません。頭でもわからないし、まして胸にストンと落ちる納得のしかたができませんでした。(中略)全体は実に錯綜しています。そんなわけのわからないもののために、私の青春時代を空費させられてしまったこと、いい青年たちがたくさん死んでしまったこと、腹が立つばかりです」
 金子光晴の「寂しさの歌」という詩を紹介する文章にある部分なんですが、茨木さんにとっての戦争を理解する上では手がかりになるように思います。
 茨木さんは、この本で取り上げる作品は非常に高価であるといいます。谷川俊太郎、黒田三郎、石垣りん、川崎洋……。
 読んでいるうちに安西均の「新しい刃」という詩が登場しました。あっ、これ、読んだことがある! と思ってさらに読むと、この解説にも覚えがあるんです。そうそう、かつて模擬試験の問題として解いたことがありました。小鳥のさえずりが効いているんですよね。
 川崎洋の「海で」がおもしろい。高橋睦郎の「鳩」とか会田綱雄の「伝説」なんてこころのひだに刻み込まれていく感じがします。
 で、わたしが非常に気になるのは岸田衿子です。
 この本を読む前に斎藤美奈子の「名作うしろ読み」で「アランブラ宮の壁の」を読んで、とてもこころ引かれたのですが、そのほかの詩もいい。詩集を読みたいと思いました。
 わたしも好きな詩を書き写したことがありました。田中冬二や三好達治が好みです。また個人的なアンソロジーを作ってみようかな。

「ツナグ」辻村深月

2013-05-08 04:39:36 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 卒業する間際におすすめの本を教えてもらったのですが、これはRちゃんとKちゃんからのご紹介。辻村深月「ツナグ」(新潮社)。映画化されましたよね。主演の松坂くんは、主人公渋谷歩美よりも年上のような気はしますが、彼のイメージで読んでしまいました。
 死者との再会を望む人に、一生に一度だけ会うことができる。相手にとっても一度きりなので、次のチャンスのために会ってもらえないことも考えられる。それでも、会いたいのならば、「使者」(ツナグ)がコンタクトをとってくれる。
 これは、祖母からその役目を引き継ぐことになった少年の物語です。
 両親の無理心中によって、祖母や叔父たちと暮らすことになった歩美。バスケット部に所属する高校二年生です。
 五編の短編からなる連作ですが、先の四編は死者との再会を願う人の一夜を描いています。急死した元アイドル、二年前に亡くなった母親、事故にあった親友、七年前に消息を断った婚約者。彼らはか細いつてを頼って、ツナグとめぐりあいます。なにがしかの縁や強い動機があるならば、なんとかその連絡は通じるようになっているようです。
 わたし、お母さんとの再会を願う中年男性の「長男の心得」に、泣かされてしまいました。なぜ、母は夫に会いに行ったのか。父親に厳しくされた彼にとっては、頷けないものがあります。この人がものすごいコンプレックスの塊で、弟の方が可愛がられていたんではないかとずっと疑っている。自分の息子の不出来な様子を見ると、弟の優秀な子どもたちが鼻について、いろいろ嫌みを言ってしまいます。
 歩美もこの人のことを好きになれません。でも、ふと心がふれあうときがある。
 ラストが、とてもよかった。形見の万年筆を譲るというエピソードも効いています。
「世の中が不公平だなんて当たり前だよ。みんなに平等に不公平。フェアなんて誰にとっても存在しない」
 水城サヲリの言葉が胸を打ちます。
 相談者はどちらかといえばコンプレックスのある人たち。彼らはなぜ死者に会いたいのか。
 冥婚譚のイメージをもっていたんですが、様々でした。なんとなく辻村さんってエキセントリックな感じもしていたんですけど、非常に計算されている。十五万するコートの小道具、すごいです。御園の衝撃と一瞬のうちの決着のつけかたも。彼女は「親友」として再会するつもりだったものを、ある一言によって撤回します。そのことを知った嵐は打ちのめされるのですが、読み手が気にかかる彼女のその後を、同級生としての歩美に語らせる。
 ヒロインとしての圧倒的な存在感を見せつけながら、オーディションで役を得た御園の実力をも感じさせる。いいですね。
 著者紹介によれば、辻村さんは二月二十九日生まれなんだそうですよ。


 

