アブソリュート・エゴ・レビュー

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ハッサン・サラーの反逆

2008-04-18 20:22:18 | 刑事コロンボ
『ハッサン・サラーの反逆』   ☆☆☆

 刑事コロンボ第33番目のエピソード。シーズンで言うと第5シーズンということになるが、宝島社の『刑事コロンボ完全捜査記録』によれば、第5シーズンの6作はすべて<いつもと違うコロンボ>というコンセプトで制作されたらしい。なかなか興味深い。ちなみに6つのエピソードを順にあげると、『忘れられたスター』『ハッサン・サラーの反逆』『仮面の男』『闘牛士の栄光』『魔術師の幻想』『さらば提督』。で、この『ハッサン・サラーの反逆』で試みられた「いつもと違う」アイデアは「治外法権」である。

 事件はスワリ国総領事館内で起きる。総領事代理のハッサン・サラーは職員のハビブを共犯に使って警備隊長を殺し、過激派学生の仕業に偽装し、その後でハビブに罪を着せて殺してしまう。コロンボは現場の緻密な観察からハッサン・サラーが犯人と確信するに至るが、サラーは外交官特権により逮捕ができない。国務省の役人は「サラーが有罪であっても手を出すな」と言ってくる。どうするコロンボ?

 第6シーズンあたりになると露骨にコロンボのキャラクターによりかかった作劇が多くうんざりするが、第5シーズンあたりではまだそれほどひどくない。コミカルな描写も多いがすっきりしていて効果的だ。このエピソードではコロンボがサラーの衣装の裾を踏んづけて破く、というベタなギャグが何度も出てくるが、「ビリーッ!」という派手な効果音で思わず笑ってしまう。それから美術品が陳列してある部屋でコロンボが高価な壷によりかかって落っことしそうになり、サラーが青ざめるシーンもかなりおかしい。見ているこっちも思わず「ああー!」と声が出そうになる。

 肝心の推理部分だが、なかなか緻密で良く出来ている。警備隊長が拳銃を抜いていないことに始まり、頭の後ろを殴られていることなどから内部の犯行と見破る。特に、爆発で天井から落ちた漆喰が書類の上に落ちていることから、金庫は爆発の前に開けられていた、という部分の観察が細かい(書類は金庫の中に入っていたもの)。この「何かの上に何かの破片が落ちている」パターンは『古畑任三郎』でもよく使われていた。それから警備隊長がコーヒーに口をつけていないことから、犯行時刻に彼は自分の部屋にはいなかったとする推理も面白い。

 と、終盤まではなかなかいい感じで進むのだが、最後が弱い。というのは、最後は「外交官特権の持ち主であるサラーをどうやって逮捕するか」という点に興味が移ってしまい、犯行の立証がおざなりになってしまうのだ。コロンボはサラーに謝罪に来たといい、やったのは分かっているが逮捕できない、と白旗をあげてサラーを安心させる。コロンボがそこで最後に指摘するのは車の距離計だが、これは単なる状況証拠の一つであって、いつものように決め手となるものではない。しかしサラーは安心してなんとなく犯行を認めてしまい、それを国王に聞かれてしまう。コロンボは国王の協力を得てサラーに自白させ、サラーがスワリ国の裁判にかけられるように持って行くのである。自国の裁判では首を刎ねられてしまうサラーはコロンボに、外交官特権を放棄するから逮捕してくれと頼むことになる。

 従って、いつものように最後に決め手となる証拠を突きつけて落とす、という緊張感と快感がない。個人的にはこれが本エピソード最大の欠点である。尻すぼみって奴だ。しかし国王に話を聞かれたと知ってからのサラーは惨めで、またコロンボも「国務省もうるさいですしねえ。自国で裁判を受けられた方がいいんじゃないですか?」なんて言っていけずなところを見せる。それまでさんざん威張られた仕返しか?

 ところでコロンボはこのエピソードの中でタキシード姿を披露するが、なかなか似合っていてカッコイイ。さすがピーター・フォーク、名優だけのことはある。


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