アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

Words

2011-07-15 19:44:51 | 音楽
『Words』 F. R. David   ☆☆☆☆

 F. R. David。最近の若い皆様はこの人をご存知だろうか。1980年代に「Words」という世界的なヒットを放ったフランスのシンガー・ソングライターである。その後名前を聞かないので一発屋のイメージがあるが、音楽活動は細々と続けているらしい。残念ながら私はその後の活動をフォローしていないので、知っているのはこの「Words」というアルバムだけだ。

 しかしこのアルバムはなつかしいなあ。昔アナログ盤で持っていた。ラジオの深夜放送で「Words」を聞き、たちまち甘いロマンティックな響きに魅了され、アルバムを買ったのである。全曲英語の歌詞だが、そこはやはりフランスっぽさが漂っている。エレガンスってやつだ。甘美で、センチメンタルで、音の響きが柔らかい。サウンドはシンセサイザー主体のごくシンプルなものだが、それがかえってキャッチーなメロディを引き立てている。「Words」や「Music」「Porcelain Eyes」みたいな切ないバラード曲が本領発揮だが、アップテンポな曲もどこか品がいい。

 この人のヴォーカルがまた甘くて繊細で、へなへなしていて、とにかく耳に優しい。思春期の少年みたいなイノセンスがある。囁くような軟弱な歌唱法も独特で、そういう意味では個性的なシンガーといっていいだろう。聴けばすぐ分かる。写真ではサングラスをかけてちょっとグラハム・ボネット似だが、声は似ても似つかない。グラハム・ボネットの対極に位置するヴォーカリストといっても過言ではない。

 甘くてセンチメンタルなだけの薄っぺらなポップス、といわれればまあそうかも知れない。しかし私がこのアルバムを好きなのは、静かな曲ばかりでもないのになぜか深夜に聴くとよく似合うのである。内省的で、どこか孤独。この透明感のあるシンセサイザーのせいか、優しい声のせいか、はたまたメロディのせいか分からないが、どの曲にも不思議な静謐さがある。そしてこの素直さ。夜中に聴いていると、まるで10代の頃の、四六時中恋ばかりしていた切なくも幸福な時間に引き戻されるような気分になる。ひねこびたジャズやロックではこういう気分にはなれない。

 しばらく前、私はこのCDを探したが見つからず、唯一『ワーズ2000』という企画盤みたいなものを見つけて入手したことがあるが、あれはひどかった。名曲「Words」のリメイクも入っていたが、オリジナルの持つ上品な静謐さはかけらもなくなっていて、安っぽいガラクタと化していた。すぐに処分してしまったが、最近この『Words』オリジナル盤をiTuneで見つけて購入したのである。やはり、このオリジナル・アルバムの方がはるかに良い。


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