アブソリュート・エゴ・レビュー

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大魔神怒る

2007-09-04 21:36:04 | 映画
『大魔神怒る』 三隅研次監督   ☆☆☆★

 大魔神二作目。これはちゃんと観たのは今回初めてだった。前回は山だったが、今回は湖が舞台となっている。大きな湖をはさんだ二つの国で物語は展開する。湖、島、なかなか雅な光景だ。湖の中に神の島という島があり、そこに例によってハニワ像がある。だから舟で湖上を行き来するシーンが多いが、湖の上をもやが漂っていたりして神秘的なムードを醸し出している。やはり一作目と同じく神への畏れがテーマになっていて、妖しくも敬虔な雰囲気が映画を通して漂っている。

 湖の両側の国は言ってみれば兄弟分で平和ないい国だったが、その向こうにあるワルい殿様の国が攻めてきて片方の国を略奪する。ハンサムな若殿は神の島に逃げる。ワル殿はもう一方の国も襲い、そっちの殿様を殺してしまう。この国の姫は若殿のいいなずけだが、これを『寅さん』シリーズでマドンナをやったこともある藤村志保が演じている。この人はそれほど美人じゃないが、清楚な雰囲気があってこの映画のヒロインにはぴったりだ。

 さて姫は例によって神にすがり、ワル殿に神を畏れるようにいう、すると神を信じないワル殿は神の島に部下を派遣し、爆弾でハニワ像を木っ端微塵に吹き飛ばしてしまう。前作では杭を打ち込んで壊そうとするだけだが、今回は粉々にしてしまうのである。ハニワ像は跡形もなくなってしまう。なんというバチあたりな行為だろうか。私も神を信じてはいないがさすがにこれは心配になる。その後も鳥居を壊したり鐘を壊したりと、冒涜行為は一作目よりエスカレートしている。神をも恐れぬ行為とはこのことだ。しまいには「わしは神より強いのだ」などとうそぶく。ろくな死に方をしないのはもう目に見えている。

 さて、若殿がやられそうになったり一時逆転しそうになったり、途中経過は一作目より複雑だが、結果的につかまって全員処刑場に並べられる。一段高いところに設置された火あぶり台には、藤村志保の姫がくくりつけられる。火がつけられる。十字架にかけられた姫の火あぶり。残酷だけれどもなかなか荘厳で、ちょっとだけエロチシズムも感じられるなかなかいいクライマックスである。そしていよいよ大魔神の登場。

 今回ハニワ像はすでに粉々になっている。一体どうやって登場するのかと見ていると、神の島の沖でぶくぶくと泡が立ち、粉々になったはずのハニワ像が五体満足で浮上してくる。舟の乗ったワル殿の家臣達は阿鼻叫喚。ハニワの何も考えてない顔が怒りの形相に変化する。出ました大魔神。そして驚くなかれ、湖の水が二つに割れ、両側から滝のように流れ落ちる壮大な光景の中を、大魔神は歩いて処刑場までやってくる。これは間違いなくモーゼの『十戒』である。しかしこの光景に大魔神がすごく似合うのは一体どういうわけだろうか。やはり神様だからか。

 この湖が割れるシーンは相当見ごたえがある。そして処刑場に現れた大魔神、例によって黙々と殺戮を開始する。悪者達は右往左往して逃げ惑うが、やはり前作と同じく途中で反撃しようとする。今回はハニワを爆破した火薬を使い、大魔神を木っ端微塵にしてしまおうとする。そこでワル殿の腹心が言うには「あんな妖怪、吹き飛ばしてやります」神様を妖怪よばわり。
 しかし今度は爆薬も通じない。大魔神には何をやっても無駄らしい。結果的にワル殿は逃げ出そうとした舟のマストに紐がこんがらがって磔の形になり、そのまま燃え上がって火あぶりになってしまう。どうも『大魔神』シリーズでは、悪者は善玉にやろうとしたことを自分がやられてしまう運命にあるらしい。恐ろしいまでに正確な因果応報である。目には目を、歯には歯を。

 しかし今回の大魔神は善人には優しい。十字架にしばりつけられた藤村志保はやさしく助けてあげたりする。「善人とか悪人とか別にどっちでもいいけんね」とばかりに暴れまくった一作目とはかなり違う。これはやはり、前回は魔神と武人像という二つの存在がオーバーラップしたような存在だったのに対し、今回は純粋に大魔神=神様の化身だからだろう。そういう意味では、人智を超えた恐ろしさをまとっていた前作の大魔神より分かりやすい「正義の味方」となっており、深みには欠けるかも知れない。

 しかし『大魔神』シリーズで人々が畏れる「神」とは、仏教とかキリスト教とかの神ではなくもっと原始的な宗教感情に根付いた曖昧なもので、いかにも日本的だ。武人像や鐘が破壊されたりすると、私もつい「バチがあたるぞ」と思ってしまうが、こういう日本人的な心情の延長線上に大魔神は現れる。この『大魔神』シリーズがどこか神話性を帯びているのはそこいらへんに原因があるのではないだろうか。


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