アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

ミンボーの女

2007-01-15 11:00:50 | 映画
『ミンボーの女』 伊丹十三監督   ☆☆☆☆

 DVDを購入して鑑賞。伊丹十三監督の映画は好きでほとんど観ているので、この映画ももちろん初見じゃない。私は監督の趣味性とマニアックさが炸裂している『たんぽぽ』が一番好きだが、この『ミンボーの女』も面白い。知らなかったが、伊丹監督作品の中で興行成績が一番いい映画らしい。

 ヤクザの話である。といっても伊丹監督が撮って任侠映画になるはずもなく、ヤクザのゆすり、たかりの手口とその対処法を盛り込んだ得意の「マニュアル」映画になっている。
 はっきり言って恐い。はんぱなホラー映画なんて足元にも及ばないくらい恐い。ヤクザに目をつけられ、金をむしりとるべく絡まれたらこんなことになるのかと思うと血も凍る恐さだ。特に伊東四朗が恐い。あの太い首とガメラのような顔がもうメチャメチャ恐いのである。

 ヤクザが出入りするホテルがヤクザを追っ払うべく特別チームを編成する。チームは大地康雄と村田雄浩の二人。この二人が色んなヤクザに絡まれ脅されて金を払わされる前半が、「悪い対応篇」。大地康雄はストレスのあまり血のションベンをし、ここに至ってようやくプロ=宮本信子演ずる井上まひる弁護士が登場する。ここからの井上まひるの活躍が「良い対応篇」。

 色んなヤクザの手口が紹介されている。古典的な「食べ物にゴキブリが入っていた」詐欺。わざと荷物を忘れて別人に取りに行かせ、あとで本人が出て行って因縁をつける「おれの大事な荷物を他に人間に渡したな」詐欺。賭けゴルフをやってわざと大金を振り込み、「賭博は犯罪だよ」と言ってゆする賭けゴルフ詐欺。ホテルの工事に公害だといってイチャモンをつけるエセ住民運動。それに対する心構えとしては、「ヤクザの呼び出しに応じて出かけていってはいけない」「詫び状を書いてはいけない」「ヤクザと会うには向こうより大人数で会う」などなど。
 この中には私も実生活で聞いたことのある手口がある。ゴルフ詐欺である。以前会社の上司が話していた。こんな風にからまれるかわいそうな人が本当にいるのである。そう思うとますます恐い。私はゴルフをしないので大丈夫だが、ゴルフ好きの人、知らない人から「どうです、ちょっと握りませんか」なんて言われても乗らないようにしましょう。

 しかし特にかわいそうなのが、伊東四朗演ずるヤクザ「入内島」につけ回されるホテルの総支配人である。賭けゴルフではまり、のこのこバーに出かけて行って眠らされ、バーをメチャメチャにしたといって脅される。素っ裸にされてあそこをちょんぎるなどとチンピラ達からさんざん脅され、自我が崩壊したところで入内島が「やめろ。大事なお客様になんてことするんだ」とおもむろに出てくる。すべては仕組まれているのだが、こうなったらもう入内島に泣きついて「なんでも言うとおりにしますぅ~」と言うしかない。請求金額5千万。ああ恐い。
 
 しかしこの総支配人、前半は大地康雄と村田雄浩の二人がヤクザ対応に苦慮しているのを、だらしないだなんだとえらそうに怒鳴っていた。そう考えると情けない奴である。

 今回再見してみて、井上まひるがガッツ石松のヤクザをプールから追い出す冒頭シーンとか、父親の回想をするシーンなど、芝居がかっていてちょっとクサイなと思う部分もあった。これが監督伊丹十三のせいか役者宮本信子のせいか分からないが、そういう意味での通俗性は確かにある。芸術性という意味では、伊丹映画はたけし映画にはかなわないと思う。しかし娯楽映画としては充分良い出来だ。


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