ポポロ通信舎

(旧・ポポロの広場)姿勢は低く、理想は高く。真理は常に少数から・・

降りかかる不条理に抗す(11)

2020年10月14日 | 研究・書籍
人間中心から構造重視へ


昨年の台風19号上陸は各地に被害をもたらし暴れまわった。利根川も氾濫危険水位に達するおそれがあるとし緊急速報が発せられヒヤッとさせられた。あれから1年・・

宮城県の女川原発2号機の再稼働が決まる。自民党会派が多数を占める同県議会で承認された。隣接県の福島であれほどの制御不能の原発惨事があったにもかかわらず、あれから9年・・

私たち人間の存在を大きく超える災害や原発事故そして今、感染症の拡大。それらとのたたかいは「果てしなき敗北です」の青年医師リウーの言葉を思い起こす。

私たちは、この地球上で人間こそが主人公だなどと思いあがってはいないだろうか。
カミュの『ペスト』では、「天災は人間の尺度で測れない。人間は天災を非現実的なものだと見なし、まもなく過ぎ去る悪夢だと考える。だが、天災は相変わらず過ぎ去らないし悪夢から悪夢へと、人間の方が過ぎ去っていく」

『果てしなき不条理との闘い』(中条省平著 NHK出版 2020年9月20日第1刷発行)はカミュの『ペスト』にみる思想体系を分かりやすく解説してくれた。現下のコロナ禍との対比も実に的確にとらえている。

「不条理とは、カミュが世界と人間の関係に見た根本的な特質であり、ひとつの哲学的な概念です」(中条省平氏)
「カミュは人間は世界の一部に過ぎないということをたえず考えた人でした」(同氏)この考えに近い作家にカフカがいるという。「君と世界との戦いでは、世界を支援せよ」と。ここでカフカの言葉は、人間はそれを超える世界の大きさに畏敬の念を持て、「君」とは「人間」のこと。

人間中心主義のヒューマニズムの「限界」を、人々ポポロは自覚すべき時を迎えています。こうした世界観は構造主義に通じるもの。「実存主義に続いて世界の思想に根源的な変革を迫ったのは、いわゆる構造主義です」(中条氏)この思想は人間の理性中心主義を徹底して懐疑する。中条氏は「そうした観点から見るときカミュは実存主義と構造主義を橋渡しする巨大な思想家に見えてくる」と評します。


台風に限らず環境汚染の核実験、ましてやコントロールもできずに起こす原発禍。いずれも愚かな人間様のおごりでしょう。台風は人間が被害者ですが、原発や核実験の方は地球を痛めつけている人間が加害者ですから始末に負えません、困ったものです。

従来の人間中心主義を見つめなおし「人間は世界のシステムの一部にすぎない」とする構造主義に話が及ぶ。構造主義は、文化人類学者クロード・レヴィ=ストロースをはじめ、哲学においてはミシェル・フーコー、批評ではロラン・バルト、小説でアランロブ=グリエ、精神分析はジャック・ラカンといった人たちの名が並ぶ(『果てしなき不条理との闘い』から)なぜがフランス人が目立ちますね。

なにやら構造主義の方法論は、不条理の迷路からの脱出口をわずかながらも切り開きそうな予感がします。



 

【サン・トワ・マ・ミー】 アダモ
コメント (1)
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