くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「煙とサクランボ」松尾由美

2013-02-13 04:12:27 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 最後まできっちりと計算された小説です。松尾由美「煙とサクランボ」(光文社)。
 世の中には成仏できないために、幽霊として暮らす人がいるんだそうです。彼が死んだことを知っている人には、その姿が見えない。でも、幽霊と知らずに付き合っていく人もいる。ただし、何年経っても年をとらないので、不信感を抱かれないとも限らない。
 とあるバーの常連客炭津さんは、交通事故で亡くなって十四年。その間に雑誌社の張り込みの手伝いをしていて知り合った柳井の好意で料金はなし。(もっとも飲食はできません。幽霊だから)
 最近は火曜日にやってくる若い女性晴奈と話し込むことが多いようです。
 ある日、柳井から炭津さんは名探偵だから、謎があるなら話してみてはどうかと言われ、彼女の家で長年謎といわれてきたことを語ります。
 幼少時に火事になった家から、風に飛ばされてきた一枚の写真。そこには見知らぬ女性の姿が。
 どうして火事は起こったのか。この女性は誰なのか。保険会社に勤めていて頻繁に訪ねてきた西島という男。炭津に思いを寄せているような晴奈と、彼女に心を動かされた柳井。幽霊の先輩高田。彼の抱える悩み。
 幽霊を見分けることができるバーテンダー柳井がいい味出しています。炭津さんが幽霊と気づかれないように定期的にグラスを入れ替え、唯一口にできる煙草のためにライターを持ってきてくれる。一般的なライターは幽霊には操作しづらいんですって。
 まんが家としての晴奈が友人に「復讐」するのはどうか。それは、相手の作品を換骨奪胎して新しいものを作り出すことだ、という話や、セールスマンの佐藤和夫の話が、こうつながってくるのか! と驚きです。
 帯のあらすじを読んだときには、バーの客たちが炭津さんに謎を解いてもらうタイプの連作かと思っていました。いやいや、さすがは「スパイク」の松尾さん、気持ちよく騙されました。