くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「もっと生きたい!」池田まき子

2013-05-02 04:41:32 | エッセイ・ルポルタージュ
 道徳の定番教材に、「ドナーカード」に関するものがあります。去年、同僚が研究授業をするときに、実物を提示したいという話になって、運転免許センターとか駅とかコンビニとか見て回ったんですが見つかりませんでした。免許証に意志提示の欄がついているんですよね。パンフレットとかシール式の提示票は保存していたんですが……。病院には行かなかったけど、おいてあるのかしら。
 そのときにふと思ったんです。臓器移植に関する本って、中学生対象にないものなんだろうか。
 「ASAKO」という本は前任校にありました。でも、臓器移植に関する法も変わり、自分と同じ年頃の子も国内で移植を受けられるようになった。裏を返せば、自分も臓器を提供する側になる可能性があるのです。
 この本に登場する女の子は、心臓の移植のためにドイツに渡ることになります。滞在にも検査にもお金がかかる。人工心臓の設備や付き添いの問題など様々な懸案が出てきます。同級生や保護者が中心となって募金活動を進め、目標を達成します。
 口絵には人工補助心臓も写真に写っていますが、なんだか小型の洗濯機みたいとでも言いましょうか。わたしも息子が幼いときに入院したので付き添いましたが、点滴スタンドだって結構扱いにくかった。こんな大きい機材を、常に引っ張って歩くことになるのですよね……。
 もう一人の女の子は、生体間移植でお母さんから腎臓を片方もらいました。生まれつき腎臓が一つしかなかったのに、腫瘍ができて摘出することになったのです。お母さんが自分は血液型が違うからドナーになれないと悩む場面が切なかった。実は違っていても移植は可能なんですが。
 友人が悪性リンパ腫の寛解を目指して移植に踏み切ったとき、彼女から提供してくださる方と同じ血液型に変わるのだと教えられたことを思い出しました。
 解説として、四十年以上前に行われた、日本初の心臓移植についてふれてありました。「和田移植」というのだそうです。海水浴で溺死した大学生の心臓を、心臓弁膜症の青年に移植したものの、拒絶反応の研究は確立しておらず、八十日余りで亡くなった。マスコミが手術の成功を大きく取り上げながら、患者か死亡すると不信感を煽りたてた、とのこと。
 臓器移植のテーマを授業で扱うときには、ドナーカードを持とうと思うなどの安易な感想にならないように、自分の問題として捉え続けるように配慮したいとのことですが、同年代の女の子たちが苦しみを乗り越えられた事実を読むのも必要なのではないかと思いました。
 「もっと生きたい! 臓器移植でよみがえった命」(岩崎書店)、同じようなテーマの本を、もう少し読んでみたいと感じています。