「ひよっこ料理人」魚戸おさむ

2013-05-07 05:08:32 | コミック
 食べ物をどう食べるのか。「ひよっこ料理人」の4巻を読んで、しっかり噛んで食べなければならないとしみじみ感じました。
 わたしはどうしても早食いで、特に給食なんて素早く食べて次の活動の準備をする必要がありますからさっさと食べてしまう。もの足りなくてつい余計に食べるのもよくないですよね。この二十年で二十キロ近く太ってしまった(実際に文字にすると愕然とします!)ので、ここは心を入れ替えて少し控えなくてはと思ってはいるんですが……。
 とりあえず連休、かみかみメニューを試すべく、本に載っていた「油揚げとエリンギの味噌焼き」を作ってみました。油揚げを開いて、さいたエリンギ、みじん切りしたネギを混ぜた味噌を塗って網焼きにするんです。わたしはロースターで焼くんですが、すぐ焦げるんですよね。わたしは好みでしたが、家族の評判は今ひとつ。あとはタラを焼いて、おひたしと麻婆茄子、じゃがいものみそ汁です。みそ汁は息子作成。
 五年生になって家庭科を習い始めた息子、みそ汁づくりにはまっております。一緒にカレーや水餃子も作ってみました。普段残すものも、自分で作ると割と食べます。
 あとは大根ときゅうりの昆布和えも作ったんですが、まだ食べていません。 
 「ひよっこ料理人」の本編に話を戻しますと、今回はお母さんの思い出もじっくり描かれていました。命のバトンという言葉がありますが、食や味をつなげていくのも親から子へのバトンなんだろうと感じます。うちは味噌を家で作っているのですが、果たしてわたしに引き継げるのか……。夫は作れるようですが、味わいは少し違うような。
 それから、妃代子のお母さんの実家での食事シーンに「ひょう」が出てきてどきっとしました。そうそう、山形では食べますよね。
 脚注に「田んぼのあぜ道や道路脇に生えている雑草」とありますが、これはスベリヒユです。この夏、学校の花壇でものすごい生長をみせており、わたしがたまりかねて抜いていたら、
「野菜の収穫みたいですね」と言われたんです。
 その後、山形に泊まりに行ったら朝食に兵糧食として出ている。帰りに寄った道の駅では直産品として野菜とともに売られている! 非常に驚きました。
 妃代子の人間的な成長が、ほんわりと感じられて今回もおもしろく読みました。 

「謎解きはディナーのあとで3」東川篤哉

2013-05-06 05:10:07 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 焦るじゃないですか、目次ラストに「さよならはディナーのあとで」なんて。
 シリーズ最終巻なんでしょうね。東川篤哉「謎解きはディナーのあとで」(小学館)。結局風祭警部の名前はわからないままでした。命の恩人になった彼のジャガーを運転する麗子で終わった前巻からすごく気になっていたのですが。
 相変わらず毒舌の影山ですが、
「失礼ながら、お嬢様は無駄にディナーをお召し上がりになっていらっしゃいます」
 にやられました。意味わかります? 麗子はわからなくて説明を求めてしまいました。
「要するに、お嬢様は無駄飯食いであると、わたくし、そう申し上げてーー」
 すごい、へらっとこういうことを言えるのはよっぽどです。結局影山の過去も語られないままでしたね。 
 今回は、毒殺事件を皮切りに、川岸で見つかったのに溺死だったのは何故か、子ども用の椅子で死んでいた老婆の謎、装飾品をすべて盗まれていた女性の死体、撲殺犯は誰かといった事件を、影山が解決します。あっ、それはわたしも変だと思ってた! というようなことがさらさらっと語られる。例えば木戸静香の眼鏡のフレームについて。違っていると思ったのに、そこにヒントがあるとは考えませんでした。きっと影山からは「その目は節穴でございますか」と言われちゃいます……。
 怪盗からの挑戦状が届く回もありました。御神本探偵は何か別のシリーズにでも出てくるのでしょうか。
 今回は、毎月国立市では殺人事件があった、ということと、これで十八回も影山の推理に助けられたということも書かれていて、ちょっとメタフィクション的だと思います。
 東川さんはこのシリーズがいちばん読みやすかったので、終わってしまうのは残念ですね。なんて、裏をかいて4が出ないとも限りませんが。

