『大菩薩峠』 岡本喜八監督 ☆☆☆☆
これも岡本喜八の時代劇。主演は仲代達矢。原作は世界最長を目指して延々書きつがれたが未完になってしまったという長編時代小説。時間があれば読んでみたいが、しかし長そうだなあ。
主人公・机竜之助が仲代達矢だが、ニヒルである。映画が始まるとある晴れた日、大菩薩峠を越えようとする老人と少女の巡礼二人。「ここで食事にしよう」少女は水を汲みに行く。ひとり残る老人の背後に侍の影。机竜之助である。なんと竜之助、いきなり刀を抜いて老巡礼を斬り捨てる。無言で去る竜之助。戻ってきて遺体にすがって泣く少女。
うーむ、アブナ過ぎるぞ机竜之助。こいつは手当たり次第に人を斬るのか? 巡礼を斬った理由はまったく説明されないので、観客はびっくりである。それから竜之助は家に帰り、病床にある父と話をする。彼は試合を控えているが、実力からして竜之助の勝ちは明白。しかし彼が勝つと相手の家は潰れてしまうので、勝ちを譲ってやれと父は説得する。しばらくすると試合相手の女房お浜(新珠三千代)がやってきて、やはり勝ちを譲ってくれと頼む。竜之助は代償に彼女の体を要求し、水車小屋で彼女をてごめにする。そして試合の日、竜之助は平然と約束を破って相手を殺してしまう。なんて奴だ。そして復讐にやってきた相手道場の連中を余裕で全員斬り殺してしまう。死体がごろごろ転がる中、彼はニヒルに歩み去る。うーむ、悪い奴だがカッコイイぞ、机竜之助。
そこから物語は数年後の江戸へ。竜之助は金をもらって人斬りをしながら、次第に新撰組の活動に巻き込まれていく。一方、試合で兄を殺された宇津木兵馬(加山雄三)は江戸で島田虎之助(三船敏郎)の道場で修業しながら、いつか竜之助に仇討ちをしようと誓っている。兵馬はやはり竜之助に殺された老巡礼の孫娘、お松と知り合って恋仲になる。ところでお松の後見人であるやさしいおじさん七兵衛(西村晃)は実は盗賊なのだった……と、波乱万丈の大衆小説(を原作とする映画)に恥じない盛りだくさんな展開をする。
机竜之助の必殺技は「音なしの構え」。奇妙な構えから剣を繰り出して敵を斬る。なんでも、わざと隙を見せて、そこに打ち込んできた相手のカウンターを取る、という高度な剣法らしい。しかし音なしの構え、かなり変である。私も剣道をやるから分かる。この構え、タンチョウ鶴の姿からヒントを得て殺陣師が考案したらしい。
この「音なしの構え」もそうだが、この映画では殺陣が非常にカッコイイ。最初の試合のシーンもそうだし、中盤の竜之助と兵馬の竹刀での試合もそうだが、ここぞというところで一瞬チラッと決めのショットが入る。ほとんど目にも止まらないショットだが、それが緊張感とすさまじい剣技の応酬を表現していて見事。勝負が決まる瞬間はいつもほとんど目に見えない。
モノクロ映像の美しさも『侍』同様素晴らしい。虚無的な剣士・机竜之助の物語は冴え冴えとして『侍』ほどウェットにはならず、また仇討ちを目指す兵馬やお松との恋などサブプロットもワクワク感があって楽しい。ちなみにお松を演じているのは黒澤の『赤ひげ』でも加山雄三の結婚相手として出てくる内藤洋子だが、やはり可愛い。『赤ひげ』を見た時からひそかにファンだった私としては彼女が見れて嬉しかった。もちろん仲代達矢、三船敏郎、加山雄三の三つ巴もゴージャス。
という風に素晴らしい映画なのだが、残念なのはプロットが破綻していること。「なんでここで終わんねん!?」という中途半端な終わり方をしてしまうのだ。まあ斬り合いの最中で終わってしまうのはまだいいとしても、加山雄三の仇討ちはどうなってしまったのだ? いい具合に盛り上がったままフォローなしで終わってしまう。残念。DVD特典で説明があるが、本当はこの後のシーンも撮影されていたらしい。斬り合いを終えて、満身創痍となった竜之助が川べりに倒れていると、通りかかった老巡礼が介抱してくれる。つまり、冒頭で竜之助が斬った巡礼と照応しているわけだ。竜之助は巡礼がはずしている間に姿を消し、更なる虚無の彷徨が暗示されて終わる。というのが当初の案だったらしい。
しかしその案でも加山雄三の仇討ちとか恋の行方はフォローされていない。やっぱり、これだけたくさんのサブプロットを盛り込んだら三部作ぐらいにしてくれないと物足りない。このキャストで内田吐夢バージョンのように三部作を作ってくれたら、どれほど素晴らしいものが出来ただろうか。
