人生チャレンジ20000km~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

公共交通と原発を中心に社会を幅広く考える。連帯を求めて孤立を恐れず、理想に近づくため毎日をより良く生きる。

「有事のトイレットペーパー不足」が起きるメカニズムを考える

2020-03-04 23:11:44 | その他社会・時事
新型コロナ拡大に伴って「またか」と心底うんざりさせられるのはトイレットペーパー不足のニュースである。東日本大震災のときもトイレットペーパー買い占めが起きたし、古くは石油危機のときも買い占めはトイレットペーパーだった。日本の食糧自給率(カロリーベース)は4割にも満たず、エネルギー自給率に至ってはわずか9.6%(2017年時点)。供給不足の心配をするなら食料や燃料の方が先だろうと私は思ってしまうのだが、なぜか有事に不足するのはいつもトイレットペーパーと決まっている。今日は、なぜ日本で有事に買い占めによる不足が起きるのが食料でもエネルギーでもなくトイレットペーパーなのかについて考えてみる。

1.デマを流す人の心理

「物資不足」デマを流したい人が、どんな物資なら人びとに信用してもらえそうか(=どんな物資なら騙せそうか)を考えるとき、やはり石油危機の記憶は大きいらしい。有事になるとトイレットペーパーが「不足するだろう」→「不足するに違いない」→「不足しなければならない」と考えがエスカレートした結果、「トイレットペーパーが不足する」というストーリーの結論部分が先に決まる。「初めに結論ありき」の典型だ。

そして、この結論が決まったら、多少強引でもいいからそこへストーリーを落とし込む。考えてみれば今回のデマの発端となった「トイレットペーパーとマスクはどちらも原料が同じ(紙)で、主に中国で作られているから、新型コロナで中国のサプライチェーンが動かなくなれば供給に支障が出るに違いない(あるいは、支障が出なければならない)」という論理は飛躍しすぎているし、マスクの原料は不織布であって紙ではない。だが、有事でパニックになると白い物は全部紙が原料と思い込む人が一定割合でいるらしく、こうしたデマに容易に騙される人が出てくる。

考えてみれば、消費期限が短く、余っても腐らせてしまうだけの生鮮食料品では買い占めにつながりそうもないし、例えば乾電池などは災害時には供給が途絶して過去、実際に不足が起きたこともあるとはいえ、小さくて軽トラック1台でも1度にかなりの個数、輸送ができてしまうからやはり簡単に不足は起こせそうもない。これに対し、トイレットペーパーはある程度「かさばる」ためトラック1台で輸送できる量には限りがあるから輸送がパンクしやすい。おまけに備蓄も可能だ。デマを流す側にしてみれば、不足騒ぎを起こすのにこれほど適した物資もない。これからも「トイレットペーパーが不足する」というデマは有事のたびに起き、そして実際に店頭から消える騒ぎは繰り返されるだろう。

2.「物流」の問題

これは、当ブログではJR路線問題と絡んでたびたび取り上げてきており、今さら繰り返すまでもない。現在、日本ではトラックも運転手も不足気味で、有効求人倍率は2倍を超えている。ネット通販の急成長に伴って貨物取扱量は増える一方なのに、運転手の主力は50~60歳代と高齢化している。今や平時でも物流はギリギリ状態なのに、業者から急な発注が入っては運びきれない。しかも1で見たようにトイレットペーパーは「かさばる」ため1度に運べる量が限られているにもかかわらず、生活必需品として頻回な輸送が発生する。単価が安いので利幅も小さく、物流業者にとっては正直「扱いたくないもの」の筆頭といえる。

3.「小売店側」の問題

それでも上記1と2については、まだ業界事情にそれほど詳しくない人でも想像がしやすいかもしれない。だがこれから説明する小売店側の問題は、ある程度この業界の事情に通じていないと理解が難しいだろう。

実は、当ブログ管理人は今の会社に就職する前の学生時代に、地方に基盤を置く総合スーパー(イオンのような形態のスーパー)で5年ほどアルバイトした経験を持つ。当ブログ管理人がバイトしていたのは80年代後半~90年代前半。世はバブルが最後の輝きを放っていた時代だが、当時と今とを比べてみても、ネット通販が登場して、それに押されていることくらいで、基本的な業界構造はそれほど大きくは変わっていない。

