アブソリュート・エゴ・レビュー

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ろくでなし啄木

2011-06-23 21:56:54 | 演劇
『ろくでなし啄木』 三谷幸喜脚本・演出   ☆☆

 三谷幸喜がこんな芝居をやったということを全然知らなかったが、日系のレンタルDVDでふと見かけて鑑賞。WOWOWでも放映したらしい。

 しかし、これはあかんでしょう。今まで観た三谷芝居の中で一番つまらなかったですぞ。ものすごく長く感じる。最後まで観通すのがしんどかった。役者三人、藤原竜也、中村勘太郎、吹石一恵はみんな熱演で、よく頑張ったと思う。ダメなのは脚本である。とにかく話が面白くない。

 回想形式になっていて、テツ(中村勘太郎)とトミ(吹石一恵)が、すでに死んだ石川啄木=ハジメ(藤原竜也)と過した一夜のことを語り合う。その日、三人は一緒に温泉宿に旅行する。ハジメがトミにテツを誘惑させ、テツの金を取ろうとする。誘惑のつもりがなりゆきで本当に関係を持ってしまい、テツは金を払うが、ハジメはその夜を最後に二人の前から姿を消してしまう、という話。

 これを最初はトミ視点でやり、次にテツ視点でやる。どうやら黒澤の『羅生門』みたいに、語り手によって事件の細部が変わるという趣向らしい。が、語り手が変わっても大した落差がないのである。驚きもない。騙し絵としては映画『アフタースクール』の足元にも及ばない。もちろん『羅生門』の素晴らしさ、人間性の深層をあぶりだすような怖さとは比べ物にならない。というか、トミ視点ではハジメがトミに誘惑しろとそそのかし、テツ視点ではテツに「トミは君が好きなんだから口説いてみろ」とそそのかすという、要するに同じ話じゃないか。違うのはりんごとみかんだけ。で、同じ芝居を律儀に二回見せられるので、当然のこととしてくどい。退屈する。

 ようやくトミ視点、テツ視点の芝居が終わり、「本当は何があったんだ?」と二人が考え込んだところでハジメの幽霊が出てきて、謎解きをするが、これまた話が長い上に大したことない。そもそも何がハジメ=石川啄木の葛藤、悩みだったのだろうか。物書きは退廃と不道徳の世界にいるべき、ってか? それとも妻が上京してくるので困った? よく分からない。なんだか無理矢理理屈つけて落としどころを探している感じだ。結局ハジメの動機に全然説得力がなく、それを糊塗するためか「でも本当のことなんて何も分からない」と『12人の優しい日本人』と同じ締め方をするが、流れが自然だった『12人の優しい日本人』に比べてとってつけたみたいだ。確かなのは朝の光だけ、という最後のセリフもいかにも苦しい。

 言っちゃ悪いが、明らかに失敗作である。


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