これも岡本喜八の時代劇。主演は仲代達矢。原作は世界最長を目指して延々書きつがれたが未完になってしまったという長編時代小説。時間があれば読んでみたいが、しかし長そうだなあ。
主人公・机竜之助が仲代達矢だが、ニヒルである。映画が始まるとある晴れた日、大菩薩峠を越えようとする老人と少女の巡礼二人。「ここで食事にしよう」少女は水を汲みに行く。ひとり残る老人の背後に侍の影。机竜之助である。なんと竜之助、いきなり刀を抜いて老巡礼を斬り捨てる。無言で去る竜之助。戻ってきて遺体にすがって泣く少女。
うーむ、アブナ過ぎるぞ机竜之助。こいつは手当たり次第に人を斬るのか? 巡礼を斬った理由はまったく説明されないので、観客はびっくりである。それから竜之助は家に帰り、病床にある父と話をする。彼は試合を控えているが、実力からして竜之助の勝ちは明白。しかし彼が勝つと相手の家は潰れてしまうので、勝ちを譲ってやれと父は説得する。しばらくすると試合相手の女房お浜(新珠三千代)がやってきて、やはり勝ちを譲ってくれと頼む。竜之助は代償に彼女の体を要求し、水車小屋で彼女をてごめにする。そして試合の日、竜之助は平然と約束を破って相手を殺してしまう。なんて奴だ。そして復讐にやってきた相手道場の連中を余裕で全員斬り殺してしまう。死体がごろごろ転がる中、彼はニヒルに歩み去る。うーむ、悪い奴だがカッコイイぞ、机竜之助。
そこから物語は数年後の江戸へ。竜之助は金をもらって人斬りをしながら、次第に新撰組の活動に巻き込まれていく。一方、試合で兄を殺された宇津木兵馬(加山雄三)は江戸で島田虎之助(三船敏郎)の道場で修業しながら、いつか竜之助に仇討ちをしようと誓っている。兵馬はやはり竜之助に殺された老巡礼の孫娘、お松と知り合って恋仲になる。ところでお松の後見人であるやさしいおじさん七兵衛(西村晃)は実は盗賊なのだった……と、波乱万丈の大衆小説(を原作とする映画)に恥じない盛りだくさんな展開をする。
机竜之助の必殺技は「音なしの構え」。奇妙な構えから剣を繰り出して敵を斬る。なんでも、わざと隙を見せて、そこに打ち込んできた相手のカウンターを取る、という高度な剣法らしい。しかし音なしの構え、かなり変である。私も剣道をやるから分かる。この構え、タンチョウ鶴の姿からヒントを得て殺陣師が考案したらしい。
この「音なしの構え」もそうだが、この映画では殺陣が非常にカッコイイ。最初の試合のシーンもそうだし、中盤の竜之助と兵馬の竹刀での試合もそうだが、ここぞというところで一瞬チラッと決めのショットが入る。ほとんど目にも止まらないショットだが、それが緊張感とすさまじい剣技の応酬を表現していて見事。勝負が決まる瞬間はいつもほとんど目に見えない。
モノクロ映像の美しさも『侍』同様素晴らしい。虚無的な剣士・机竜之助の物語は冴え冴えとして『侍』ほどウェットにはならず、また仇討ちを目指す兵馬やお松との恋などサブプロットもワクワク感があって楽しい。ちなみにお松を演じているのは黒澤の『赤ひげ』でも加山雄三の結婚相手として出てくる内藤洋子だが、やはり可愛い。『赤ひげ』を見た時からひそかにファンだった私としては彼女が見れて嬉しかった。もちろん仲代達矢、三船敏郎、加山雄三の三つ巴もゴージャス。
という風に素晴らしい映画なのだが、残念なのはプロットが破綻していること。「なんでここで終わんねん!?」という中途半端な終わり方をしてしまうのだ。まあ斬り合いの最中で終わってしまうのはまだいいとしても、加山雄三の仇討ちはどうなってしまったのだ? いい具合に盛り上がったままフォローなしで終わってしまう。残念。DVD特典で説明があるが、本当はこの後のシーンも撮影されていたらしい。斬り合いを終えて、満身創痍となった竜之助が川べりに倒れていると、通りかかった老巡礼が介抱してくれる。つまり、冒頭で竜之助が斬った巡礼と照応しているわけだ。竜之助は巡礼がはずしている間に姿を消し、更なる虚無の彷徨が暗示されて終わる。というのが当初の案だったらしい。
しかしその案でも加山雄三の仇討ちとか恋の行方はフォローされていない。やっぱり、これだけたくさんのサブプロットを盛り込んだら三部作ぐらいにしてくれないと物足りない。このキャストで内田吐夢バージョンのように三部作を作ってくれたら、どれほど素晴らしいものが出来ただろうか。
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