アブソリュート・エゴ・レビュー

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洪水

2011-05-03 19:25:22 | 音楽
『洪水』 ハービー・ハンコック   ☆☆☆☆☆

 ハービー・ハンコックのお薦め盤をもう一つご紹介したいと思う。これは『ヘッドハンターズ』『スラスト』『マン・チャイルド』のファンク三部作の後に出た超強力なライヴ盤である。しかも場所は東京。日本人なら聴くしかない。

 なんだか得体の知れない怪しげなアルバム・ジャケットだが、このジャケットと「洪水」というタイトルが内容をよく表している。熱くて火傷しそうな音の洪水だ。

 曲はほぼ全部ファンク三部作から。一曲目のピアノ曲『Maiden Voyage』だけ違うが、これはまあ名刺代わりといったところだろうか。とは言ってもこれももちろん有名曲で、凛然としたソロ・ピアノの響きが力強く美しい。ぐいぐい引き込まれる。最後にベース、ドラム、フルートが入ってバンド演奏となり、テンポが変わってそのまま二曲目の『Actual Proof』へとつながる。で、いきなり怒涛のファンク大会となる。すさまじいテンションと熱気で、スタジオ・バージョンも充分強力だがそれを更に上回る獰猛な演奏だ。特に強力なのがベースのポール・ジャクソンで、ゴリゴリした音のベースでぶりぶりぼこぼこと容赦なく弾き倒す。ハービーもピアノをがんがん叩きまくる。とにかくものすごい迫力だぞ。

 続く『Spank-A-Lee』でも高テンションが維持される。最初しばらくはドラムとベースの抑えた掛け合いが続き、そこにサックスが加わる。その後ハービーがピアノからエレピに変えて参戦、後半盛り上がり、サックスのソロで締める。次の『Watermelon Man』はリラックスした曲調だけれども、スタジオ・バージョンより重く、音圧のある演奏になっている。ベースの重低音とドラムが曲の迫力を増している。

 ハービーの日本語のMCを挟み、自ら「私たちの美しい曲の一つ」という『Butterfly』へと続く。これも静かで繊細な曲だが、やはりスタジオ・バージョンより骨太に聞こえる。それにしてもポール・ジャクソンのグルーヴはまったく素晴らしい。次が有名曲『Chameleon』で、あの印象的なシンセ・ベースから始まり、サックス・ソロからシンセのソロへと続く。ただしこのシンセのソロはちょっとエフェクトに頼り過ぎで、個人的にはいまいち面白くない。スタジオ盤のようにちゃんと弾いて欲しかった。最後はまたしても熱いファンク曲、アルバム『マン・チャイルド』の一曲目『Hang Up Your Hang Ups』で締める。ハービーはここでもエレピとシンセサイザーを弾いている。

 いやもう、通して聞くとおなか一杯になる。こってりしていてかつスパイシーな中華料理をフルコースで食したような満足感だ。特に強烈なのは2曲目の『Actual Proof』だが、重たくて芯のある、そして疾走し始めると止まらないリズム・セクションがすべての曲にぶ厚い音圧を与えている。

 ところでいきなりこれを聴くのもいいが、このアルバムを充分に楽しむにはやはりまずスタジオ盤のファンク三部作を聴いておいた方がいいと思う。当然ながらどれも素晴らしい出来である。そしてハンコック流ファンクに病みつきになったところで、このライヴ盤を聴く。そうすると生演奏ならではのニュアンスがまた新鮮で、たまらない快感を得ることができる。私はこれでハンコックにはまりました。
 


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