くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ナターシャ チェルノブイリの歌姫」手島悠介

2013-05-13 05:34:12 | エッセイ・ルポルタージュ
 図書館児童書のルポルタージュ棚にて発見。ナターシャ・グジーとチェルノブイリ原発事故とを子どもにも分かるようにまとめた本です。筆者は「かぎばあさん」(懐かしい!)の手島悠介。「ナターシャ チェルノブイリの歌姫」(岩崎書店)です。
 発行をみると2001年ですから、もう十年以上経ったのですね。チェルノブイリは遠いと感じている人たちに、ナターシャさんという人物を中心に据えて、あのとき何が起こったのか、人々はどうなったのかを描いています。
 ある消防士は、全身焼けただれて面会謝絶。髪の毛は抜け、足は腫れ上がって。関係者の目を盗んで通い続けた妻は、夫の死後に赤ちゃんを産みますが、先天性の心臓欠陥があり亡くなったそうです。ある看護婦が、横たわった夫のことを「放射性物体」になったのだと言います。
「人間は400レントゲンで死んでしまうんだから/あなた、゛原子炉゛の世話をして、自殺するつもりなの!」
 むごい言葉ですよね……。胎内被爆の可能性を知られたらこれ以上夫には会えなくなると感じ、妊娠を隠して通い続けた彼女のエピソードだけでなく、隠されてさらに甚大な影響が出たことや、事故処理の責任者だった博士の自殺も描かれていました。
 ナターシャさんの避難や幼少時のことはCDブックにもあったのですが、なぜ日本で歌手活動をすることになったのかよくわかっていなかったので、いろいろ納得いたしました。被災した子どものために作られた音楽団に入ったのがきっかけなんですね。
 現在のナターシャさんは、日本の男性とご結婚されて、今なお音楽活動をされている。この本は、実際にナターシャさんの音楽にふれたことのある人にはさらに胸に迫ると思うのです。
 そして、「今」の視点で読むと、チェルノブイリはもはや対岸の出来事ではないことがひしひしと感じられます。「フクシマ」を経て、わたしたちは外部被爆にも内部被爆にも、無関係とは言えなくなりました。安全なのか、どうか。安全だと信じて、生きていくしかないのですが。
 原発事故に関わる基礎的な事項や用語解説もあります。ニュースで耳にすることも多くなりました。セシウム、ストロンチウム、プルトニウム、有効半減期、放射線障害。被爆量がさらに下がって25レム以下になると普通の検査では異常は見つからないと書いてあります。でも、突然変異の発生などの遺伝性障害やガンの発生などの晩発性障害があるのだそう。自分自身はともかく、子どもたちの未来を考えると寒気がします。
 原発、わたしは反対です。広島原爆投下のあと、熱狂的に報道されたことに関して、カミュが二十万人もの市民を殺戮した原子力の発見を喜ぶのは「人間として、つつしみにかけるのではないか」と語ったという記載が、印象的でした。