アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

ローズ・マダー

2008-11-07 22:14:04 | 
『ローズ・マダー』 スティーヴン・キング   ☆☆

 本棚の整理をしていたら出てきたのでつい再読。キング作品の中ではマイナーな作品だろう。映画化もされてないし。

 一応、暴力夫から逃げ出した妻とそれを追うサイコな暴力夫しかも刑事、という分かりやすいプロットである。シンプルでありがちだか例によって粘着質な書き込みで迫力を増すキング・メソッドによりページターナーぶりを発揮する。が、そこにいきなりファンタジーが放り込まれる。暴力夫から逃げ出し別の町で人生をやり直そうとするロージーが一枚の絵を買う。するとその絵がだんだん変貌していき、しまいには絵の中に入っていけるようになる。絵の中にはローズ・マダーというロージーそっくりの、でも不気味な「女王」がいるのだった。ってあのねえ。

 リアルなサスペンスものであるサイコ暴力夫プロットとファンタジーである「不思議な絵」プロットが水と油である。途中でロージーが絵の中に入っていき、いきなりファンタジーになってしまうところでアホらしくなる。いや、サイコサスペンスとダークファンタジーを結びつけようというアイデアが悪いとは言わない。例えば、「不思議な絵」プロットも暴力夫と同じ比重をかけて徐々に盛り上げ(楳図かずおみたいに) 、その挙句に暴力夫とローズ・マダーがぶつかり合うようにすれば面白くなったかも知れない。しかしそもそもキングのファンタジーには「善なるものは最後に奇跡が起きて救われる」的な子供騙しの部分があり、非常に薄っぺらい。おまけにこの小説ではファンタジー世界の設定や作りこみがあまりにもいい加減で、ほとんど「ちゃんと考えてないだろうお前」と言いたくなる。必然的に、読んでる方もまじめに読む気がしなくなる。絵の中で起きる出来事はルールやロジックがまったく不明、登場人物の言動も思わせぶりなだけで、他とつながっていかない。行きあたりばったりに書いているとしか思えない。無論、意味が分からないが故に凄いというシュルレアリスム小説のような幻想美はなく、ハリウッド製ファンタジー映画の書割のような安っぽさだ。

 キングは『小説作法』の中で、「あまり成功していない」作品として本書を上げている。その通り、はっきり言って駄作である。が、その理由を構想に頼ったせいだとしている。冗談としか思えない。この本のいわゆる「ダーク・ファンタジー」パートに一体どんな構想があるというのだろう。私にはキングの「行き当たりばったり」方式が裏目に出た結果としか思えない。


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