くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「11」津原泰水

2013-02-28 21:30:45 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 大森望さんがおすすめしていた「11」(河出書房新社)を読みました。
 その対談で北上次郎さんが、「五色の舟」しかわからなかったと言ってましたが、わたしにはそれもわからなくて、途中で投げ出したくなりましたが……この、極彩色というか、絢爛の中に孤独が潜むような物語群を、読んでしまわなくては気がすまなくなり、図書館で再度貸し出しをしてもらって、読み切りました。
 かつて同人誌(小説)活動をしていたときに、「自分はシュールレアリズムの手法で小説を書いたのに、そのことすら分からないんですね」と言っていた人がいましたが、津原さん並みの実力ならばわからなくても揺さぶられます。わたしにとっては、未知の領分でした。これまでも津原さんの作品はいくつか読んでいるんですけど。割り切れないままラストを迎える話が多く、これはもっと考えればわかるのか、それとも読者の自由な解釈に委ねられているのか、困惑します。
 でも、やっと一つ、理解できる作品がありました。「クラーケン」です。こ、これを朝から読んでしまったんですが、でも、いや、これは、すごいです。説明すると陳腐になりそうなんですが。
 「クラーケン」というのは、ある女が飼っている犬です。グレート・デン。現在は四代目。どの犬もみんな、クラーケンという名前で呼ばれている。この犬がいちばん気が合う。犬を飼うことにしたいきさつから、死にいたるまでを、誰かが、じっとその様子を見ながら語っていくのです。
 一般的に「神の視点」といいますが、これは誰か特定の男性だとしか思えない。同じように、「魔の領分」として放り投げられたエンディングも、たった一つの結末しか示唆しないでしょう。糖蜜の伏線が、怪しいほど恐ろしい。
 表面上は、犬との暮らしと、かつて出会った少女について描いているのですが、かの女が求めたのは夫であり、紙切れ一枚ですらつながれないのであれば、死を救いにするしかないのだと伝わる。結末を二重に予想して、かなった方の人生を受け入れ生きてきた女には、死の直前のやりとりが陳腐だったのかもしれません。
 世俗的にみれば、ある女の猟期的な死であり、三面記事として処理されてしまうニュースなのでしょう。でも、内面に入り込んでみると、そうではない。
 クラーケンというのは、海の魔物のことだそうですね。夫がいない間、この女を支え続けたのが何者なのか、ぽっかりとあいたような穴が、底なしに横たわっているような、虚無を感じました。