「マンガホニャララ」ブルボン小林

2013-05-05 16:17:07 | 書評・ブックガイド
 ふと目についたんです。ハットリくんが寝転がってマンガを読んでいる。文春文庫新刊「マンガホニャララ」、筆者はブルボン小林です。かつて「活字倶楽部」を愛読していたので、もちろんブルボン小林が何者かはわかっております。ちらっと立ち読みして、すぐ買いました。
 マンガ書評です。複数の雑誌に連載したものをまとめたとのこと。
 いやー、おもしろく読みました。でも、どんなにすすめられても「打姫オバカミーコ」は読まないな。麻雀興味ないし。弟のヤンマガも、かたやままさゆきは飛ばしていました。
 でも、もうひとつのお勧め「The STAR」はすごい懐かしいよ! 長瀬優也!
 担当編集さんが泣いてしまったというラスト、すっかり忘れているけど、あれ? なんかヘリコプターかなんかで秋奈と再会するんだっけ?
 「ガラスの仮面」に関する考察、わたしも携帯電話には違和感を覚えましたよ。一巻と後半に物語の時代背景が崩れると思いました。ハミルさんもいつ登場するのかと。
 でも、全体的にマンガの好みは合っていないと思います。ほぼ同年代なので、読んでいる有名マンガは共通していますが、やはりわたしは少女まんが寄り。こうやって見ると、男子と同様には少年まんがを読んでいないですね。特にジャンプを読んでない。わたしはマガジン系列でした。(弟が買っていたので)
 ただ、好みのジャンルでなくとも、洞察を楽しみました。冒頭のマンガがニュースになる話。山岡と栗田の結婚は知らない人が多いけれど、海山と和解したことは報じられる。島耕作が社長になるのも記事になる。で、そこにキャプテン翼があねごと結婚と書いてあって、びびびっくり。(ジャンプ読んでなくとも、もちろんこれは読んでます)
 さすが翼くん役の声優さんと結婚しただけあるよ、高橋陽一。首尾一貫ですね!(違う?)
 「ドラえもん」が絵本を駆逐し、「こんとあき」はその影響下にあるとすら言ってますよ。まあ、確かにロングセラー絵本は出にくくなりましたが、「ドラえもん」のせいだというなら、それ以前の本だって売れなくなるのでは?
 さらっと読み返してみて、実は読んでみたいというマンガがないのも不思議です。「ミーコ」だけでなく、あんまりわたしの好みではなさそう。でも、主張も考察もおもしろいんですよ。特に、「金田一少年」の、世の中がみんな伏線に見えてくるという話題は傑作! 続編も読みたいと思います。

「夏のページ」みなみらんぼう

2013-05-04 04:51:29 | YA・児童書
 高校時代、国語のS先生はかつて「みなみらんぼう」を教えたことがあり、そのペンネームの名づけ親であるという話を聞きました。乱暴だったからとも、アルチュール・ランボーにちなんでとも。みなみらんぼうといえば、わたしが幼少のころに流行った「山口さんちのツトムくん」の作者です。
 かつて彼が自分の少年期を描いた作品を病院で読んで、とてもおもしろかったんです。
 今回は、学級文庫に置いてあった「夏のページ」(サンリオ)をぱらぱら読んだら結構夢中になってしまって、そのまま読み続けてしまいました。
 春原町の若草小学校に通う一平は、幼稚園からの仲良し太平洋(なんと、ヒロシとよむんです!)、兵馬とともに明神岳でキャンプをする計画をたてます。五年生のときの担任だった佐々先生がそこで命を失ったために三人で訪ねようということになったのです。
 その前にも太平洋にそそのかされて通知票を改竄したり(もちろんすぐばれる)、苺農園でつまみ食いをしたり、いろいろあったのですが。
 自転車で明神岳を目指すうちに、カラスをてなずけている少年と出会います。彼は山麓の村の分校に通っており、夜中に仲間を連れてキャンプを訪ねてくれる。怖い話をしたりくだらないことを言って盛り上がったりした一夜。
 しかし、明け方から雨が降り始め、テントまで流されそうになります。太平洋の知り合いのおばさんを頼って、それでも諦めきれずに彼らは山を目指すのです。
 山には化石を掘りにきて、奥さんと滞在している分校の町田先生がいて、亡くなった佐々先生は学生時代の先輩だったと話します。彼が探しているのは、バルキテリウムという大きな動物の化石なんですって。
 近づいてくる台風に先生たちも下山するつもりでしたが、どうしても佐々先生の亡くなった場所に行きたい三人を待っていてくれることになります。
 しかし、雨の中を走り出した車は、土砂崩れで進めなくなります。引き返したものの、プレハブ小屋は危ない。大きな洞窟に逃げ込んで、先生が単独徒歩で救助を呼びに出発したところ、奥さんが産気づいて……。
 いや、臨月の奥さんを連れて山に滞在なんてしないでしょうー! というわたしの心の声もあったんですが。あとがきによると、書くかどうするか悩んだけれどテレビの仕事で訪れた先で牛の出産を見て決意を新たにしたんだそうです。
 明神岳は「赤駒連邦」のひとつなんだそうですから、生まれ育った地域をイメージしているんでしょうね。でも、らんぼうさんのお家から栗駒山は遠いと思う。六年生が自転車でいくのは大変だと思うけど、当時ならそうでもないんでしょうか。
 兵馬はクールで格好いいけど、太平洋はときどき腹が立ちます。
 イラストは黒井健さん。
 今奥付見たら、88年発行です。でも、蔵書印によると97年に図書室に入れたらしい。何故なんでしょう。
 

