『野望の果て』 ☆☆☆☆
今回は議員候補者が犯人。自分を狙った犯人に間違えられたように偽装して、優秀だが横暴な選挙参謀を殺害する。犯人役はジャッキー・クーパー。『スーパーマン』で編集長役をやっていた人だ。
傑作エピソードの一つである。しかもコロンボ・シリーズの王道を行く傑作である。何が王道かというと、まず推理が細かい。犯行現場の灯りについてチマチマ分析し、論破されたと思ったらさらに弾道と結びつけて不自然さを指摘するなどロジックに展開がある。さらにエンジンが冷えるまでの時間や、犯人が使った電話についていちいち調べていくコロンボの実証主義が気持ちいい。
次に、コロンボが犯人に対してかけていく心理的なプレッシャーが充分に描かれている。最初にコロンボがヘイワードと事件について議論する際のしつこさ、嫌らしさはおそらくシリーズ中随一である。ヘイワードが何度も「要点をどうぞ」と促すにもかかわらず、ペンを探すわ、車の絵の切り抜きを探すわ、カミさんの話をするわ、とことん神経を逆なでしてくれる。話の前置きも長いし、観ている私までがイライラしてくるほどだ。おまけに部屋を出て行こうとしてからがまた長い。「もう一つだけ」と言って戻ってくるのはいつものことだが、ここではそれをご丁寧に4、5回繰り返す。こんなことやられたら誰だってたまらない。ようやくホントにコロンボが去った後、ブチキレそうになっているヘイワードがおかしい。
ヘイワードがだんだん不安になってくる過程もきちんと描かれていて良い。今回は犯人だけでなく回りの人々にもプレッシャーがかかる。まずヘイワードの愛人のリンダ、そしてヘイワードの妻ビクトリア。コロンボの聞き込みに彼女達が怯え始め、それに反応してヘイワードもあせり、最後に自ら墓穴を掘ってしまう。この流れはまさに王道である。
コロンボが妙に思わせぶりなセリフで関係者にプレッシャーにかけていくのも最初期のエピソードを彷彿とさせて嬉しい。ヘイワードの愛人リンダがヘイワードのことを「好きですわ(I like him)」と言った時、「候補者としてね」などと意味深に付け加えるあたりである。
更に、本エピソードの最大の美点はラストの爽快さである。コロンボのラスト、つまり犯人の落とし方は時々「え、それだけ?」という場合とか、そもそも何も証明できていない場合もあるが、今回は問答無用である。「犯人はまだこの部屋の中にいる」のコロンボのセリフで一気にテンションが高まる。ここで自分のトリックを過信したヘイワードの高飛車ぶりと、コロンボの平静さの対照がまた見事。
「君のやることは、壁から弾を掘り出して弾道検査をすることだろう!」
「いいえ」そして懐からハンカチを取り出して一言。「弾はここにあります」
この瞬間にもう詰んでしまう。たった今撃たれたはずなのに、もう弾はとっくに掘り出されているという矛盾。笑っちゃうくらいの鮮やかさで、もはや悪あがきのしようもない。実際ヘイワードはここから後、一言もセリフがない。淡々と説明するコロンボ。ここまで完膚なきまでに叩きのめされた犯人も珍しいのではないか。「あなたを逮捕します」冷静なコロンボの声が突き刺さって、ジ・エンド。美しい終わり方だ。
ところで本エピソードでは動機が分かりやすく説明されないので、リンダと別れろと言われたというのが動機と解釈し、「動機が弱い」と批判する人もいるようだが、それは違う。リンダの件はきっかけに過ぎない、というより、ヘイワードが単にそれを殺人の口実として利用したに過ぎない。真の動機はヘイワードとストーンの間の長年の確執である。詳細は説明されないが、二人の間に解きがたい確執があることは当人同士の会話やビクトリアのセリフからちゃんと分かるようになっている。私はこれで充分だと思う。
今回は議員候補者が犯人。自分を狙った犯人に間違えられたように偽装して、優秀だが横暴な選挙参謀を殺害する。犯人役はジャッキー・クーパー。『スーパーマン』で編集長役をやっていた人だ。
