くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「私の命はあなたの命より軽い」近藤史恵

2015-01-26 05:27:41 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 「私の命はあなたの命より軽い」(講談社)。
 軽い、というのは背後に重さを抱いていると思います。
 怖かった……。近藤さんらしい秘密を隠した緊張感のある物語です。

 出産を控えた遼子は、夫の克哉から海外赴任の話を聞かされます。半年ほどの予定ですが、子どもが生まれるときには日本にはいない。
 一人でその日を迎えることに不満を伝えると、大阪の家族のもとに戻って出産したらよいのではないかと言われる。連絡するとどうも母の歯切れが悪い。
 確かに遼子も、新築した大阪の家に好ましさを感じてはいません。
 帰ってからもなんとなくぎすぎすしたものが家族の間にあることを感じるようになります。
 特に妹の美和。高校生の彼女は、両親から愛され、素直で優しかったのに、不穏な雰囲気を見せることが気になります。
 家族が隠している秘密。自殺したという美和の親友。家について囁かれる噂。遼子を無視する旧友。

 そして、遼子は真実を知ることになります。美和は、中学生で妊娠し、堕胎していたのです。
 「命」について、遼子は思いまどいます。自分のお腹にいる子どもと、何が違うのか。
 両親は、自慢の娘だった美和を、育て方を間違えたと語ります。
 憤慨する遼子。なんとか美和を救いたいと思いうのですが、それでもまだ隠された事実が……。

 この小説、非常にセンシティブですよね。
「私の命」というのは、文脈からみて「私=美和」だと考えられます。
 同じように妊娠しながらも、姉は周囲から祝福を受け、自分は恋人を失います。さらに、信じていた両親や親友も。
 幼さゆえではありますが、彼女が抱える理不尽さが怒りに変わっていく。
 また、親友のみのりにしても、同級生の平原(弟)にしても、思考が幼いですね。
 「まだ希望も未来も具体的に思い描けない。小さな幸福の数々も知らない。だから簡単に絶望してしまうのだ」
 という考察がありました。自分の壁を乗り越えられない。彼ら自身にとっては過酷な状況ですが、周囲はさらにその被害を受けてしまうように思います。

 エンディングはさらに衝撃的な状況が知らされます。救いのあとにこれですか近藤さん! 
 克哉のことがなかなか語られないな、遼子にとって彼はもう視界の外なのかしら、と思ったときだったので非常にショッキングでした。
 瀬戸際のときに、ただひとり自分を信じ、助けてくれた姉。そんな彼女に裏切りともいえる行動をするのは普通ならば考えられないことです。
 「私の命はあなたの命より軽い」、その思いが美和から消えないのかもしれません。
 でも、わたしは思うんです。やっぱり、両親は育て方を間違えたのだ、と。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