「幸福な生活」百田尚樹

2013-05-03 05:58:05 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 百田さん、本屋大賞おめでとうございます。わたし、読みたい作品があるんですが、図書館の順番がさっぱり回ってきません。
 この本は、短編集です。「幸福な生活」(祥伝社)。帯によると、「最後の一行が、こんなに衝撃的な小説はあったろうか」。
 最後の一行、全部めくった次ページの最初になるように作ってあるんです。この構成はうまい。正直を言えば、表題作も冒頭の「母の記憶」も途中で展開は見えるんですよ。でも、なるほどと思える。
 わたしにとってのベストは、「ママの魅力」です! ネタバレしてもいいですか? ラスト一行はこう。
「伝説の怪物プロレスラーが、こんなところに!」
 これで、以前のこの台詞が効いてきます。「ママは昔、旅行が趣味だったんだよ」
 巡業していたってこと? 格好いいぜ、ドラゴン中山!  ママの運動神経、抜群だねっ!
 あとは、善良な男が痴漢のぬれぎぬを着せられ、最初の「対応の悪さを悔やんだ」という「痴漢」、タクシー運転手が幽霊みたいな女を乗せてしまう「深夜の乗客」も好みです。スタンダードな展開にひとひねり、という感じ。
 小泉八雲の「雪女」を下敷きにした「償い」もいい。主人公は小泉巳吉雄(みきお)、妻は雪江というんです。十六年前に亡くなった母の事故について思い出しかけている巳吉雄に、雪江は薬をくれますが……。
 全体的には男女関係の秘密がテーマの物語が多いです。「ブス談義」とか「ビデオレター」とか。やっと理想の夫に巡り会えたと思った女が、友人の夫のある一言で真実を知る「残りもの」、編集の仕事でなかなか帰ってこない夫の姿を見かける「そっくりさん」、引きこもりがちの妻なのにマンションでは子どもからも恐れられている「おとなしい妻」などなど、おもしろく読みました。
 このあと彼らの生活はどうなるんでしょう。特に「夜の訪問者」のご家庭は気になります。「見たな」
 赤い字ですよ。怖いなぁ……。

