ひろの東本西走!?

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私の男(桜庭一樹)

2009-01-20 22:22:00 | 12:さ行の作家

Watashinootoko1 私の男(文藝春秋)
★★★★☆:85~90点

2008年最後の読了本は第138回直木賞受賞作。凄い小説だった。
以前に読んで度肝を抜かれた同じ著者の「赤朽葉家の伝説」とはまた全く異なった味わい・肌触りで、暗く寒い冬の海そのもののような荒涼とした衝撃の問題作。最初、淳悟の北の方から来たとの言葉に、てっきり朝鮮半島かロシアがらみの話かと思ってしまった。

ちょっと東野圭吾の衝撃作「白夜行」にも似た雰囲気があり、そこに、不条理・禁断・耽溺、歪んだ家族愛・父娘愛(?)、業(ごう)や性(さが)といったものが折り重なった小説といえるだろうか。

********************************** Amazonより **********************************

出版社 / 著者からの内容紹介
お父さんからは夜の匂いがした。
狂気にみちた愛のもとでは善と悪の境もない。暗い北の海から逃げてきた父と娘の過去を、美しく力強い筆致で抉りだす著者の真骨頂『私の男』。

内容(「BOOK」データベースより)
優雅だが、どこかうらぶれた男、一見、おとなしそうな若い女、アパートの押入れから漂う、罪の異臭。家族の愛とはなにか、超えてはならない、人と獣の境はどこにあるのか?この世の裂け目に堕ちた父娘の過去に遡る―。黒い冬の海と親子の禁忌を圧倒的な筆力で描ききった著者の真骨頂。

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【注:以下、ネタバレあり】

現在から過去に遡っていく描き方は、新しい手法ではないものの本作においては非常に効果的。昔は”一応”同僚や親戚との付き合いもあり、海上保安官として働き、まがりなりににも普通の生活を送っていた淳悟。彼が花と出会い(再会し)、一緒に暮らすようになり、関係を持つようになってからは次第に他の人とも疎遠になっていく。そして、大きな2つの事件を経て、淳悟が次第に精神的にも壊れて破綻していく様子がよりリアルに感じられ、ゾーッとした気分も強まった。淳悟が花を引き取り、公務員宿舎に引っ越して、これから二人だけの生活が始まろうとするラストシーン。そこには希望とか明るさも感じられるだけに、その後の(小説としては前の方の章であるが)物語の異常さ、切なさがかえって胸に迫る。

各章で語り手の異なる一人称の文体になっているが、その人物が変わっていく(淳悟であったり、花であったり、美郎であったり、小町であったり)のも面白かった。美郎や小町が語る部分は真相が明らかにされないため、読者は様々に推理・想像することになり、それがより不可解さ・不気味さを増すことにもなっていたように思う。ただ逆に、花が美郎と結婚するに至った(淳悟から離れようとした)経緯も明確には描かれず、これにはもどかしさが残った。

直木賞の選評で林真理子氏が書いておられたが、この小説を生理的に受け付けない人も多いかもしれない。世間での評価もかなり分かれているようだ。しかし、私は「赤朽葉家の伝説」同様に支持。ただ、読後のブッ飛び感では前作の方が大きかった気も。

また、同じく直木賞選評での井上ひさし氏の解釈には、うーーーんと唸ってしまった。淳悟がなぜあれほど母の愛に飢えていたのか、その出自に大いに関係あるのだろうが、著者はそれについてもハッキリ書いていない。井上ひさし氏の解釈が正しいのかもしれない。淳悟の実の母はいったい誰?

淳悟の行方、これからの花の人生など、読者に解釈を委ねてしまうような描き方。読後は不完全燃焼にも思えたのだが、筆者の術中にはまったということか。

また、とある人物の思いも寄らぬ形での帰還には、映画「太陽がいっぱい」のような恐怖を感じた。このゾーッと感が最大だったかもしれない。

◎参考ブログ

   エビノートさんの”まったり読書日記”
   苗坊さんの”苗坊の徒然日記”