今回のように、大きな自然災害に見舞われ物流が途絶したわけでもなく、静岡県富士市の製紙会社「丸富製紙」が天井に届かんばかりの大量のトイレットペーパーの在庫を持っている様子を写真で公開もしている(参考記事:「「トイレットペーパー、倉庫に在庫潤沢 ご安心を」富士・丸富製紙のつぶやきが拡散」(2019/3/3「毎日」)にもかかわらず、買い占め騒ぎが収まらないのは、多くの消費者が「そうは言っても、自分の近くのどの店に行っても実際、置いてない」と感じているからである。メーカーには天井に届くほど在庫があり、物流も途絶していないのに「どの店に行ってもない」原因は実は小売店側にもある。事態を読み解くカギは「倉庫面積」だ。あなたの近くのスーパーや小売店が今回のような有事にどの程度商品を切らさずに持ちこたえられるかのカギを握るのは、売場面積よりもむしろ倉庫面積なのである。

バブルが崩壊した90年代中盤くらいから、スーパーやドラッグストアなどの小売業界では、倉庫面積を減らす動きが相次いだ。売場と違い、倉庫は直接売り上げには結びつかず、逆に面積が広ければ広いほど保管経費や固定資産税などがかかるから、スーパーやドラッグストアにとっては手っ取り早く経費を削減するには倉庫の面積を減らすのがいい。直接的なコスト削減効果があり、しかも顧客には見えない部分だから消費者イメージの低下の心配もしなくてすむ。倉庫面積が減ったぶんは、卸売業者に発注する回数を増やし、少しずつ頻繁に納品してもらえばいい。当時は今と違い、トラックも運転手も余っていたから輸送回数が増えることによるコスト増加はいくらでも卸売業者に転嫁できた。結果として、スーパーやドラッグストア業界はトヨタばりの「ジャスト・イン・タイム」方式的「少量頻回発注納品」体質にすっかり甘えたまま今日まで来てしまった。ところが、急速に進む少子高齢化でトラックも運転手も過剰から不足に転じ、この「少量頻回発注納品」方式が急速な逆回転を始めているのがスーパーやドラッグストア業界の現状なのである。

経費節減のために倉庫の面積を減らす動きは、まず地価や固定資産税の高い都心の一等地の店舗から表面化した。特にコンビニでは倉庫スペースがほとんどないため、納品に来た業者が直接売場に商品を陳列するような極端な例も珍しくない。こうした店舗では、販売力は売場面積を超えられないが、こうした都心一等地の店舗ほど人口密集地でもあるため、今回のような有事には真っ先に買い物客が殺到する。都心で地価も固定資産税も高いため、コストばかりかかり、売り上げにつながらない倉庫面積を極限まで削減した結果、販売力が小さくなった店に、人口密集地で買い物客が殺到するのだから、物がなくなるのは当然だ。そこに、上記の2で説明した事情(生活必需品であるにもかかわらず、かさばるため輸送コストがかかる)が重なった結果、最も早く欠品状態となるのがトイレットペーパーとなるのである。

有事にあって物流が一定期間途絶えたとき、あなたの生活圏にある行きつけのスーパーやドラッグストアが「欠品をできるだけ出さずに持ちこたえられる店か否か」を見極める方法は、売場よりも「十分な面積を持った倉庫があるか」「物資に備蓄があるか」がポイントになる。今度買い物に行ったときでかまわないから、店の周りをぐるりと1周、回ってみて、倉庫の広さとともに、配送のトラックが週に何回程度来ているかも確認してみるといいだろう。十分な倉庫面積を持ち、配送トラックの来店回数も1週間に1~2回程度なら、その店は有事にもある程度持ちこたえるだろう。そうでないなら、その店は持ちこたえられないということになる。かつて小売業界を経験した当ブログ管理人からのアドバイスである。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「新型コロナ感染予防にマス... | トップ | 良薬と猛毒がブレンドされた... »

その他社会・時事」カテゴリの最新記事