「もっと生きたい!」池田まき子

2013-05-02 04:41:32 | エッセイ・ルポルタージュ
 道徳の定番教材に、「ドナーカード」に関するものがあります。去年、同僚が研究授業をするときに、実物を提示したいという話になって、運転免許センターとか駅とかコンビニとか見て回ったんですが見つかりませんでした。免許証に意志提示の欄がついているんですよね。パンフレットとかシール式の提示票は保存していたんですが……。病院には行かなかったけど、おいてあるのかしら。
 そのときにふと思ったんです。臓器移植に関する本って、中学生対象にないものなんだろうか。
 「ASAKO」という本は前任校にありました。でも、臓器移植に関する法も変わり、自分と同じ年頃の子も国内で移植を受けられるようになった。裏を返せば、自分も臓器を提供する側になる可能性があるのです。
 この本に登場する女の子は、心臓の移植のためにドイツに渡ることになります。滞在にも検査にもお金がかかる。人工心臓の設備や付き添いの問題など様々な懸案が出てきます。同級生や保護者が中心となって募金活動を進め、目標を達成します。
 口絵には人工補助心臓も写真に写っていますが、なんだか小型の洗濯機みたいとでも言いましょうか。わたしも息子が幼いときに入院したので付き添いましたが、点滴スタンドだって結構扱いにくかった。こんな大きい機材を、常に引っ張って歩くことになるのですよね……。
 もう一人の女の子は、生体間移植でお母さんから腎臓を片方もらいました。生まれつき腎臓が一つしかなかったのに、腫瘍ができて摘出することになったのです。お母さんが自分は血液型が違うからドナーになれないと悩む場面が切なかった。実は違っていても移植は可能なんですが。
 友人が悪性リンパ腫の寛解を目指して移植に踏み切ったとき、彼女から提供してくださる方と同じ血液型に変わるのだと教えられたことを思い出しました。
 解説として、四十年以上前に行われた、日本初の心臓移植についてふれてありました。「和田移植」というのだそうです。海水浴で溺死した大学生の心臓を、心臓弁膜症の青年に移植したものの、拒絶反応の研究は確立しておらず、八十日余りで亡くなった。マスコミが手術の成功を大きく取り上げながら、患者か死亡すると不信感を煽りたてた、とのこと。
 臓器移植のテーマを授業で扱うときには、ドナーカードを持とうと思うなどの安易な感想にならないように、自分の問題として捉え続けるように配慮したいとのことですが、同年代の女の子たちが苦しみを乗り越えられた事実を読むのも必要なのではないかと思いました。
 「もっと生きたい! 臓器移植でよみがえった命」(岩崎書店)、同じようなテーマの本を、もう少し読んでみたいと感じています。

「林業少年」堀米薫

2013-05-01 04:32:34 | YA・児童書
 連休中、子どもを連れて花山少年自然の家でオリエンテーリングをしてきました。わたしが道を間違え、目的地近辺まで来ていながら違うコースに入ってしまいまして。一日に歩いたのは一万三千歩。でも、弱音を吐きつつも二人とも元気です。木の根がごろごろしている急斜面をどうしてもついていけないわたし。標高五百メートルの山なんですが、アップダウンがきつくてきつくて。
 その迷った道の途中で、伐採したばかりの杉を見たのです。あれ、切り株ってまっすぐじゃないんだな、中央になんだかいびつな感じの切り口が残っている。
 そう感じた日の夜、筋肉痛に悩みながら読んだ「林業少年」(新日本出版社)に、そのことが描かれていました。
「切り株の表面は段々になっていて、境がぎざぎざに毛羽立っている」
 きこりのおじさんが教えてくれます。
「この低い方が受け口で、高い方が追い口だ。ぼさぼさになっている境がツルだ。木が倒れるときにすごい音がするべ? あれはツルがちぎれて折れる音なんだわ」
 ツルは、木が見当違いの方角に倒れないように残しておく間隔のことだそうです。木を倒す方向と逆側に切れ目を入れるのですが、ぎりぎりまでつなぎとめておくためにツルを入れておく。
 ある建設会社社長が買い取った「百年杉」を切る場面が描かれていますが、姉の楓と木の両側から手を回してみた小学生の喜樹が木肌から生命の息吹を感じるところがよかった。この切り株からは、木を丹精してきた先人たちの仕事が伺えるとおじいさんは言います。
 林業。木の値段よりも、切り出した木材を下ろす方にお金がかかったり、下草を刈るなどの仕事が割に合わなかったり、大変な仕事です。百年杉はもう最後の一本で、あとは戦前に植えた杉が育つのを待つとおじいさんは言います。それだって七十年くらい経っているはずですよね。
 わたしの実家の裏手にも、杉の林があります。いちばん目立つ木は何年生きているんでしょう。
 主人公は喜樹ですが、背後に見える楓の生き方がわたしは好きです。自分の夢を見つけて、山に生きる決意をする。幼い頃、おばあさんと「いっぷく」を持って行ったときに「仕込まれた」ものがあるのかもしれません。
 作者の堀米薫さんは、県南の角田で農林業をされている方とか。この本は、例によってスカイエマさんが挿し絵を描いているところから手に取ったんですが、すごくよかった。
 檜の五十年後、見たいですよね。