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ひろの東本西走!?

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赤朽葉家の伝説(桜庭一樹)

2007-08-21 23:57:00 | 12:さ行の作家

Akakutiha1 赤朽葉家の伝説(東京創元社)
★★★★☆:90~95点

いやはや驚愕の作品です。最初は、変な主人公やなあ、不思議な雰囲気の変わった小説やなあ、あまり好きになれそうにないなあと思っていたのですが、実はこの作品、もの凄い魅力に満ちあふれていてグイグイ引き込まれてしまいました。何という破天荒なストーリー、何という破天荒な人々。読んでいる間、もの凄いエネルギーを感じました。こんな作品を紡ぎだした桜庭一樹の才能に乾杯。

もらわれっ子(? 拾われっ子だったかな?)の”千里眼奥様”万葉、彼女の娘で無茶苦茶ケンカが強い不良少女&女番長であり、中国地方を制覇した”伝説のレディースの頭”毛毬(けまり)。この母娘の物語がもう面白くて面白くて。毛毬の暴れっぷりは映画「岸和田少年愚連隊」を思い出させ、いつもつるんでいた毛毬とレディースのアイドル・穂積蝶子の関係は「下妻物語」のイチゴと桃子のようだったのも面白かったです。しかし、美しく頭も良い蝶子がその後、確信犯的な堕ち方をするのは怖かった。白い服を着た黒薔薇のような美しさが不気味でした。

全体としては、万葉-毛毬(けまり)-瞳子(トーコ)の母娘3世代を中心にした物語で、万葉編:動-毛毬編:激動-瞳子編:静の対比が見事。特に毛毬編の荒々しいまでのエネルギーはもの凄く、彼女の物語が圧倒的に面白く魅力にあふれていました。若い頃から無茶をした”ワル”たちが皆、妙に早く引退する面白さ。レディースの女の子たちが情に厚いっていうのも何となく分かるなあ。もう会えないかもしれない蝶子を静かに見送り、彼女たちなりに別れを告げるシーンも印象的でした。引退後、レディースを描く漫画家に転身し、超売れっ子になって身を粉にして働き、傾きつつあった赤朽葉家を陰で支えた毛毬の生き様のもの凄さ。

終盤、瞳子(トーコ)の話になり、それまでの破天荒な面白さがなくなって今いちかと思っていたのですが、祖母の”殺人”をめぐる謎がやがて愛の物語に昇華していく見事さにはウーンと唸りました。祖母がかつて見た”空を飛ぶ男”とは?彼も印象的でした。瞳子の話も、平和と自由の時代の心許なさ、生きる目的・意味の喪失など、これはこれで味わい深いものがありました。

曾祖母のタツが名付けた万葉の子供達の名前が傑作。泪、毛毬、鞄、孤独、百夜(”寝取り”の異名を持つ)。万葉と”いじめっ子”みどりのお互いに憎まれ口をたたきながらも心を通わせる不思議な友情。他にも変な人たちがゾロゾロ登場する面白さ。夫や子供達の死などが分かってしまう(見えてしまう)千里眼・万葉の悲しみと苦しみ。これは哀切でした。

戦争、復興、高度成長、公害、製鉄業界の斜陽、バブルとその崩壊・・・
力道山、東京オリンピック、万博・・・
大学紛争、いじめ、引きこもり、ゲーム、ニート・・・

まさに昭和史そのものが物語の背景として描かれています。物語に直接関係のないものも含まれ、単純に並べただけという批判もあるかもしれませんが、時のうつろいと赤朽葉家の変遷、世代交代などを印象づける効果的な使い方だったと思います。これらが無かったら、明治から大正にかけての物語かと思わせるレトロ感も面白かったです。

製鉄業で財を成した旧家の赤朽葉家を何とか継続・存続させようと必死になる男達とそれを支える女達。それぞれの生き方もよく描かれていましたね。”やめることは簡単だが、始めることと続けることは難しく大変”という言葉にもなるほどなあと思いました。

ブログでちょっと調べたら、この作品の評価はかなり分かれていましたが、こんな不思議なエネルギーと魅力に満ちあふれた怪作はちょっとやそっとではお目にかかれません。私は断然支持します。残念ながら直木賞の受賞はなりませんでしたが、選評を読むと高く評価している審査員も結構おられ、毛毬の物語が面白かったとの感想にウンウンとうなずいてしまいました。この作品の魅力、分かる人にだけ分かればいいや。

※宿泊研修などがあって返却が遅れていたところ、図書館から速やかに
  返却してくださいとの督促電話が入って無念の(汗)返却。
  そのため、詳しいことが思い出せないのです・・・。

◎参考ブログ

  ざれこさん:本を読む女。改訂版
  藍色さん:粋な提案
  ぱんどらさん:ぱんどらの本箱
  花さん:<花>の本と映画の感想
  苗坊さん:苗坊の読書日記
  エビノートさん:まったり読書日記
  juneさん:本のある生活
  EKKOさん:アン・バランス・ダイアリー
  そらさん:日だまりで読書(2008-2-14追加)

*************************** Amazonより *************************** 

【Amazon.co.jp特別企画】著者からのコメント
 みなさん、鳥取県紅緑村から、こんにちは。桜庭一樹です。
 この『赤朽葉家の伝説』は2006年の4月から5月にかけて、故郷の鳥取の実家にこもって一気に書き上げました。わたしは山奥の八墓村っぽいところで生まれ育って、十八歳で東京に出て、小説家になりました。昭和初期で時が止まったようにどこか古くて、ユーモラスで、でも土俗的ななにかの怖ろしい気配にも満ちていて。そんな故郷の空気を取り入れて、中国山脈のおくに隠れ住むサンカの娘が輿入れした、タタラで財を成した製鉄一族、赤朽葉家の盛衰を描いたのが本書です。不思議な千里眼を持ち一族の経済を助ける祖母、万葉。町で噂の不良少女となり、そののちレディースを描く少女漫画家となって一世を風靡する母、毛毬。何者にもなれず、偉大な祖母と母の存在に脅えるニートの娘、瞳子。三人の「かつての少女」の生き様から、わたしたちの「いま」を、読んでくれたあなたと一緒に、これから探していけたらいいなぁ、と思っております。
 実家での執筆中、気分転換にと庭に出たら、犬に噛まれました。(甘噛みではありません)屋内では猫に踏まれました。あと、小腹がすいたと台所で冷蔵庫の中を物色していたら、父に「こら、ゴン!」と、犬と呼び間違えられました。執筆のあいだ、いろいろなことがあり、いまではなつかしい思い出です。

                                  桜庭一樹

出版社 / 著者からの内容紹介
「山の民」に置き去られた赤ん坊。この子は村の若夫婦に引き取られ、のちには製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれて輿入れし、赤朽葉家の「千里眼奥様」と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。――千里眼の祖母、漫画家の母、そしてニートのわたし。高度経済成長、バブル崩壊を経て平成の世に至る現代史を背景に、鳥取の旧家に生きる3代の女たち、そして彼女たちを取り巻く不思議な一族の血脈を比類ない筆致で鮮やかに描き上げた渾身の雄編。2006年を締め括る著者の新たなる代表作、桜庭一樹はここまで凄かった!