アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

Avalon

2008-12-21 13:32:40 | 音楽
『Avalon』 Roxy Music   ☆☆☆☆☆

 ロキシー・ミュージック最後のアルバム。ブライアン・フェリーのダンディズムとヨーロッパ的美意識が極限に達したような桃源郷サウンドが詰まっており、ロック史上名盤の一枚に数えられている。

 坂本龍一が渡辺香津美のアルバムをプロデュースした時、ジャズ的な方法論を打ち破り「少ない音数の中にある豊穣さ」を示唆するためにロキシーの曲をやらせた(そして結果的にはうまくいかなかった)という話をインタビューで語っていたが、このアルバムを聴くとその意味が良く分かる。美意識の何のと言ってもそれは決してプログレのようなクラシック的な手法とか、ジャズ的な(いわば借り物の)手法によるものではなく、あくまでロック、ポップ・ミュージックの範疇内にあるものだ。そしてそれこそが素晴らしい。クラシック的感性、ジャズ的感性からは多分絶対に生まれてこないだろう「美」がここにはある。曲の構造は単純で、サウンドはギターにしろシンセサイザーにしろ、あるいはサックスにしろ、感覚的かつ断片的な音ばかりだ。しかしそれらが組み合わさった時に、全体として非常に豊穣な、はかなげで美しい世界が蜃気楼のように現出する。そういう意味でも、本作はやはりロック的感性、ロック的手法の一つの達成と言えると思う。

 楽曲の一つ一つは非常にポップでキャッチー、そしてエレガントだ。サウンド・プロダクションがまた実にクリアで心地よく、ブライアン・フェリーの独特の歌唱が繊細なガラス細工のような印象を強める。一曲目の『More Than This』がなんと言っても鮮烈だが、『True to Life』の浮遊感、ロマンティズムも良い。アルバム全体の雰囲気としては明るさと暗さがほどよく溶け合っていて、どこか吸い込まれるような美しさが漂っている。デカダンスの一歩手前で踏みとどまっているという絶妙のバランス感覚がある。私はこのアルバムに感動してブライアン・フェリーがこの後ソロで出した『Boys & Girls』も聴いてみたが、すでにデカダンになってしまっていた。

 それにしてもブライアン・フェリーという人はヴォーカル・スタイルだけでなく、ソングライティングのセンスも実に独特だと思う。短いインスト曲の『India』なんて聞くと単純なメロディのくせにロマンティシズムとエキゾチズムが渾然一体となっていて、しかもクールだ。決して感傷的ではない。誰かがフェリーについて「絶対に日本人の中にはない美意識で曲を作っている」みたいなことを書いていたが、なんとなく分かる。


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