アブソリュート・エゴ・レビュー

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男はつらいよ 寅次郎真実一路

2017-05-05 23:09:27 | 映画
『男はつらいよ 寅次郎真実一路』 山田洋次監督   ☆☆★

 DVDで再見。マドンナは大原麗子、二度目の登場である。大原麗子の夫である証券会社のサラリーマン(米倉斉加年)が失踪し、悲しむマドンナを寅が慰める話だ。夫探しの旅に一緒に出かけたりする。寅は当然大原麗子に惚れている。

 正直、出来は今一つだ。冒頭、寅が柴又に帰ってくるお約束シーンからノレない。寅とタコ社長の喧嘩はドタバタが過ぎ、空々しい。その原因を作るのはタコ社長の娘あけみ(美保純)だが、このあけみの言動もまた空々しい。これは私個人の趣味の問題かも知れないが、そもそもあけみというこのキャラ自体が、演じている美保純の演技含め気に入らない。ノリがとらやファミリーと水と油である。ガチャガチャしているし、演技がコント芝居だし、やたら寅さん賛美なのも白ける。寅は柴又ではあくまで厄介者のはずで、そんな寅を愛するのはスクリーンのこっち側にいる観客だけでいいのだ。観客代表みたいな寅さんファンを映画の中に作ってしまうと、いかにもプログラム・ピクチャーって感じで安っぽくなる。

 この場面も、あけみが出てきて寅とタコ社長の喧嘩をけしかける時点でコント芝居臭がぷんぷん匂い、渥美清と太宰久雄の絡みも空回りしている。それから、大原麗子のマドンナと寅の関係もどうもピンと来ない。大原麗子は人妻のくせに、なぜか寅と会った瞬間から熱狂的好意を寄せてくる。一晩家に泊めただけの夫の知り合いを、別れの挨拶後に自分から引き留めたり、見えなくなるまでじっと見送ったりするか、普通。ここにもまた、スター・寅の存在に寄りかかった映画作りの姿勢が見え隠れする。

 おまけに大原麗子は失踪した夫を探す旅に寅と一緒に出かけ(これがもう非常識)、会社の人ですと嘘をついて実家にまで連れて行き、しまいには寅が大原麗子と一緒の旅館には泊まらないというと「寅さん、つまんない」。どゆこと? おかしくないか、この発言?

 マドンナは、夫の心配をしながら寅にも惹かれていたということだろうか? その心理がどうも分からないし、物語の中でおさまりも悪い。一体何がしたいのか。また寅の行動も浅はかで、妻が夫を探しに行くという旅に自分から同行しておいて、「変な噂になったら申し訳ない」もないもんだ。ようやく失踪夫が戻ってきた時に、まっすぐ家に帰らず、まず寅に会いに来るのも不自然だ。「寅さんに会ってから帰ろうと思って」だそうだが、もはや寅があらゆる人々から熱烈に慕われるガンジー和尚みたくなっている。

 夫が帰ってきたのを見届けて寅はまた旅立つが、旅立ちがとらやからでなく電話一本かかってくるだけというのもあっけなくて物足りない。また、「男はつらいよ」シリーズには一本ごとに「本当の幸せとは」「親子の絆とは」「結婚とは」「労働の尊さ」「金と幸せの関係」など複雑なテーマが盛り込まれているものだが、今回はその点でも物足りない。失踪する米倉斉加年は会社労働のストレス問題を提起するキャラクターのようだが、なんだかぬるい決着だ。とりあえず故郷を見て癒され、その後土浦勤務になって、家族の時間が増えたので結果オーライ、ということのようだ。安直だなあ。

 記憶に残るようなギャグも大してなく、面白かったのは寅がマドンナの実家に行った時の「やめはんか!」のリピートぐらい。冒頭の喧嘩、マドンナの扱い、サブキャラの扱い、失恋と旅立ち、すべてが寅さん映画のフォーマットをただなぞっているだけのような安直さが充満する凡作である。
 


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