アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

21グラム

2008-11-05 21:16:19 | 映画
『21グラム』 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督   ☆☆☆☆

  ベニチオ・デル・トロが出ている映画を観たくてDVDを購入。大傑作とは言わないが、なかなか見ごたえのある映画だった。渋くて重い。かなりメランコリックで気分が滅入る物語だけれども、スタイリッシュな映像と手法が静謐な美しさを醸しだしている。

 タイトルの「21グラム」とは、人間が死ぬと体が21グラムだけ軽くなる、というホントか嘘か分からないような話に基づいていて、つまり人間の魂または生命の重さ、ということらしい。ただ映画は別に神秘的とか幻想的とかいうことはなく、こってり濃厚な人間ドラマである。登場人物は降りかかる不幸に耐え、ひたすら苦悩しなければならない。ああ人生ってつらい。

 主要な登場人物は三人、数学者ポール(ショーン・ペン)、そこそこ裕福な主婦クリスティーナ(ナオミ・ワッツ)、前科者ジャック(ベニチオ・デル・トロ)。ポールは心臓病を患っていてもう一ヶ月以内に死ぬという状態、どうしても子供が欲しい妻のために人工授精に合意する。クリスティーナは夫と娘二人に囲まれて幸せに暮らし、前科者のジャックはキリスト教にすがって更正しようと努力中。その時ジャックのトラックが不注意でクリスティーナの夫と娘二人をはね、娘二人は死亡、夫は脳死状態となる。そして夫の心臓がポールに提供され、ポールは助かる。新しい人生を得たポール、悲しみと絶望のどん底のクリスティーナとジャック。ポールは探偵を使って臓器提供者の素性を調べ、未亡人であるクリスティーナに近づく。クリスティーナはジャックを憎み、彼に殺意を抱く。こうして三人の人生と運命は複雑に絡み合っていく。

 特徴的なのは編集。三人の話が時系列に進んでいかず、シーン一つ一つがほぼ完全にランダムにシャッフルされている。ポールが病院で寝ていたと思ったら次のシーンで元気に歩き回っていたり、ジャックが働いていると思ったら次のシーンで牢屋にいたりする。ポールとクリスティーンは後に愛し合うようになるが、この編集のため誰がポールの妻なんだか最初は良く分からない(映画の冒頭はポールとクリスティーンが同じベッドにいるシーン)。従って上のようなあらすじは観ている間は分からず、最後まで観てようやくつながることになる。特に映画の前半は分かりづらい。観客はジグソーパズルのように断片をつなぎ合わせていかなければならない。この手法は賛否両論だと思うが、分かりづらい代わりにそれぞれのシーンにミステリアスなムードと、ピンと張りつめたような緊張感がもたらされていて、これはこれで悪くない、むしろこの映画では成功していると私は思う。同じ断片が何度か繰り返されることで強烈な悲劇の感覚が強調されたりする。この手法によってこの映画は単に重苦しい苦悩のドラマであることを脱却し、人生とは断片の積み重ねであり、羽のように移ろいやすいものであり、神秘的なものであり、迷宮の如き摩訶不思議なものであるというメタフィクショナルな感覚がもたらされている。ただし、ぼーっと観ているとわけ分からない映画であるには違いない。

 そしてこの三人の演技がまたそれぞれに素晴らしい。というか三人の演技がしっかりしているからこそこういう分かりにくい手法が成立したともいえる。ショーン・ペンもナオミ・ワッツも見事だったが、デル・トロ見たさに鑑賞した私としてはやはりデル・トロの演技と存在感にやられた。いやー、この人はマジで渋すぎる。特にハンサムというわけでもないのに、あのオーラの凄さは一体なんなんだろう。額のシワと目の下のクマのせいだろうか? ちなみにこの映画では白髪まじりの長髪と短く刈り込んだ短髪を見せてくれるが、やはり長髪の方がかっこいい。
 


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