安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

公共交通と原発を中心に社会を幅広く考える。連帯を求めて孤立を恐れず、理想に近づくため毎日をより良く生きる。

【尼崎事故】無罪判決の一番の問題点は?

2012-01-23 21:10:16 | 鉄道・公共交通/安全問題
宝塚線脱線事故と無罪判決、一番の問題点は?(弁護士 猪野亨のブログ)

(1)国鉄分割民営化が生み出した営利企業としてのJRの企業体質がこの事故をもたらした、(2)国鉄分割民営化こそ構造改革の走りである、との猪野弁護士の見解に当ブログは全面的に同意する。これらのことは、当ブログと安全問題研究会もかねてから指摘してきた事実である。

しかしながら、結果責任に対する刑事罰ということに対しては、当ブログは猪野さんとは異なる見解を持っている。社会の公器である企業の経営者は、自分たちがこのような方針、戦略を採ったらどのような結果が起きるかをあらかじめ予想して行動しなければならない。経済活動と従業員の生活とを預かっている以上、それは当然のことだと思うのだが。

JR西日本は国鉄を(法的にではなく、実質的・道義的に)承継した企業としてこうした企業体質に対しても責任を負うべきである。現実的に国鉄は分割されJR各社となっている以上、国鉄末期に形作られた強権的な企業体質がもたらした事故の責任を、現在の枠組みの中でいかに償わせ、再発防止につなげていくかが検証されなければ建設的な議論にはならないだろう。

今、オリンパスなどいろんな企業でガバナンス(企業統治)のあり方が問われている。せっかくコンプライアンスや経理の適正化を目指して監査法人その他いろいろな内部統制を導入したのに、日本の企業は官僚と同様、結局何もかも骨抜きにしてしまった。もう一度企業統制を強化する方向で議論を始めるべきだ。

こうしたことを主張すると、企業擁護だかなんだか知らないが、「そんなことをすると誰も経営者のなり手がいなくなってしまう」というお決まりの反論がすぐに出てくる。こうした議論を吹っかけてくる輩に限って日本企業の実態を理解していない。

日本企業の問題点は、こうした輩の心配とは正反対のところにある。原発事故を起こして日本中を汚染させた東電は責任を問われる気配さえないし、20年間も粉飾決算を続け、問題を指摘した外国人取締役を追い出して責任も取らなかったオリンパスも結局、東証一部上場が維持され、経営者が生き延びそうな気配である。最近経営破たんしたコダック社がただちに上場廃止となった米国と比べても、日本がいかに経営者に甘いかよくわかるだろう。

誤解を恐れずいえば、当ブログは日本企業の経営者なんてサルでも務まると思っている。特に官公庁や大企業は、失敗した人から順に出世レースから脱落させる減点主義だから、失敗しないように何もしないで穴蔵に籠もり、会議では目立たないように可もなく不可もない意見を述べながらライバルが脱落するのを待っていれば年功序列で役員ポストが回ってくる。自分の在任中に何も起きないよう、部下には何もするなと指示し、不祥事が起きれば「部下が勝手にやりました」ととりあえずカメラの前で薄くなった頭を下げておけば国民・メディアは諺の通りに75日で忘れてくれて、責任を問われることもない。こんなだったら私だって明日から経営者をやりたいと思ってしまうほど楽な商売である。

こと日本企業の経営者に関する限り、「なり手がいなくなる」などという余計な心配はしなくていい。むしろ「誰でも務まるほどあらゆる法制度が彼らに対して甘すぎる」ことこそ日本企業をとりまく最大の問題なのだ。企業の内部統制というのは、経営者のなり手がいなくなるくらいでちょうどいいのである。

最近、日経ビジネスや週刊ダイヤモンドなどのビジネス誌を見ていると、こうした企業統治のあり方を真剣に憂う記事が増えてきている。一部の心ある経済人は強烈な危機感を抱いている。しかし、企業不祥事が起きてガバナンスのあり方が一時的に問われても、多くの経営者がなんとか自分たちだけは誰にも統制されることなく己の最大利益を追求できるようにしようと、小手先だけの改革でお茶を濁し、また同じことが繰り返されるというのが日本のこれまでの歴史だった。

日本の経営者の大部分は気付いていないであろうが、ガバナンス不在の日本企業は今、国際社会からも「ビジネスパートナーとして不適切な相手」との烙印を押されつつある。最近、日本企業の国際競争力が弱まっていると感じている人も増えていると思うが、国際競争力の低下はこうしたガバナンス不在の企業体質とも無縁ではない。意思決定は遅く、責任の所在は曖昧で、約束すらきちんと守らず、目の前で違法行為が行われていても見ないふりをして仲間と馴れ合う。こんな相手と一緒にビジネスをしたいと一体誰が思うだろうか。

JRも原発事故も、そしてオリンパスも根底に流れる問題は同じである。「誰が、どうやって企業を統制するか」が厳しく問われている。何から手をつけたらよいのかわからなくなるほどいろいろな問題が山積している現在の日本だが、2012年、何かひとつだけ最も重要な問題に集中的に取り組まなければならないとしたら、まさに企業統治のあり方ではないだろうか。

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