くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ドロップ」品川ヒロシ

2009-10-16 05:03:48 | 文芸・エンターテイメント
これなんですー。ブックトークで紹介されて、絶対わたしの守備範囲ではないのに、読んでみようかと余計な考えを抱かせた本。品川ヒロシ「ドロップ」(LITTLEMORE)。
でも読めば読むほどいらいらする。なんだこの視点のいい加減さ! ヒロシ視点ならぶれないように書け! ふと話が横にそれるのは「小説」としてどうなの?
そうですね、品川ヒロシの語りで、彼の空想を聞いている感じでしょうか。長めのコントや漫談が近い。もっと正直にいえば、漫画の世界を再現している。しかも出来が悪いし。もう二十年は前に流行った不良漫画をシャッフルしてできた感じですね。そういう漫画が嫌いだった(でも当時は読めればなんでも読んでましたが)わたしには、かなり辛い読書でした。
どこでやめてもどこから読んでも、ストーリーに影響ないのです。仲間うちで集まってダラダラして喧嘩して負ければ仕返しして勝つまでやる。それだけなの? これからもっと何かストーリーが現れるわけじゃないの? そう期待しながら読んだのですが……。

だいたいにおいてこの話の重要なファクターであり、ジャニーズ系好青年顔のはずの達也、表紙のイラストではどれだかわかんないよ。(五人ともどれが誰なのかわかりにくい。あ、ルパンだけはわかるかも)もしかして、前列にいる赤い服着た猿みたいな男? 違うだろー高橋ヒロシ!
と駄目出ししたくなりました。不良漫画好きにはそれでいいのかもしれないけど、わたしには許せん。だって、達也の魅力は喧嘩が強いことじゃないでしょ外見とのギャップでしょ。
ま、まあいいや。気を取り直して続きを読んでみます。

読んでいたら、赤いタートルネックを着た赤城という男が現れました。えっ、てーことは、表紙のこの男は赤城なわけ? ますます達也と思われるキャラがいないじゃん! 五人は誰なんだ! うーん、高橋ヒロシはこの文章を読まずに表紙を描いたのでしょうか。
でも、赤城の造形は成功していると思います。礼儀正しい不良。族の集会に出ても仕事はきちんとする。
それに対してヒロシは半端ですね。高校は二週間、仕事は一ヶ月しか続かない。心配してくれた姉の彼氏・ヒデくんに謝るきっかけがみつからないまま彼を喪うことになる。こんな甘ったれの弟に対して、ヒロシの姉ちゃんは優しいと思います。
この町を出なければ、自分に甘えることになるだろうからという、ヒロシの決意はやっぱり甘いとわたしは思うのですが。
これまで困難にあうたびに、ヒロシはリセットしてきました。それは本人も自覚している。大体、私立中学から転校してきたのも、そう。
しかし、親元を離れて頼りになる人もいないまま出ていって、16歳の少年に何ができるというのでしょうか。そこでもすぐ挫折してリセットするの? かっこ悪~。
小説というのは、始めと終わりで主人公に変容(例えば成長)が見られるものだと思うのです。ヒロシにはそれがない。一番呆れたのは、おどしをして捕まったとき、兄の友人であることが発覚して取下げてもらえたとき。これ、描写じゃないですよ。小説は「説明」ではいけないのです。
また、盗みに対する罪悪感が希薄なのもどうかと思う。まっとうな価値観の持ち主だったら、嫌気がさすと思うんだけど。
人間、「笑い」に対しては無防備です。何をおもしろいと思うかは、その人をはかるバロメータになりうるとわたしは思うのです。
とりあえず、このダ作に、青春文学の「金字塔」などというあおりをつけた幻冬舎文庫には謹んで哀悼の意を捧げさせていただきたいと存じます。