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アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

座頭市関所破り

2014-03-03 22:52:04 | 映画
『座頭市関所破り』 安田公義監督   ☆☆☆★

 シリーズ第9作目。宿場町にやってきた座頭市、横暴なヤクザと権力者の結託、虐げられる町の人々、清純なヒロインの苦難、と完全にいつものパターンで、いかにもプログラム・ピクチャーではあるものの、丁寧に作られた時代劇が持つ情緒とたたずまいがあって、好感度は高かった。時期的に年末年始の物語で、師走のあわただしい宿場町の風情が出ているところがいい。正月の稼ぎを当て込んで町に集まってくる芸人たちの賑やかさや、市をサポートするのが子供の獅子舞兄弟、なんてところに趣がある。クライマックスの市の関所破りが除夜の鐘が鳴る中行われる演出も、抒情的でよい。最後、市は初日の出を見ながら去ってゆく。

 それからヒロイン、高田美和の気品ある佇まいがグッド。凛とした清らかさで画面を引き締めている。この女優さんは他の座頭市作品にも良く出てくるが、このヒロインは特に印象深かった。そしてクライマックスの市の関所破りが、この監禁された高田美和を救い出すため、という流れが個人的には美しく感じられた。単なる私の好みと言われればその通りだ。

 そして、市の実の父親かと思わせる、アル中おやじ義十の登場もなかなか複雑な味わいを醸し出す。これがもうものすごいリアリティのあるアル中おやじで、人がいいような卑屈なような狡猾なような、なんとも奥行きのある芝居を見せてくれる。こんなじいさん今じゃ絶滅種かも知れない。市はこの義十を自分の父親ではないか、と思って動揺するのだが、そんな市がいつになく寄る辺ない風情を見せて悪くない。「似てるな…でも…違うな…」と一人で呟く市。超人・座頭市もやはり人の子である。市のこの、義十への特別な感情は最後に哀しい結末を迎えることになる。

 敵方の用心棒を演じるのは平幹二朗。それほど個性的でもないが、座頭市シリーズ定番のヒリヒリした剣客を危なげなく演じている。まあ、こういったキャラクター達と師走の宿場町の喧騒、情緒が渾然一体となって、なかなかのケミストリーを醸し出していると思う。映像にも格調があって見ごたえがある。時代劇はこうでなくっちゃ。

 で、ストーリーは特にどうってことないので省略。ただ、本作のストーリーを突っ込んでいる人がネットに散見されるが、あまり同意できない。たとえば、旅の途中で殺された庄屋の殺害犯を島流しにしたなら裁判が行われたはずなので、娘は知っているはず、という指摘があるが、果たしてそうだろうか。江戸時代の裁判制度に私は詳しくはないが、TVとネットでニュースが見られる現代じゃないんである。離れた土地で殺された父親のことを娘が知らないってこともあるんじゃないか。そもそも悪代官がちゃんと裁判するかも分からない。どんなシステムがあるにせよ、人間がやることなんて結構いい加減なものだ。それに、そういう些事ばっかりきちんと辻褄合わせた映画に限って、あんまり面白くなかったりするんだよな。

 肝心の市の殺陣もかなりかっこいい。宿屋での一瞬の階段手すり斬り(女を追いかけるヤクザがわあと言って転がり落ちる)。賭場でのサイコロ割り。そして将棋盤割り(平幹二朗の浪人と市が同時に居合いを一閃、市の袖が斬られる。市は仕込みを収めて去る。浪人の雇い主が将棋盤に駒を打つ。将棋盤が二つに割れてヤクザ達わあと驚く)。

 傑出した出来とは言わないが、手堅く愉しませてくれる一篇である。



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