くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「神去なあなあ日常」三浦しをん

2009-10-02 05:32:32 | 文芸・エンターテイメント
「俺詩集」! 初任の頃、課題を集めたらある男子のノートに書いてあったキョーレツな詩を思い出しました。「俺とお前は友達じゃない 俺とお前は兄弟なんだ 死ぬまで」って……やだなーまだ覚えてるよー。この調子で十作くらい延々て書いてある訳です。まあ、それはおいといて。
主人公・平野勇気は横浜生まれ。フリーターにでもなろうかというところだったのですが、担任教師によって林業の研修生として三重県の山奥に送られます。
そこで知り合った林業に生きる男たちと村での生活を描いた物語。三浦しをん「神去なあなあ日常」(徳間書店)。
本屋で見かけたとき、珍妙なタイトルだなーと思ったのですが、「神去」は勇気がやってきた村の名前、「なあなあ」は神去の方言で「のんびり」「落ち着いて」という意味の言葉、ということがまず語られます。「日常」は、彼にとってはブログのようなものなので、ネットふうの用語を使ったのではないかと思います。
居候しているヨキ(飯田与喜)の家でみつけたパソコンで、勇気は神去村に来てからの生活を書き綴ろうと考えます。誰に見せるつもりもなく、ただ読者という存在を意識しながら書いていくことにしたようです。つまり、「俺詩集」ときわめて似ている作品ですね。
でも、同じものを書いたとは思えないほど客観的(そりゃそーだ)です。
わたしは「おやかたさま」の清一さんと、林業のベテラン巌さんがすてきだと思いました。
木を植えたり伐採したりすることによって森は守られる。日本の国土の七割は森林なのに、それを守る人が減っている、という話を以前聞きました。
後継者問題は、これほど林業を大切にしている神去でも深刻です。なにしろ、子供がいません。若い人もいません。だから、勇気が直紀に恋することにみんな興味津々です。
直紀。小学校の女性教師です。いつものわたしなら、わざわざ「女性」なんて入れません。でも、この名前を聞いたとき、何か裏があるのでは……と勘繰ってしまったので一応書いてみました。だって普通、姉に「祐子」、妹に「直紀」とはつけないでしょ。
でも、やっぱり考えすぎかも知れないけど、直紀は「植林」に関わる名前なのでは。直と木(紀と同音)に木を加えられる。
そう思うのも、ヨキ(斧)とみき(幹)夫妻と繁ばあちゃんの名前のせいかも。
「恋」もからめてはありますが、この物語はやはり「林業小説」として読んでいただきたいです。でもって、「強い風」以来しをん嬢の小説を久しぶりに読んだわたしとしては、この人の「取材に基づく」「チーム」の話がおもしろいな、と思うのでありました。 ところで、「なあなあ」はしをん嬢の造語らしいですよ。すごい。