傑作エピソードの一つである。しかもコロンボ・シリーズの王道を行く傑作である。何が王道かというと、まず推理が細かい。犯行現場の灯りについてチマチマ分析し、論破されたと思ったらさらに弾道と結びつけて不自然さを指摘するなどロジックに展開がある。さらにエンジンが冷えるまでの時間や、犯人が使った電話についていちいち調べていくコロンボの実証主義が気持ちいい。
次に、コロンボが犯人に対してかけていく心理的なプレッシャーが充分に描かれている。最初にコロンボがヘイワードと事件について議論する際のしつこさ、嫌らしさはおそらくシリーズ中随一である。ヘイワードが何度も「要点をどうぞ」と促すにもかかわらず、ペンを探すわ、車の絵の切り抜きを探すわ、カミさんの話をするわ、とことん神経を逆なでしてくれる。話の前置きも長いし、観ている私までがイライラしてくるほどだ。おまけに部屋を出て行こうとしてからがまた長い。「もう一つだけ」と言って戻ってくるのはいつものことだが、ここではそれをご丁寧に4、5回繰り返す。こんなことやられたら誰だってたまらない。ようやくホントにコロンボが去った後、ブチキレそうになっているヘイワードがおかしい。
ヘイワードがだんだん不安になってくる過程もきちんと描かれていて良い。今回は犯人だけでなく回りの人々にもプレッシャーがかかる。まずヘイワードの愛人のリンダ、そしてヘイワードの妻ビクトリア。コロンボの聞き込みに彼女達が怯え始め、それに反応してヘイワードもあせり、最後に自ら墓穴を掘ってしまう。この流れはまさに王道である。
コロンボが妙に思わせぶりなセリフで関係者にプレッシャーにかけていくのも最初期のエピソードを彷彿とさせて嬉しい。ヘイワードの愛人リンダがヘイワードのことを「好きですわ(I like him)」と言った時、「候補者としてね」などと意味深に付け加えるあたりである。
更に、本エピソードの最大の美点はラストの爽快さである。コロンボのラスト、つまり犯人の落とし方は時々「え、それだけ?」という場合とか、そもそも何も証明できていない場合もあるが、今回は問答無用である。「犯人はまだこの部屋の中にいる」のコロンボのセリフで一気にテンションが高まる。ここで自分のトリックを過信したヘイワードの高飛車ぶりと、コロンボの平静さの対照がまた見事。
「君のやることは、壁から弾を掘り出して弾道検査をすることだろう!」
「いいえ」そして懐からハンカチを取り出して一言。「弾はここにあります」
この瞬間にもう詰んでしまう。たった今撃たれたはずなのに、もう弾はとっくに掘り出されているという矛盾。笑っちゃうくらいの鮮やかさで、もはや悪あがきのしようもない。実際ヘイワードはここから後、一言もセリフがない。淡々と説明するコロンボ。ここまで完膚なきまでに叩きのめされた犯人も珍しいのではないか。「あなたを逮捕します」冷静なコロンボの声が突き刺さって、ジ・エンド。美しい終わり方だ。
ところで本エピソードでは動機が分かりやすく説明されないので、リンダと別れろと言われたというのが動機と解釈し、「動機が弱い」と批判する人もいるようだが、それは違う。リンダの件はきっかけに過ぎない、というより、ヘイワードが単にそれを殺人の口実として利用したに過ぎない。真の動機はヘイワードとストーンの間の長年の確執である。詳細は説明されないが、二人の間に解きがたい確執があることは当人同士の会話やビクトリアのセリフからちゃんと分かるようになっている。私はこれで充分だと思う。
仕立屋のビィト・スコッティの
シーンが好きです。
この古きアメリカの高級感がいいですね。
レストランやバーでも
いつもいい感じの落ち着いた店内
BGMが流れてますね。
新刑事コロンボではこの
ゆったりした高級感がなくなってしまい残念でした。